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【未来日記で運命が変わる異世界物語】  作者: ねこラシ
三章 名無しの放浪者たち
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第二十九話 「応援要請」

 ほんの少しだけの眠気を感じながらうっすらと目を開ければ真っ暗だった。光の届かない海に沈んだように暗かった。



 あれおかしいな。いつもと違う。

  『死に戻り』の力が発動されたら睡眠から目覚めたように意識はハッキリとしている。何より、こんな真っ暗な場所で覚醒することない。

 ゲームで死亡した瞬間、キャラが暗闇で倒れている。あれを再現ているかのようだ。


「――――!」


 声が聞こえない。自分で声を出しているという感覚はありながら声が出ない。だが呼吸は出来ている、生きることは出来る、がなんなんだこの空間は!


「――! ――――!!」


 

 よもや弊害が出た――そんな可能性が頭を過ぎった直後、俺は背筋が冷たくなった。時間逆行には回数制限があって、俺がその限界を超えてしまった? もしかしてこの能力はよほどの事がない限り発動させてはいけなかった?


「――ッッ!」


 俺がもがき暴れていたところ、喉を鷲掴みにされた気がした。というより、鷲掴みにされている! 誰の手かは知らないが冷徹で太くデカイ手だ。それより恐ろしいのは――


「――っぁ!!」


 喉を握り潰されると思わせる程の怪力だ。徐々に力が強まるのを感じる。まずいまずい! このままでは本当に潰される! 

 

「――ぉ! っぐ!」


 呻き声が出た。つまり声が出た、と言いたいところだが今はそれどころでは無い。気道を狭められていることにより酸素を取り込める量が減っているのだ。低酸素状態になれば脳が死ぬ。脳が死ねば、意識が死ぬ。


「ぅぅぅぅう!」


 じたばた暴れながら、喉を掴む手を引き剥がそうと抵抗を試みる。だが幾度試してもこの手を掴めない。掴もうと触れた瞬間、スルッと抜け落ちるのだ。何とかせねば、そう思っていた時、


『これは警告と受け取ってもらう』


 エコーがかかった声が聞こえた。その声色は落ち着き払った大人のイメージを彷彿とさせるが、否、どこか怒りを感じる。


『今後、ヴァンデルと接触することは固く禁ずる。この警告を無視すればボクは君を殺さなければならない』


 ボク……君?

 まさか声の主は!


『理由は聞かないでもらいたい。ボクにも都合というものがあるんだ、目的を果たすための、ね』


「なに、を――! お前っ!」


『殺さないだけ感謝してほしい、と言いたいところだけど君からすれば理不尽すぎるよね。だけど、これもボクなりの愛のムチだと思ってくれたまえ』


 そんなムチなんかいるものかと俺は、首を絞め上げる手を振りほどこうと全身の力を手のひらに集中させる。だが、掴めない、実体がないのだ。


『この世界には君が救ってはならない人間が幾人かいる。その内の一人がヴァンデルさ。いや、厳密に言えば救えない、というのが答えか。ボクがボクのやりたいことをするように、君も早く帰る方法を見つけることだ』


『――それじゃあ、君を向こうに帰すよ。今度は対面して話そうか』


 一通りの会話が終わったとゼロは捉えたのか、声が聞こえなくなった。それと同時に首の窮屈感が消え失せる。酸素を求めて肺をフル稼働させる。吸った酸素が体の隅々まで行き渡ると急激に体が温かくなった気がした。


 一先ずは安心、かと思いきや


「ゴボッ?!」


 息を吸ったと同時に入ってきたのは大量の液体、水だ。鼻腔を通り抜ける痛みに咄嗟に呼吸を止めた。

 

 窮地だ……せっかく解放されたというのに俺は再び窮地に立たされた。まだ充分に吸い込むことが出来ていない中、息を止めざるを得ない状況に追いやられた。俺はどうしたら良い??


「ッッ????!!!!」


 打開策に頭を悩ませていたその時、突如口や鼻に水が流れ込んだ。


「グボ、オボボボっ!!?」


 もちろんのこと俺は呼吸を止めていた、なんなら今も止めている。にも関わらず、自我を持っているように浸入してきたのだ。


 手で鼻や口を抑えるが、効果はゼロに等しい。穴を塞ごうが水は体内を犯しに来る。残された時間はもう無い。体内に元から残っている酸素は僅かだ。


 あぁ、ダメだ。


 俺はもう死ぬ。溺死する。

 浸入口を塞いでも入るならもうどうしようも無い。対策をバッチリにし、ホイホイを置いても家のどこかに潜むゴキブリを見つけた時のように。受け入れるしかないのだ、これはどうしようも無い、と。


 苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい


 その数十秒後、俺は肺いっぱいに水を貯蔵し、死んだ。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 

「戻った……」


 次に視界に入ってきた場所は見覚えのある、街の入口だった。本当であれば、俺また死んだのかと少し肩を落としゲームオーバーになったことを嘆くのだが……。溺死したあの場所に比べたらここは、第三の家くらい安心する。

 

「あー、良かった……! 溺死なんて二度とごめんだ」


 ミユと手を繋いでいることすら忘れその場に蹲る。


『ヴァンデルと関わってはならない』

『君も帰る方法を見つけることだ』


 中でも印象強く残っているゼロの言葉がフラッシュバックする。

 ヴァンデルは……本当に次は殺される気がする。名前を出すことも控えた方が良さそうだ。


 帰る方法は今のところ宛が無い。転移魔法のようなものを見つけるしかないのだが、ミナバルトにはそれらしきものが見つからない。


 ならば図書館でもと思ったがこの街は脳筋が多いのか、それとも本好きがいないのか図書館というものが存在していない。故に、この街では何も出来ないのだ。ならば目の前で起きる危険を回避することに集中していくべきであろう。


「だいじょーぶ?」


「あ、うん。大丈夫、ありがとう」


 不思議そうな顔で覗き込むミユの頭を撫でながら立ち上がる。

 危険を回避か、となれば一人の方が事を起こすのに適している。決して彼女が邪魔という訳では無いが、危険に晒さないためにも放す必要があるしな。


「ミユって、ウリルがどこにいるか分かる?」


「うん分かるよ。ミユの鼻と耳ちょーすごいから!」


 よしっ、と内心ガッツポーズを決める。


「それじゃあミユはウリルと合流して。俺は一人でやらないといけないことがあるからさ」


「ミユもいきたぁーい!」


「え、でも」


「行きたい行きたい! お願いートーマ――!」


 案の定彼女も同行したがった。だが、これは想定内。


「実はさウリル達の方向で敵の目撃情報があったのを思い出したんだ。だからさ、ほらミユがいればドカーンって出来るじゃん?」


「――」


「ミユは最近ドカーンってしてないからやりたいでしょ? 俺はその間に仲間を集めてくるから、ミユはウリルと合流してほしいんだけど……だめかな」

 

「ふむふむ、ドカーン……やりたいっ!」


 先程まで曇っていた彼女の瞳に光が灯る。大成功だ。無理やり感が歪めないものの、納得してくれたのなら良い。彼女はご機嫌そうにステップを踏んでいた。


 

 

次回 第三十話 「相談」


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