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第二十四話 「鋼の大和魂」

 剣を振る度に火花が散る中だ血と汗が飛んだ。俺は余力を残すことなくスタートからフルスロットルで攻勢に出た。だが、ローブの男は泥や土すらも付着せず白衣のままだった。


 巨体の男が一歩動く度に俺は二歩下がった。苦笑する間も、何か言う隙すらない。そんなもの意識を割くなら防御に使った方が良い。


 だが、相手も決め手に欠けているのか斬り合いをするだけで終わらせには来ない。このままでは俺が一方的に削られる。そう思った俺が先に動いた。


 男の刃が重なる一瞬の隙を付いて、全力でそれを弾いた。金属同士の甲高い音と共に相手が後ろに仰け反る。すかさずそこへ刺突を入れる。


 取った──そう思った。だが突如として氷の壁が俺の刃を拒んだ。予想することなどどうして出来ようか。俺の剣は氷壁に食らいつき、男は危機一髪回避した。


 「――ッ!」


 冷気を放つ壁のサイドから二本の剣が襲いかかる。『草薙』を抜いて、弾く。柄に力を入れ壁から引き抜こうとした直後、剣が抜けなかった。


 岩のようにビクともしない剣。俺が振り返った時、双剣は眼前に迫ってきていた。心臓目掛けて放たれたそれを避ける術は無い。


 絶対痛いよな、なんてことを思いながら俺は左腕を前に出す。次の瞬間、二本の刃が腕を貫通する。しかし、いずれも胸の前で止まった。


 焼ける痛みと感覚が薄くなっていく腕。


 「ぐぅぅ!」


 苦し紛れの蹴り上げ。敵は勢いよくバックステップを踏んだ。流れで腕に刺さっていた剣も抜ける。ダラリと垂れ下がる左腕。もう左腕は使えそうにない。


 互いの間に距離が出来る。恐らくだが、アイツが氷壁を作り出した。以前の戦いでは魔法を剣で吸収し、魔法剣として戦った。自ら魔法を使えば良いものを相手が魔法を使うのを待っていた。


 この時のために──


 手帳を確認して打開策を確認したいが今の状況では不可能。もう一度、氷に刺さった『草薙』を掴むが抜けそうにない。


 片腕が死に、武器を失った俺に勝利を確信したのかローブの男は歩み寄って来た。石畳を踏む度に俺の血が奴の剣から落ちる。


 「我は貴様に怒りを感じている」


 戦場に低く静かな声が聞こえた。声の主は間違いなくローブの男。


 怒りを俺に? 俺が何をした、相手を怒らせるような行動をした覚えはない。喧嘩をした訳でもないし、暴言を吐いた訳でもない。俺は自身の記憶の回廊を辿った。だがやはり、記憶はない。俺がやった悪行は、ないはずだ。


 「我は見たのだ。貴様が『青天龍』様に傷をつけたところを」

 

 「――ッ!」


 『昇神教』の御神体は『青天龍』。神と崇めているものを傷つけられたら怒るのは当然か。奴らにとって自身の命以上の価値がある。


 だが冤罪も良いところだ。あれは俺であって俺ではない。全てゼロがやったことだ。無関係、とまではいかないが実行犯は俺ではない。


 「あの御方に傷をつけた貴様は必ず殺す。我らの悲願を達成するため貴様には、世界中の人間どもは犠牲になってもらう! 抗うことに意味はない受け入れよ!」


 俺は右手に力が籠った。全身に燃え盛る炎のような怒りが込み上げるのを感じた。


 「そんな理由でお前らは百の命を奪ったのか!」


 「それがどうしたと言うのか! 達成のためには犠牲は必須なのだ!」


 互いの怒号が戦場に響き、緊張度が増す。


 「やがては森羅万象、ありとあらゆるものを犠牲にあの御方を昇天させる。貴様らも養分に過ぎないのだ」


 この男は打ち負かしたとしても止まらない。殺すまで、命を絶つまでこの思想をほざくだろう。世界中でどうしてこいつらが指名手配となっているか理解した。


 ──こいつは必ず殺す必要がある。


 フーッと息を吐く。体内の中にある全ての空気を、感情すら押し出すつもりで。剣は力任せでやっても引き抜けないだろう。片手で攻撃を掻い潜り、剣を奪って殺す。


 会話は必要ないと思った俺は奴との距離を潰した。相手は剣を袖の中にしまうと、ローブと同じ真っ白な手のひらを俺に向けた。


 幾つもの氷塊が飛びかかる。俺は目を大きく見開き最適解を引いて回避する。『プロテゴ』を展開すると足が止まる。焦って避けても足が止まる。


 止まってはいけない。走り続けないと氷塊の雨から抜け出せない。


 透き通った青の氷が俺の体を掠め後ろに飛んでいく。その内の一つが俺の額を正確に捉えた。頭が後ろに弾けた、が、それでも俺の脚は動いている。こいつだけは、絶対に倒す! その一心で俺は脚に踏ん張りを効かせ前へ前へと動かしていた。


 「なに?!」


 今までの俺とは違う。この世界に来る前の俺だったら人のために行動するなんてことはなかった。だが、この世界に来てより『未来日記』で人の生死を見ては焦り、行動し、改変してきた。


 人のための力と、この世界で得た叡智と力が上乗せされれば頭が弾けたくらいで脚は止まらない。


 距離が数メートルとなった時、奴は慌てて袖の中から剣を落とす。身を落とし、低く構える。そして、踏み込む直後──奴は俺が大きく振りかぶったのを見ると、脚の力を抜き避けの構えに変えた。


 俺がそのまま振り抜く。俺が投げた()()は男に命中、することは無かった。なぜなら俺は何も投げていないからだ。


 奴が躊躇している間に俺は至近距離まで迫っている。慌てて奴が剣を大段上に構える。その時、俺はもう一度投げの構えを見せた。


 もう何も持っていない。先程のブラフをもう一度やる──男がそう考えた直後、奴の額に鈍い衝撃が走り攻撃の手が緩んだ。


 コロンと空色の塊が地面に転がった。


 (これは……氷塊!)


 すかさず俺は男の手にある剣を奪いにいった。コンマ数秒遅れ、奴が手のひらに力を入れるが先手を取れた俺は柄をほとんど握っていた。


 「させぬ!」


 片方の手にある刃で突き刺しに来る男。近距離でこれは避けられない。


 「死ねぇぇぇ!!」


 刹那、鮮血が男のローブに飛び散った。剣が刺さった場所から生温い血が抜けていき、ダランと力が抜ける。だが、剣が刺したのは既に使えない俺の左腕だった。


 「これで俺が止まるかよ!」


 俺は完璧に剣の奪取に成功すると、袈裟を落とす。


 「がぁぁぁっ!!」


 しかし、奴の手にはもう一本の剣がある。左腕から引き抜き、防御をする──ことは出来なかった。鬼気迫る俺の重圧に肝を潰し、力が入らなかったのだ。


 俺は斜め上から下に掛けて容赦なく剣を振った。皮膚を、血管を、肉を断ち切る感覚を手に感じながら剣は最後地面にコツンと当たった。


 男の左肩から右横腹に向けて真っ白なローブの上に赤が走った。全身の力がその傷口から抜けたのか、仰向けに倒れ込んだ。


 「ここで……ゴフッ……我を殺し、ても……同志は、止まら、ぬ……いずれ世界に、災いを……」


 俺は男を見下ろしながら刃を振り上げた。男の遺言なんて聞く必要無い。聞くに絶えない雑言だ。俺は情を持たず、剣の切っ先を男の心臓に突き刺した。


 ズブッと心臓を突き刺すと血が逆流し、雪のように白いローブが血に染まった。


 「ゴフッ……!?」


 男は絶命した。俺は、初めて人を殺した。それも、悪人だ。世界中の人間が後ろ指を指す人間。だが、人を殺すという感覚は何か引き戻すことの出来ない、殺人者という烙印を俺に押した気がした。

 

次回 第二十五話 「誤ち」


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