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【未来日記で運命が変わる異世界物語】  作者: ねこラシ
三章 名無しの放浪者たち
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第三十一話 「似て異なる者たち」

 時間逆行をした後のように意識が覚醒する。いつもと違うことは入口前での目覚めではないということ。


「で、ええと。あの爺さんの家どっち方面だったかな」


 頭をポリポリと掻きながら俺は周囲を見渡す。ギルドに向かおうとしていた俺はほぼ道に迷っている状態だ。来た道を帰れば戻れそうだが、戻って、行ってという作業は時間が勿体ない気がする。となれば人に聞くのが早いだろう。


「あの、すみません」


 俺は適当に道を歩いていた女性に話しかけた。「どうしたの」と聞く彼女にあの老人の特徴をまんま伝えた。特に地理に強いという謎キャラ感を出させ、かなり歳のいった老人はどこにいるか知らないかと尋ねた。


 彼女は「うーん」と少しの間唸り、思い出したように語り出した。


「長のことかしら? 私が思い当たる人は長しかいないわ」


「多分その人、です」


 長って……あの爺さんそんなに偉い人だったのか?なんでそのことを言ってくれないのだろうか。


「あの人はかなり人里離れた場所にいるのよね。えぇっと、確か突き当たりを――あら、あそこに丁度いるじゃないの」


 彼女が指さす方向を見れば腰を丸くし杖をつきながら歩く高齢者がいた。見覚えのある顔と身なり、間違いなくあの老人だ。俺は女性に礼を言うとその人に向かって歩いて行った。


「あの、すみません」


「フォッ?」


 その人は俺の姿をまじまじと見た。この老いぼれた人がかなり強い、とゼロは言ったがやはり拍子抜けする見た目だ。本当にこんな高齢で戦えるのか? と思ったが、ミユの魔法を見事防いだことを思い出した。


 して、老人いや、長と呼ばれた男は俺の顔を見て言った。


「なんじゃワシに濡れ衣を着せて襲いかかった青年ではないか。今更なんの用じゃ」


「その件は本当にすみませんでした。身勝手な妄想で貴方を傷つけようとしたことを詫びさせてください」


「謝罪などいらぬ。ワシの前からさっさと失せい。さもなくば火だるまにするぞ」


 彼は俺を冷たくあしらった。当然と言えば当然だろう。あの時、この人には殺意が無かった。善意で俺の疑問に答えてくれていた。にも関わらず俺はその善意を裏切り勝手な真似をしてしまった。完全に非はこちらにある。


「お怒りは十分理解しています。罰を受けるべきなのは理解しています。ですが、俺以上に罰を受けるべき人間がこの街にいるんです、どうか……どうか俺の話を――」


「ええい! 失せよと言っておろうに。しつこいぞ、お主以上に罰せられるべき人間などおらぬ。早く失せぇい。さもなくば本当に火だるまにするぞ」


 人々の視線が一気に集まる。街の長が怒りをぶつけているのだ。それも普段穏便な性格であろう彼が、珍しく。

 

 大衆も何事かと集まりつつある。俺と老人を円の中心にし、少し離れ野次馬が形成される。みっともない、成人近い青年が高齢の先輩に怒られるなど恥だ。だが、俺にはこの恥を黙って呑み、この恥よりも更に大きい悪を倒し未来を変える必要がある。


 俺は両膝を折り、地面に頭を擦り付けた。他でもない土下座だ。


「お願いします。どうか俺の話を聞いてください。この街を、この街で起きている事件を解決したいんです」


「事件は起きておらぬ。ミナバルトの治安は悪くない。お主はワシの怒り油を注ぐ気かっ!」


 街長の言葉に皆がひそひそと話し始める。ここまで怒っている長を見るのが初めてなのか、はたまた俺の情けなさを口にしているのかは知らない。俺はまだ続けた。


「先程天に昇った龍、あれは『昇神教』の陰謀によるもの。そのもの達が今、街中に溢れているんです。奴らは民を犠牲に己の目的を達成しようとしています。俺はそれを防ごうと――」


「お主それ以上語るでない。それ以上の発言を禁ずる。もし破れば本当に命はない。ワシの言うことに従った方が良い」


 長は俺に背を向けた。

 これでもダメかと俺は立ち上がり、彼の前に立ちはだかった。しかし、彼は見えていないかのように俺をスルーし歩く。俺は再び前を塞ぎ、進路を阻む。


「貴方は民を、街の人々を犠牲にするつもりですか!長として皆の安全を一番に考えるべきなのではないんですか! 貴方の力があれば『昇神教』を追い出せる、そうすれば街の安全は保たれる……っ!」


 瞬間俺の体から発火した。体の部位ではなく、全身を覆いつくす程の業火が俺を焼いた。俺はその場にのたうち回った。間違いなく長によるもの。彼は冗談ではなく本気で俺を火だるまにする気だ。


 しばらくのたうち回っていると、先程声を掛けた女性が見ているだけの群衆の間を通り、バケツいっぱいの水を俺に掛けた。白煙を肉体から放ちながら俺は立ち上がる。全身に火傷を負うことになったが、関係ない。


「これ以上は辞めておきなさい」


 助けてくれた女性の静止を振り切って俺は、再び老人の前に立ち塞がった。


「お願いします。街のために、どうか……力をっ!」


 俺は再び地べたに頭を擦り付けた。

 なんで俺、関係ない街のためにこんなことしてるんだろうか。街を捨てて勝手に行けば良いのに。


 ――あぁ、そうか、これも全部あの国が滅んだからだ。


 ワンジュが王に戻るための名誉回復として街を助けようとなった。でも、真理に追い求めるにつれて小さな切り傷のようなものだと思っていたものが生死に関わる病気だったように、深刻だった。


 助けることが出来るのに、見捨てて行くなんてことは出来ない。俺があの時助けなかったせいで街が、大勢の人が死んだなんていう後悔はしたくない。「お願いします」と、半泣きになりながら懇願すると、彼は口を開いた。


「触らぬ神に祟りなし。『昇神教』とはそういうもの。対立したら最後、あの者たちは死ぬまで追いかけて来る。


 ワシは若い頃、それを身をもって体験しておる。その難を逃れんと各地を彷徨うこと四十七年。ようやく平和な日常を取り戻しつつある。長いぞ、四十七年の歳月は、毎日人の目を気にしては疑い、今日死ぬのではないかと臆する日々。


 それを約五十年続けるのであれば静観し、奴らの要求を受け入れた方が良い。一時の感情に任せ誤った選択をすれば一生分後悔する。じゃから、触れてはならぬ。口にしてはならぬ。お主ももう諦めよ、ワシが加担したところで何も変わらぬ。寧ろ事態は悪化する一方なのじゃ」


 そうか、そういう事だったのか。この人はやっとアイツらの監視対象から外れ落ち着いた日々を取り戻した。もう長くない寿命を、余生を少しでも失った分だけ取り戻そうと静かに生きているのか。


 手を出したら終わり、取り返しのつかない最悪な結末が待っている。だから、静観する――違うだろ。最高の結末にしなきゃダメだろ!


 俺は立ち上がり、長を見つめた。真っ白な髪と髭、そして長年の心労が祟ったのであろう深いシワと丸い腰。


「このまま、本当に搾取されるだけで良いのですか。変えようとは思わないんですか」


「じゃから手を出せば終わりじゃ。奴らの人数は特定されておらん。どこに奴らの目があるのか分からなのじゃぞ。今も、我らを見ている中にいるやもしれぬ。それが一人ではなく、複数、もっといえば全員かもしれん。それほど厄介で脅威な相手と言っておろう!」


「その人間どもを後世に、自分たちの子供の代まで残せと言うんですか! ここで芽を取り除かなければ末代まで呪われたも同然なんですよ! ここにいる全員で奴らを追い出さなければあいつらは永遠に調子に乗ったままとなりますよ!」


「もちろんワシとてそうしたい。じゃかな、犠牲は凄まじいぞ。本当に全員殺されるやもしれぬ」


「殺されるかもしれないし、そう出ないかもしれない。まだやってもいないのに諦めるのだけは絶対にダメです! 貴方は死して関係なくなったとしても、残される側は負の遺産を置いてかれたと同じなんです」


 徐々に苛烈さを極めつつあるこの会話。そんな中、人々の集まりの中で動きがあった。人を押しのけ、中心にやってくるもの達がいた。


「トウマ殿、何をされているのだ!」


「――っ! ジュラルさん」


 現れたのはジュラルとミユとウリルの三人。例のごとく俺を連れ戻しに来たのだろう。ちょうど良い、この人にも説得を、そう思ったが彼は長の顔を見るや慌てて一礼した。


「どうかお許しください。若いゆえにイキリたっておられるのです。本当に申し訳ありません」


「ジュラルさんもこの人の説得に協力を――」


 俺の言葉が言い終わらないうちにジュラルは俺を無理やり抱えた。そのまま入ってきた場所から出ていき、駆け足でその場を後にした。


 みるみる遠ざかっていく群衆と、真ん中に立ち尽くす老人の背中。俺は自分とは違い、傍観することを選んでいるあの爺さんに怒りを覚えた。そのままジュラルに抱えながら俺は大声で、


「あんたは失うのが怖いんだ! 行動が上手くいかなかったらなんていう未来と、自分の失敗談で勇気を潰している臆病者だ! あんたが動かないせいでみんなが――むぐぅ!?」


 再び言葉が終わらないうちにジュラルに口を抑えられた。それでも尚俺は長を罵ったが、何を言っているかはあの老人に届いていなかったであろう。


 俺が去った中心地で老人はポツリと呟いた。


「お前さんに言われずともワシが一番そう思っておるわい。全く、若いとは難儀なものじゃな……」


 杖と足を前に動かしながら、彼もまた人々の中を行った。俺の最後の響きは彼自身が一番理解していた。それはまるで、行動ができない世界線のトウマのようであった。

次回 第三十二話 「過程は違えど結末は等しい」


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