表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英霊少年〜三百年前に転移した少年が魔法理論を解明する成長譚〜  作者: 仁見ヒロ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/10

第一話:突然の転移




 見渡す限りの小麦が、風にそよいでいる。



 この平原の村、アグリスにおいて、

それは誇りであり、世界のすべてでもあった。


 十歳の少年アルトも、

その黄金の波間に浮かぶ小舟のように、

平凡な日々を過ごしていた。



 村の小さな学校。古びた教室。

 今日も眠気を誘う授業が行われる。


「……いいですか。この王国が興ってから三百年。

 偉大なる王は魔族との戦争に勝利し、

我らに安寧をもたらしました。

 皆さんが育てる小麦は、王都へ運ばれ人々を支えるのです」


 王都から派遣された老教師の言葉を、

アルトはぼんやり聞いていた。


 教科書という高価なものはない。

 教師が話す言葉を使い古した紙に書き起こすだけ。


 歴史。王国。戦争。


 そんなものは雲の上の出来事だ。

 農家になる自分には、関係ない。


「――では、この後は魔法の授業です。

 今日は火の魔法を使います」



---



 放課後。

 アルトは家のかまどに人差し指を向ける。


『陽の光、招きて結ぶ ―― 灯れ、小さな火!』


 指先に弱々しい火が浮かぶ。

 木屑が燃え、薪の隅に赤みがさす。


「見て見て! 母さん! 今日は一回でついたよ!」

「まあ、すごいじゃない!助かるわ」


 農作業を終え、帰宅した父が、

豪快に笑ってアルトの頭を撫でた。


「ははは! アルトの魔法か!

 将来は魔法使いになれるかもな!」

「ちょっと、バカなこと言わないでよ」


 さっきまで笑っていた母が、

呆れたように口を挟む。


 その瞳には、現実的な諦念が宿っている。


「なれるわけないでしょ。魔法使いなんて。

 できない夢を見せたらかわいそうよ」


 父は「それもそうか」と頭をかき、

アルトは少しだけ肩を落とした。


 自分もいずれ父を継ぎ農家になる。

 わかってはいる…ただ、時折、空想するのだ。

 もし他の生き方も選べたのならと…。



---



 その日の夜。



 月明かりとは違う、強い白光に起こされる。

 光に誘われるように、アルトは裸足で外へ出た。


 小麦の海の真ん中に、巨大な「光の輪」が浮かんでいる。


 アルトは吸い寄せられるように近づき、手を伸ばした。


 突然、光が強くなり、アルトの手を激しく引っ張る。


 寝ぼけた頭が急に覚醒し、危険信号を放つ。



「アルト――!!」



 背後から響く母の悲鳴。

 反対の手を母に伸ばすが、遥か遠く届かない。


「かあさ――……!」


 叫びはかき消され、視界が白一色に染まる。

 一瞬が永遠に感じられ、永遠が一瞬のうちに過ぎ去った。



 次に気づいたとき、アルトは冷たい石床の上に倒れ込んでいた。



 朦朧とした意識の中、見上げると少女が座り込んでいる。


「なんで…」


 少女の口から力ない声が漏れ出ると同時に、

アルトの意識は沈んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ