第零話:世界救う英雄、異世界から転移する
「ごめんね、おばあちゃん…」
少女は座り込み、一筋の涙を流しながら呟く。
その腕には、力の抜けた老婆を大切そうに抱えている。
燃えくすぶる周囲の炎は、少女の白銀の髪を紅く染めている。
――ブヴゥゥーン
突如、目の前に大きな光の輪が現れる。
輪の内側は、黄金色を放ちながら、波立つようにゆらめいている。
水面が割れるように、その輪から、一人の青年がゆっくりと現れた。
白銀の髪。金色の目。自分よりも背丈の高い、大人の人。
その姿は、おばあちゃんが寝物語で聞かせてくれた、おとぎ話の勇者様だと、疑っても疑いきれない。
「――待たせたね、リィナ」
こちらを見て、はっきりと名前を呼ばれる。
「だ、だれ?」
跳ね上がる心臓を抑えつつ、なんとか声を振り絞る。
《キシャアアアアアッ!!》
少女の背後からは、耳をつんざくような魔族の叫び声が聞こえる。
一体が叫ぶと、呼応するように大勢の魔族が声を上げる。
「もうちょっとだけ待っててね」
この禍々しい不協和音が、まるで聞こえていないかのような優しい声。
少女の頭にポンと軽く手を添え、少女の背後に回る。
『――喰らい尽くせ、火焔龍』
青年の手から、火柱が発生したかと思うと、それはうねりをあげながら、魔族の大群を飲み込んだ。
《ギィヤァア、アアアァァッ…》
逃げ惑う魔族の群れを一瞬で消し炭に変える。火柱は役目を終えるとフッと煙を残し、消えていった。
「もう大丈夫」
青年は振り返り、微笑みながら声をかける。
「世界を救いに来たよ、リィナ」
――これは、平凡な農家の少年が、世界を救うまでの物語。




