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【未来日記で運命が変わる異世界物語】  作者: ねこラシ
三章 名無しの放浪者たち
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第三十五話 「劇薬という蓋の役割」

 一通り好き放題し終えると、満足感と高揚感が俺を襲った。天にも昇ったと思うほどの優越感。ここ最近の中で一番気分が良くなった。やりたいままに、怒りの衝動に身を任せ、発散するために行動する。


 結果的に二人の人間が死に、周囲の建築物はあちこちが抉れ、無残な姿に変化したが仕方ない。『昇神教』への良い見せしめになったし、俺の気分が良くなったからいいことしかなかった。


「ふぅ……さぁて、次、誰が来てくれるのかな」


 この二人を殺したから次の襲撃犯が遠からずやってくるだろう。奴らの組織は母数だけ見れば巨大だ。層が厚いかは知らないが、とにかくボコボコにして怒りをぶつけたい。


「トウマ殿……」


 怪訝そうな顔で俺に話しかけるジュラルの方向を振り向く。一瞬ギョッとした表情になったのは、俺が血生臭いことと、想像以上に顔が赤いことだろう。


「あそこまで惨たらしいことをする必要は無かったのではありませんか?」


 何を話すかと思えば俺への戒めか。俺は退屈そうに息を吐くと、彼に便乗するように皆が口を開く。


「流石にやりすぎだ。殿下でさえあのようなことはされたことは無い」

「これは非人道的すぎる行動だ」

「こ、怖かった……」

「見てられませんでした……」


 皆が俺を罵るような言葉を放つ。せっかく怒りを抑えることができたのに、また再熱しそうだ。もういっその事全員殺っちまうか?


「うるさいな。お前ら殺されそうだったんだ。感謝しろよ」


「「「――ッ?!」」」


 何も普通のことを言ったはずなのに何故か皆が驚愕している。殺されそうなところを俺が救って返り討ちにしたのに、どうして戒めを言われたり、驚かれなければいけないんだ?


「お前、誰だ――?」


 皆が半歩下がり警戒をする。恐らくは俺の中に誰かが乗り移っていると思っているんだろう。だが、俺はいつもの俺だ。トウマ・カガヤ、何の変哲もない普通の人間だ。


「誰っていつもの俺だけど、どうした?」


「いつものトーマあんなことしない……」


「トウマ殿、憑依されているのですか?」


 「だから俺は普通だって!」と言おうとしたが、突如として強い睡魔に襲われた。傷は負っていない。毒を喰らった訳でもない。となれば、ゼロか……くっそ、なんで今なんだよ……!


「「「トウマ!」」」


 皆が俺の名前を呼ぶ声を耳にしながら俺はその場に倒れ込んだ。徐々に睡魔は強くなり、やがては意識を飛ばした。



────────



「はぁ……全く。君はボクの懸念することを正確に当ててくれたね」


 気が付けば椅子に着座していた。

 目の前には大きなため息をつき、頬杖を着くクリーム色の魔女の帽子を被った女の子がいた。


「何で俺を呼んだんだ?」


「主観的に見て分からないかい? 自分がおかしいってことに気がつかないわけはないだろう?」


 ゼロに諭され俺は少し前の時間を振り返る。

 吹き飛ばされて……俺はえぇっと、どうなったんだっけ。


 あぁそうだ、目の前が真っ赤になって石を殴って、あの女の子を――


「あっ……」


 ようやく俺は今までの自分が狂っていたことに気がついた。怒りの衝動に呑まれて、やりたい放題してたんだ。最終的に俺は――


「うっぷ……おぇぇぇっ!」


 血生臭い通路、飛び散った肉片、救いの声を求める男女。そして、それらを笑みを浮かべて楽しそうに実行する俺。


 左手には今もあの女の子の細い首を絞めた感覚が残っている。徐々に魂が抜けていき、生気が抜けていく女の子。俺自らゆっくらと時間をかけて殺した兄。最後には原型が分からないほどの惨劇になった。


「正直、あそこまで弊害が出るなんて思わなかった。これは、重大で深刻な悩みだ」


「いやおれ、うっぷ、同じ意味、おぇぇぇっ!」


 俺の両手は真っ赤に染まっている。ミナバルトに現れた殺人鬼よりも最悪な人間だ俺……。『昇神教』という悪なる組織とはいえ、同じ人間。よく復讐のために苦しめて殺してくれなんて言うが、得られるのは一時的な快感と、最悪な後味だ。


「困ったね。君はどうしてそんなことになったか分かるかい?」


「はぁ……はぁ……知らない、初めてあんな直情型になった」


 俺はゼロから今回のことについて説明を受けた。未来視が出来ることの代償について俺は微塵も考えたことがなかった。深く考えることなく、自由に使えるものだと勝手に思い込んでいた。


「不規則に発生するからボクにも兆候は分からない。副作用のようなものだからね」


「じゃあどうすることも出来ないのか?」


「出来るはずさ。君自身がその感情を上手く抑えられるようになれば、ね」


 自分で感情をコントロールする。今までなら簡単だろうなんて余裕ぶっていたはずだが、意味も分からないタイミングで爆発的に込み上げる感情を抑えるなど難しいに決まっている。


 今回は怒りが出たが喜怒哀楽、どれが出るか分からないらしい。それ以外が出る可能性もある。つまり、衝動的に人を殺したくなる可能性も無きにしも非ずだ。


「一人で、なんて到底出来そうにねぇよ……」


 両手にギュッと力が籠る。感情が蝕まられることなんて経験したことが無い。誰か、近くで無理やり止めてくれる人がいれば良いんだが。


 だがなんて説明する? 

 病気だなんて行ったら直ぐに医師の前に引きずり出されるのがオチだ。となれば俺が未来視出来ることを知る人に頼るしか……つまり、


「なぁゼロ、お前俺のこと助けてくれないか?」


「別に出来なくはないけど、やり方は強引だよ? 君を沈めてボクが表舞台に立つ方法だ。つまり、ボクが肉体を乗っ取る寸前までやる必要がある」


「それで良い。むしろそれくらい無理やりやって貰わないとダメな気がする」


 あの衝動は俺一人でどうこうできるほど容易け扱えるものではない気がする。他人の力を借りなければ、俺は誰かを傷つけるかもしれない。するとゼロは「ただし」と続ける。


「ボクは君から相応のものを貰うからね。まずは視力からいこうか」


「はぁ?! 俺眼球一つ無くなるの!?」


「違うよ、流石にそこまで酷いことはしないさ。ほんの少しだけ、違和感を感じないほど微細なものを頂くよ」


「ま、まぁそれくらいならいいけど」


「その次は目以外のものを貰うからね。それだけは知っておいて」


「もちろん超極極極極微細な量だよな?」


「当然だよ、ボクがそんな人でなしに見えるのかい?」


 ならいいさ。生活に支障をきたすほど抉り取るんじゃないなら良い。だが、こうしてゼロに完全に頼りきりになるなんて。


「だけどボクが君の中にいるのはずっとじゃない」


「……え?」


「やりたいことの過程として君に寄生してるだけで、ボクだって巣立つ時はあるさ。だから、君は早めに劇薬を手に入れておくと良いよ」


「劇薬って、まさか薬があるのか?」


 薬があるなら話は変わる。早々に見つけてゼロに頼り切りというのを解除する。それに、薬があれば常に気を配る必要も無くなるしね。だが、俺の期待は裏切られた。彼女は大きく首を振ったのだ。


「薬は存在しないよ。ボクが言う劇薬というのは、ボクの代わりになる人物をそっちで見つけることだよ」


「あぁ、なるほど。でも、そうなると俺が異世界人で未来が分かるっていうことを説明する必要があるだろ? 例の法律で俺殺されるから無理じゃないか?」


 『異世界転生者排除法』という残忍な法律によって俺は一度、転移直後に死にかけている。あの時は辛うじて助かったが、それ以降異世界人とバレるのではないかと心の奥底で震えている。


「大丈夫さ、いつか現れると。君が本当に信頼する人がね。それこそ、好きな人がね」


「好きな人って、俺別にこの世界に根付こうとしてる訳じゃ――」


「あーそうかいそうかい。つまんないなぁー。全く。君はね、もう少し女心というのを理解した方が良いよ。ボクの繊細な心臓は傷ついたよ」


「だいたいな、俺は別にこの世界で根城を構えるつもりは無い。今も変わらず帰ることを目標に動いてるんだ」


「つまんないな。君は本当に。君の世界とは全く違う女の子で溢れているだろう? 一度くらい恋を楽しんでも良いんじゃないかい?」


「あのな、俺は――」


「頷かないならボクが君の副作用を抑える劇薬になるのやーめた」


 まるで子供のようにそっぽを向くゼロ。餅のようにぷっくりと頬を膨らませ、顔を逸らして俺の謝罪を今か今かと待っている。こいつ、本当に子供なんじゃないのか?


 だいたい俺は別に楽しむためにこの世界に来たんじゃない。理由も分からずに転移したんだ。俺としては良い迷惑だ。もしも俺がそういう系に憧れを持っていたんなら最高! とかまじ神ー! ってなってたんだけど、別に望んでなかったからな。


 ってか、いつまで膨れてんだ。仕方ない、とりあえず承諾するしかないか。


「分かった分かった、やってみるから」


「おぉそれは良いね。言ったからにはやってもらうよ? 後から無理なんて言わせないからね?」


「げっ……めんどくさ」


「ふふっ、まぁでも君はもっとこの世界に来たんだからもう少し楽しむといいさ。何事も楽しんだもん勝ちだよ」


「でも俺は最後に――」


「先のことばっかりに囚われると大切なもの失うかもよ?」


「――分かった分かった。もう少しこの世界を楽しもうとするし、可愛い女の子を捜してみるよ。これで良いだろ?」


「うむ、よろしい」


 こいつは俺の母さんかよ。色んなことに口出して、全く何がしたいのかさっぱり見えてこない。俺は椅子から立ち上がると、その場を後にしようとすると、ゼロは何かを思い出したように「あぁそうだ」と言うと、俺を呼び止めた。


「『昇神教』の例の二人。君が殺した兄妹だけど、どの道組織に入った時点で最後は死ぬことが確定していた。だから君が自害してやり直す必要は無いよ」


「つまり、彼らを殺した罪を受け入れて生きろってことか?」


「全く君はどうしてその方向でしか考えられないかな。だいたいこの世界にやってきた以上、生き物を手にかけることが必然なんだよ? 加えて『昇神教』は地上最悪の組織としても名高い。君がそこまで背負う必要は無いよ。今後、何かを手にかけても悄げる必要はないからね。次もしもそんな風に言ったら殴るから、よろしく!」


「あ、ああ分かった。ありがとう」


 あいつ今さらっと殴るって言ったよな?

 まぁでも確かにゼロの言うことも一理ある、か。結局世は弱肉強食。死ぬほうが悪いって言われるんだろうな。毎回、相手の死に対して過剰に反応している俺に励ましの言葉をくれたのか。良いとこあるじゃん。


 俺はゼロに向けて歩き出した。するとまた、強い睡魔と空間の歪みに呑み込まれた。



次回 第三十六話 「誰にも言えない秘密」


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