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第二話:できそこないの英霊




 重厚な石造りの一室。



 倒れる少年の前に、座り込む少女。


 華奢な体に白銀の髪、青い瞳。


 美麗な顔立ちが苦悶に崩れる。 



「なんで…」



 彼女が漏らした声をかき消すように、

着飾った大人たちが顔を真っ赤にして言い争う。



「これが『英霊』だと!? 笑わせるな、子供ではないか!」

「しかし、神子の魔法は確かに発動した!

 英霊が呼び出されたのは間違いない」


 国の重鎮と思しき彼女の父親が、周囲の貴族に責め立てられる。


「魔族はすぐそこまで迫っているのだぞ!

 こんな小僧一人で何ができる!」

「 狼狽えるな、召喚に成功したのは事実だ。

 この子が目覚めるまで、まずは安静にさせろ。

 話はそれからだ!」


 父親は責め立てる他の貴族たち話を遮り、

アルトを奥の寝室へ運び込ませた。




 少女は輪の中心で唇を噛み締める。


「…なんで、お母さんみたいに、上手できないの」



---



 どれくらい時間が経っただろうか。

 アルトは、柔らかく沈み込むベッドに違和感を覚え、目を覚ました。


「…ん…あれ」

「あっ、起きた」


 少女が声をあげる。


「ここ…どこ? 何があったの?」


 アルトがおそるおそる声をかけると、

少女は驚いたように目を丸くした。


「…私達の言葉が、わかるの?」

「えっ? うん、わかるけど…」

「そう…。ここはエリュシオン。

私はこの国の魔法使い、リィナよ。

あなたは、私の召喚魔法で呼び出されたの」


 少女は慎重に言葉をかけるが、

アルトの理解を遥かに超えていた。


「呼び出した? え、どういうこと?

そうだ、母さんは!さっき畑にいたんだ!」


 混乱してベッドから降りようとするアルトを、

リィナは慌てて制止した。


 その瞳には、申し訳なさと、

縋るような必死さが混じり合っている。



「落ち着いて。

 …信じられないかもしれないけど、

 あなたは世界を救うために呼び出されたの」



「世界を、救う…?」



 その大袈裟な言葉と対照的に、

アルトの脳裏には、家族や黄金色の小麦畑が浮かんでいた。



「え、嫌だよ。僕、ただの農家の子だよ。

 世界を救うなんてできないよ!」



 アルトの叫びに、リィナはかける言葉を失ってしまった。



---



「英霊様、こちらでお召し物を用意しました」


 少女に代わり、周囲の大人が対応する。

 これまで受けたことのない丁寧な対応。


 豪華ではないものの、明らかに高価な服。

 当然のようにぴったりと合う靴。


 農民のアルトにとって、驚くことばかりだが、

そんな暇も与えられず、大人達に連れ出される。



 廊下を歩き、大広間に案内された。



 周囲には騎士や魔法使い、貴族、様々な人がぐるりとアルトを囲んでいる。


 本来、彼が一生会うことのない人々。



 その中の一人が、値踏みするような目でアルトに問いかける。


「異世界の英霊様。いかなる奥義をお持ちか、見せていただきたい」

「奥義...?そんなの…」


 そんなのはない、と言いかけるが言い切れない。

 取り囲む大人達の圧力は凄まじく、

何かしなければ許されない空気が伝わる。



 アルトは震える指先を突き出した。


『陽の光、招きて結ぶ ―― 灯れ、小さな火』


 指先に小さな火が浮かび、しばらくして消える。




 不穏な静寂が周囲を包む。



「……なんだ、それは」


 騎士の一人が、耐えきれないといった風に吐き捨てた。


「これは、学校で習った火の魔法で――」

「ふざけるな!そんな火遊びで魔族と戦えるわけがない!」


 堰を切ったように怒号が飛び交う。


「やっぱり失敗ではないか!」

「火を灯して魔族と談笑でもするのか?」

「これが世界を救う英霊だと?馬鹿にしおって」



 その時、城壁の彼方から空を切り裂く咆哮が響いた。

 魔族の大群が、王都にまで辿り着いたのだ。



「魔族の暴力に、奇術は通じぬ!

  総員、配置につけ!」



 騎士団長らしき男の掛け声で、

集まった人々は散り散りになる。


 アルトに対しての興味は消え失せ、

一瞥することもない。



 召喚されて半日も経たないうちに、希望は絶望へと瓦解した。



 城壁の向こうから響くのは、地鳴りのような魔族の咆哮と、逃げ惑う人々の悲鳴だ。




 魔族の大群が王国を飲み込もうとしていた。




 リィナの父が取り残されたアルトに歩み寄る。


「こっちに来い……逃げるぞ。

 もはや、この城は持たん」


 そう絞り出し、アルトの腕を掴む。


「お父様!召喚は成功したんです!

 この子が世界を救うはずなんです!」

「見ろ、リィナ! 救世主がどこにいる!

 剣も振れぬ子供が一人いたところで、

魔族の大群に何ができる!」

「でも…火の魔法だって…」

「魔法?笑わせるな!

あそこを見ろ!魔法というのはああいうものだ!」



 指差した先では、魔法使いたちが、

己の寿命を削るような咆哮と共に

炎の塊を落としていた。


 しかし、一度放てば術者は倒れ、後が続かない。



「あれほどの魔法でも、どうにもならんのだ。」



 アルトとリィナの腕を掴み、引きずるように、

誰も使っていない通路を進む。



「お前たちは逃げろ。

リィナ、神子の血を絶やすな。

そしてこの、できそこないの英霊を連れて行け。

…いつか、召喚が失敗でなかったと証明してみせろ」



 通路の先、停めてあった馬車の荷台に、

 二人は力任せに押し込められた。


 馬車はすぐさま動き出す。



 背後では城の裏門が重々しく閉まった。

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