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英霊少年〜三百年前に転移した少年が魔法理論を解明する成長譚〜  作者: 仁見ヒロ


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第八話:その手に触れて、渦に呑まれて




「ねえ、リィナ。

 やっぱり昨日言ってた『お腹のぐるぐる』、

僕にはどうしても分からないんだ」



 翌朝。陽光が差し込む庭で、アルトは真剣な顔で切り出した。


 一晩考えたが、アルトにとっての魔法では、

いくら使ってもリィナが言う野生的な感覚はなく、

未知の領域だった。



「うーん……。じゃあ、こうしてみる?」



 リィナがふと思いついたように、アルトの右手を取った。


「えっ…?」

「こうして手を繋げば、

私が魔法を使う時のぐるぐるが、

アルトにも伝わるかもしれないでしょ?」


 リィナは至って真面目だが、アルトは自分の心臓が跳ねるのを感じた。



 昨日の夜は自然に手を重ねていたのに、今日は何か変だ。


 なぜだかわからないが、鼓動が高鳴る。



(……リィナの手、僕より少しだけ小さくて、柔らかい)



 そんな、魔法とは何の関係もない思考が頭をよぎる。

 これが「恋」だと気づくには、アルトは少しだけ幼すぎた。


 そんな気持ちを隠すように、彼は精一杯『修行の顔』を作った。



「う、うん。分かった。やってみよう」

「いくよ。……集中してね」



 リィナは片手をかざし、目を閉じて、深く息を吐き出す。



――ドクンッ!!



 次の瞬間、アルトの意識は、甘酸っぱい緊張から

一気に引き剥がされた。


 心臓の鼓動とは違う、もっと深い場所。

 魂の底を直接、巨大な槌で叩かれたような衝撃が、アルトを突き抜けた。



 ぐわん、と歪んだ視界で、一抱えの石が召喚される。

 ドスンという衝撃と共に、アルトを襲った巨大な渦は収束していく。


 何度も見てきた召喚魔法、時間にして十数秒が

とてつもなく長く感じた。



「はぁ、はぁ、はぁっ…!」



 糸の切れた人形のように、全身の力が抜けていく。



 アルトは立っていられず、その場に片膝をつく。

地面に手をついて、荒い呼吸を繰り返す。



「アルト?え、どうしたの、大丈夫!?」



 心配そうに顔を覗き込んでくるリィナ。

その手はまだ、アルトの右手を握ったまま。

 今のアルトにはその手の温かさに照れる余裕すらなかった。


「…リィナ、君、いつも、こんなのを…お腹の中で……回してたの?」


 アルトは震える声で尋ねる。



 自分が今まで使っていた「生活魔法」が、

どれほど安全で、小さなものだったか。


 そして、この時代の魔法使いがどれほど過酷に命を削っているのか。



 その片鱗に触れたアルトは、恐怖と共に、

ある「予感」を抱きながらも、

意識が深く沈んでいった。



---



 ふと気がつくと、後頭部には柔らかく

あたたかな感触があった。


「…ん…」


 重い瞼を持ち上げると、

そこには心配そうにアルトの頭を抱き抱え、

覗き込むリィナの顔があった。


「あ、起きた! 大丈夫、アルト?」

「リィナ…。僕、寝てたの?」

「そうだよ。急に顔色が悪くなって倒れるんだもん、心配したよ」



 まだ外は明るい。

 それほど長い時間寝ていた訳ではないようだ。


「心配してくれたんだね、ありがとう」


 介抱してくれていたリィナに、感謝伝えて、

アルトはようやく重たい身を起こした。


「……リィナが言ってたこと、やっと分かったよ」



 アルトはまだ違和感の残る自分のお腹を、

そっとさすった。



「あんな感覚、言葉にできるわけないよね。

 僕の生活魔法じゃ、何度使ってもあんな風にはならない。

 あんな……ぐわんっていう、お腹の中の力? みたいなのは感じたことないよ」


 現代の魔法では、なぜ火がつくのか、

どこから火が出るのか、そんなことは考えたことなかった。

 ただ詠唱すれば火がつく。

 それこそ魔法のように便利なものと思っていた。



 もしかしたら無意識でこの力を使っていたのかもしれない。

 ここ数日、アルトの中で考え続けた、

疑問の答えに近づいている気がした。



「ねえ、リィナ。

 ちょっと試したいことがあるんだ。

 …僕の魔法、使ってみてよ」


「えっ、私が?」


 きょとんとした表情のリィナに、

アルトは火の魔法の詠唱を教え込む。


「でも、私……召喚魔法しか使えないし……」


 言い淀むリィナだったが、アルトは「いいから、いいから」と半ば強引に促した。


「いくわよ。…えーっと、

『陽の光、招きて結ぶ ―― 灯れ、小さな火』。

……ほら、やっぱり何も起きないじゃない」


 リィナは口を尖らせ、不貞腐れたようにしゃがみ込む。


「だから召喚魔法しか使えないって言ったのよ」

「もー、拗ねないでよ。

 十一歳のお姉さんでしょ?」

「調子いいときだけ年上扱いなんだから…」


 怒るリィナを見て、アルトは苦笑いを浮かべる。


「ねぇ、アルトは普段、どんなこと考えながら魔法使ってるの?」

「えー、あれ? 何考えてるっけ…」


 そう言われてみると、無意識すぎて、

言葉にするのが難しい。


 アルトは必死に、初めて魔法を習ったときの記憶を辿る。



 先生に詠唱を教えてもらって、

最初はやっぱりできなくて、でも、

どうしてできるようになったんだっけ...。 



「そうだ、お日様だ!」



 パッとアルトの表情が明るくなった。



「温かくて気持ちいい。

 小麦畑を照らすお日様の光。

 その光が自分の指先に集まって、

どんどん熱くなって、ぽっと火がつく。

 そんなイメージをしながら言葉を唱えるんだ」



 リィナは半信半疑のまま立ち上がり、

もう一度目を閉じた。

 アルトの言葉をなぞるように、

心の中に陽だまりの光景を浮かべていく。


『陽の光、招きて結ぶ ―― 灯れ、小さな火』


 ぽぅ


「……あ!」


 リィナの指先に、細く温かな火が灯った。


「できた……できたよアルト!

見て、私、火が出せた!」


 さっきまでの不機嫌が嘘のように、

リィナは指先の小さな光を宝物のように見つめ、

飛び切りの笑顔を見せた。

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