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第九話:交わる二つの「魔法」




「おばあちゃん!見て、見て!」



 リィナはアルトの手を引いて、

小走りで館へと戻った。



 昼食の支度をする老婆の前で、

リィナは誇らしげに小さな火を灯してみせる。



「なんと…。召喚魔法以外の魔法を...」



 老婆は驚きに絶句したが、

すぐにその表情は喜びに変わった。



「ほんとうにすごいことだ、おめでとう」


(この少年は…アルトは、

本当に運命を変えてしまうのかもしれないねぇ)



 そんな二人のやり取りを笑顔で見ていた

アルトは、本題に入るために真剣な顔になる。



 リィナに向き直って、問いかけた。



「ねえ、リィナ。

 さっき詠唱して火を出したとき、

あの『ぐわん』って感覚はあった?」


「え……?」


 リィナは指先を見つめ、

記憶を辿るように小首をかしげた。


「なかったかも。

 …ううん、あったのかもしれないけど、

ほとんど感じなかったわ。

 召喚魔法のときとは全然違う、

もっとずっと静かな感じ」


「やっぱり...」


 顎の下に手を当てながら考え込むアルト。


「火が小さかったから、

ほとんど感じなかったのかな?」


「僕もそう考えたけど、

もしかしたら違う理由があるのかも」

「どういうこと?」


「リィナは、石じゃなくて、

もっと小さいものを召喚するとき…

 例えば、木の枝とか髪の毛一本とか、

そういう時も『ぐわん』ってなる?」


「なるよ、もちろん。もっと小さい頃は、

些細なものを呼ぶだけでも結構疲れてたし。

 今はもう慣れちゃったけど、

あの感覚は小さくなってもなくなりはしない…」



 アルトは納得したように頷き、

リィナも言い終えて自ら理解した。


「そうなんだよ。

 僕は学校で魔法を教わって、何もないところから

火が出るのは当たり前だと思ってた。

 だって魔法だもん、不思議なことが起きて

当然だって」


 アルトは一度言葉を切り、

テラスの向こうに広がる神子の森を見渡した。


「だけどこの時代に来て、リィナの魔法を見て、

そうじゃないって分かったんだ。

 多分、魔法っていうのは、人の中にある

見えない力が、形を変えて世界に飛び出す

…んじゃないかな。

 だからその形には強い個性があって、

普通は一人一個しか持てない。

 リィナにとって、それは召喚魔法だったみたいに」


「……人の中の力……」


「僕たちの時代の魔法は、そうじゃないんだ。

 力は使われてるはずだけど、使ってる本人にも

分からないくらい勝手に、滑らかに使われる。

 詠唱を通して、個性もなくして、誰にでも

扱えるようなってる。

 だから、みんな魔法が使えるんだと思うんだ。

…合ってるかわからないけど。」


 アルトの瞳に、知的な熱が宿る。


「もしさ、全然違う二つの魔法だけど。

リィナたちの持ってる『魔法』と、

僕たちの時代の『魔法』が混ざったら、

もっとすごい魔法ができるんじゃないかな?

良いところだけを取り合えれば、

もっと、強い魔法が――」



 アルトの胸の奥で、冷たい風が吹いたような感覚が走った。



(……ああ、そうか)


 

 「強い魔法」が必要な理由。



 それは、リィナと笑いながら庭で火を灯すためじゃない。


 あの、血と泥にまみれた戦場へ戻るため。

自分たちを殺そうとしたあの化け物たちと、

もう一度対峙し、殺すため。


 十歳の少年には、あまりにも重すぎる現実。

 一瞬、足が震えそうになった。

 逃げ出したい、このまま戦場なんかに行かず、

この森で三人で暮らしたい、

そういう弱さが頭をよぎる。



 だが、いくら逃げ隠れても、いずれここにも

魔族が侵略してくる。



 三人で過ごしたこの大切な場所も、

踏み荒らされる。



 アルトは、震えを飲み込むように

自分の両手を強く握りしめた。



「…僕は、やるよ。リィナ」



 不安は消えない。

 けれど、その瞳からは迷いが消えていた。



「生活魔法だけじゃ、あそこで何もできなかった。 でも、もし僕とリィナの力が合わされば、

今度は、戦えるかもしれない。

 だから、やろう。二人で」



 アルトの決意を込めた言葉に、

リィナは静かに、しかし深く頷いた。

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