第十一話:魔力の定義
さらに数日が経った。
魔法の修行という名の実験は、
順調に進んでいた。
まずは、魔法の発動回数についてだ。
裏庭の奥、崖が露出する山沿いで、
火の魔法の発動回数や、連続発動の間隔を確かめていく。
『陽の光、招きて結ぶ。
灯る火は勢いを増し、大地を焦がさん。
―― 立ち塞がる敵を焼き払え、火炎球!』
燃え盛る火の球が、アルトの手から放たれた。
放たれた火の球は勢いを増しながら、崖に着弾し、大きな焦げ跡を残す。
「これで三回目」
リィナが心配そうに顔を覗き込む。
「アルト、大丈夫?」
「うん、平気。
すぐに四回目をやってみよう」
アルトは再び、精神を集中させた。
『陽の光、招きて結ぶ。
灯る火は勢いを増し、大地を焦がさん。
―― 立ち塞がる敵を焼き払え、火炎球!』
……だが、何も起きない。
「どうしたの?
魔法の詠唱忘れちゃった?」
少し離れて見守っていたリィナが、
慌てて駆けつけてくる。
「いや、ちゃんと言えたよ。
だけど何も起きなかった」
アルトはじっと自分の手を見つめ、
しばらく考え込んだ。
「もしかしたら、三回使ったら、
僕の中の魔力がなくなるのかも」
魔力。
リィナが「お腹の中のぐるぐる」と呼ぶ、
魔法を使うための力だ。
魔法の力で魔力、二人は便宜上、そう呼ぶことに決めた。
「そっか。でもアルトは、やっぱり倒れたりしないね。
王国の魔法使いは一回で倒れちゃうから、こっちの方がすごいんじゃない?」
「いや、たったの三回だよ。魔族は大勢いるんだ、これじゃなんともならないよ」
魔族の恐ろしさは「数の暴力」だと、おばあちゃんは言っていた。
リィナのお母さんも、精霊と共に一度は押し返した。
けれど、一人の力では限界があったのだ。
まして、たった三回しか使えないのでは、どれほど強い魔法でも勝てるわけがない。
落ち込むアルトに、リィナが明るい声をかける。
「きっと何度も練習したら、もっと何回も使えるようになるよ!
私も最初は、小さい物をひとつ、召喚しただけで限界だったよ!
だからアルトなら大丈夫!」
リィナはアルトの手を取り、太陽のような笑顔で励ました。
「そうだね……うん、そうだ!ありがとう!」
アルトはふと、疑問を口にした。
「そういえば、リィナは何度も、召喚魔法を使っても倒れないけど、どうして?」
「どうしてって言われても……神子だから?」
「昔は倒れてたの?」
「昔は疲れて寝ちゃったり倒れたりしたことはあるかも。
初めて魔法を使った記憶があるのは三歳から四歳くらいかな。
今は疲れはするけど、倒れることはないわ」
「もしかしたら、魔力の量は、人によって変わるのかも。
神子と呼ばれる人は、それが、生まれつきかなり多いのかもしれないね」
アルトの瞳に、再び光が戻る。
「…それでも、訓練で増やせるっていうのは、嬉しい情報だよ。僕頑張るよ」
「アルトなら大丈夫だよ。
私よりも賢くて、私より頑張り屋だもん!」
「リィナが言ってくれたら、ほんとにできそうなきがする」
アルトは少し照れくさそうに笑い、
空っぽになった自分の手のひらを握りしめた。
リィナは笑顔でアルトに問いかける。
「ふふ、じゃあ今日はもうおしまい!
おばあちゃんのご飯食べに帰ろ?」
「そうだね! 今日のご飯はなにかな!」
さっきまで大人顔負けの魔法を使っていたとは思えない、普通の少年少女に戻っていた。
二人の背中を夕陽が刺し、並んだ二つの影を追いかけるように、おばあちゃんのいる館へと駆けていった。




