第十二話:英霊召喚について
晩御飯を一通り食べ終わったあと、
アルトが静かに切り出した。
「おばあちゃん、
英霊召喚についてもっと教えて欲しいんだ」
「もちろんいいとも。
…でも急にどうしたんだい?」
「僕が英霊って言われても、全然ピンと来ないんだ。
だって僕、普通の農家の子供だもん」
アルトは空の器に目をやりながら、言葉を繋ぐ。
「でもリィナのお母さんは、すごい大地の精霊を呼び出したって前に聞いたし…。もしかしたら何かヒントがあるんじゃないかって」
「そうかい。お前さんなりに考えてくれてたんだね。何が知りたいんだい?」
「リィナのお母さんが召喚した英霊って、具体的にどんな感じだったの?大地の精霊って言われてもイメージがつかなくて」
「そうだねぇ。うーん。
一言で言うと大きなトカゲかねぇ。
大きさという捉え方も間違えているかもしれないけれど」
「どういうこと?」
トカゲ。アルトが想像していた精霊のイメージとは違う答え。それに大きさっていう考え方が違う?
「精霊様は形が ”ある” ようで ”ない” 、そういう存在なんだよ。
ぼんやりとしたり、はっきり見えたり、大きさも自由自在さ」
「そうなんだ!全然イメージと違ってた。
トカゲの精霊さんはどれくらい大きくなれたの?」
「城壁ほどの高さになって、魔族たちを押し返していったよ。
でも普段は両手で抱えられるくらいの大きさだったかねぇ」
おばあちゃんは何もない空間を、まるで精霊がいるかのように、大切に抱きかかえる。
「そうだったんだね。
おばあちゃんの召喚した英霊はどうだったの?」
「私かい? 私は水の精霊様に来ていただいたよ。とても綺麗な、サカナのような精霊様だった。」
おばあちゃんは遠い目をしながら、
静かに語り始めた。
「お前さんたちと同じか、少し大きいくらいのとき。水不足で、みんな生死の淵を彷徨っていたんだ。お城の近くにある大きな川が干上がった年があってね、それを救うために来てくれたんだよ」
「サカナの精霊さんは今はいないの?」
「水の精霊様は干上がった川の中に泳ぐように消えていった。そして、魔法のように地下水が溢れてきて、私たちは救われたのさ。だから、ここにはいない、もういなくなったのかもしれない」
「魔族だけじゃなくて水不足もあったんだね。すごい時代だったんだね」
「いや、魔族が人を苦しめ始めたのはここ最近のことさ。
リィナのお母さんが生まれる、少し前に初めて人が殺された。その時に人間は魔族の存在を知った。
今から三十年くらい前のことかね」
「そんなに最近だったんだ……」
アルトはおばあちゃんの話を聞いて、考え込む。
おばあちゃんとリィナは、彼の考えが整理されるまで、静かに見守る。
「あのさ…」
アルトは話すかどうか躊躇いながらも、勇気を振り絞る。
リィナの目を見つめて問いかける。
「僕が召喚された時、どう思った?」
リィナは目を左右に逸らしたが、すぐにアルトの目に焦点を戻し、まっすぐ見つめ返す。
「最初は失敗したと思ったよ。お城の人達もすごく怒ってるし、何よりわたしが聞いてた英霊のイメージと全然違ったから。
でも…アルトと一緒に過ごして、私より頭が良くて、頑張ってて、実際にすごい魔法を何回も使えて。そんなアルトならきっとこの世界を救ってくれると今は思ってる」
リィナは力強く想いを伝えた。
アルトの中に使命のような、強い衝動が湧き上がる。
――僕は魔族を倒すために召喚された
最初は受け入れられなかった事実。何かの間違いだと決めつけていたけれど、おばあちゃんの話を聞いてわかった。
今の僕では全然足りない。けれど、いつか魔族を滅ぼす。そのために魔法をもっともっと極めないといけない。
裏庭で放った火の魔法を、生き物相手にぶつけるイメージをし、少し気持ち悪くなる。
だけどやらないといけない。
相手を殺すことになったとしても、それが使命だから。
少年の小さな心と体には大きすぎる使命を背負い、その日の夜は更けていった。




