第二十三話 「油断大敵」
一筋の光目掛けて一心に俺たちは走った。近づけば近づくほど光は増し、路地の闇を払ってくれた。最後には蒼天と陽光とが俺たちを照らした。
「出れた……出れた!」
数分前まで死に直面していた俺たちが安全圏に逃げることができた。その喜びと感動で俺は涙が溢れた。だが、一番は隣にいる少女の死を拝むことがなかった、ということだ。
「ふーっ、ミユ安心したらお腹すいちゃったな!」
「そうだね、皆と合流してご飯を食べようか」
一先ずは全員と合流することが大事だ。俺たちは、確か、街のことについて調べてたんだっけ。
もう路地裏になんて入らない。楽をしたくてもその道を選ばない。急がば回れ、という言葉を身をもって感じた。
では早速、人探しへ――
「姉様!」
幼い青年の声が聞こえたと思えば、ミユの耳がピンッと立った。聞き覚えがあるのか、パッと花のように笑顔が咲き、聞こえてきた方向に向かって走り出した。
「ちょっ、ま、待っ、ごがぁっ!」
俺はミユに手を引っ張られ人の間を行く。途中、何度も人とぶつかりながら彼女に連れていかれる。さっきの戦いよりこっちの方が痛いよ……。
「いたー!」
ミユの元気いっぱいの声が聞こえたと思うと俺の手を離し、自分とそっくりな男の子に飛びかかった。その隣にいた、初老の男性も少し戸惑っている。
「いってぇ……」
全身に打撲傷が出来たのかと思うほど、全身が痛い。だが、それでも再会するための手間が省けたようだ。
「トウマ殿、吉報ですぞ」
立ち上がりながら埃を払う俺を見ながらジュラルは俺の耳元で話し始める。彼の口から語られる内容は衝撃そのものだった。
「な、なに……捕まえた?!」
「見事お捕まえになられたので、我々はお二方を捜していたのです」
聞けばワンジュとその護衛のユジンは俺と同じく路地裏に入ったそう。そして、俺たちと同じく刺客と戦いになりボコボコに打ち負かした後、事情聴取(拷問に近いことしたらしい……)をしたらあっさりと口を割った。
手に入れた情報を元に捜索したら、捕まえたらしい。
それじゃあ俺達の努力がゼロになったも同然だな。変なじいさんとの出来事とか、俺が死んだこと、さっき死にかけたことも余り意味が無かったのか。
「それで一度、犯人の処遇について話し合いたいとのことです」
話し合う?
この世界には警察のように治安維持を目的とした人間はいないのだろうか。いれば、その人間に渡せば終わり、ではないのか。
「行きますぞ」
ともかく、俺たちはジュラルに導かれ現場へと向かった。
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ジュラルに連れて行かれ、たどり着いたのは住宅街の中でも人気のない角。その家屋だけボロボロで廃屋といった感じだった。
中に入れば、光の届かないリビングで黄昏の瞳を光らせ足を組みながら座るワンジュと、その隣に自立するユジン。
そして――彼らの前にもう一人。身体を縄できつく縛られ、口に布を突っ込まれている中年の男。
なるほど、この音が件の犯人か。
「来たか、では早速この男をどうするか話し合いを始めよう」
ワンジュが口火を切った。彼は椅子から立ち上がると、目の前で膝まづいている男の肩をポンと叩き、
「私とコハンはこの男を殺すべきだと思う」
「え……殺す?」
俺は衝撃的な言葉に、息を呑んだ。彼の言葉で場の空気感が変わる。緊張の糸が張りつめられ、俺は鼓動が速まるのを感じた。
「この男は、街で発生した『青天龍』と関係がある。つまりは『昇神教』の一味。生かしておく理由は無い」
「『昇神教』って、なんですか?」
「『青天龍』を神と崇め、世界に厄災をもたらす邪教のことだ。この街の事件も、全ては龍の復活のためだとこの男が吐いた」
『昇神教』、そんなカルト集団がこの街に潜んでたのか。インターホンを鳴らして教えを押し付けてくるあの世界の奴らとは比べ物にならないほどヤバいな。
「私もこの者を殺すことに賛成です」
「僕もここで殺っておいた方がいいと思う」
「ミユもミユも! ドカーンってやりたい!」
この場にいた、俺を除く全員が斬首することに賛成した。「では」と言うと、ワンジュが柄を握った。彼は今この場でもう殺るつもりだ。
チラっと座り込んでいる犯人の男を見てみれば、その男は堂々と諦めがついているのか怖がる素振りすら見せていなかった。俺は男の様子に少しの違和感を覚えながら、
「待ってください!」
俺はそこに待ったを掛けた。
全員が俺に注目をする。彼らのどの目を見ても「なぜ止める」という目をしていた。
「止める理由は?」
ワンジュの目が細く鋭くなる。俺は一瞬彼に殺気を向けられたかのように感じた。そのため、少し言葉に詰まってしまった。
「こ、ここで殺ってしまえば貴方の名誉回復が難しくなるんです」
「それは一体どういうことだ?」
「ここで俺たちの独断で殺すよりも、正式な機関に渡した方が民衆が貴方のことを認知するんじゃないかなって。ここで殺してしまえばこの事件は静かに幕を下ろし、人々の記憶から少しずつ消えていきます。
ですが、警察かどこかに送れば恩賞や表彰されるため民衆の記憶に残ることが出来るんです」
俺の言葉を聞いたワンジュは「そうか」と呟くと柄から手を離した。
「それに、なんでも殺して解決ではなく他の方法でも解決することを試みるのが大事じゃないかな、って」
「――なるほどな。だがこの男は死刑を免れることは出来ないだろう。『昇神教』は世界中で指名手配されている。理由はどうであれ、教団の者が捕まれば確実に殺される。
引渡したところでこの男の死は避けられないが、確かにトウマの意見に従った方が得策だ」
どうせ死ぬなら上手く活用する、という魂胆か。
すると彼は膝をついている人間を立たせる。ワンジュはジュラルと顔を合わせる。
「やはりトウマ殿は反対されましたな」
「ああ、予想通りだった」
「え、分かってたんですか?」
「いや、私の憶測だった」
どうやら、ワンジュは俺がこうすることを読んでいたみたいだ。そのために一度集合させた、とようやく理解した。
何はともあれ殺す選択は避けられた。なんでも殺して解決するのは非人道的だからな。意味が無くなった行動になってしまったものもあったが、解決したみたいだ。
「では早速――」
皆が廃屋を出ようとした時だった。俺は死の気配を感じ取った。無数の武器に貫かれて死んだ時と同じ重圧を感じた。
「しゃがめぇぇぇ!!!」
反射的に、腹の底からそう叫んだ。
すると全員が同じ気配を悟っていたのか、俺の言葉より少し早くその場に伏せた。
直後、あの時と同じように千程の武器が飛翔してくる。それら全ては家の壁を貫き、俺たちに襲いかかってきた。
雨のように降り注いだそれは家屋をズタボロにした。屋根は落ち、壁は穴が空き、家具は粉微塵になった。武器が通れば何も残らなかった。運良く俺たちにはかすりもしなかった。
誰も動かなかった。いや、動けば餌食になると分かっていたからだ。
あの時と違うとすれば、攻撃が止んだことだろうか。数十秒間、存在していないかのように固まっていると煙が舞った。
「止んだ、のか?」
恐る恐る全員が立ち上がってみれば、白粉の中に黒い影がいくつか見えた。敵だ、敵がいる。
「武器を構えろ!」
ワンジュの言葉で臨戦態勢に入る。
敵は堂々と白煙を切りながら現れた。
長身の真っ白なローブを纏っても隠せないガタイの良い骨格。何人もの血を啜ったであろう双剣。同じ見た目をしたのが三人。
「やっぱり、死んでなかったのか!」
俺の胸の中にあった疑念は間違っていなかった。確実にトドメを刺しておけばよかったと、俺は後悔した。
だが、こいつらは俺とミユの二人がかりでも倒せた奴らだ、味方がいればどうって事ないに決まっている。奴らの攻撃法も知っている、魔法と相性が悪いってことも!
俺は正面に見えていた敵目掛けて飛び出した。さっさと終わらせて、真に事件に幕を下ろす。早く街の人達に安全を――
「トウマ殿、待たれよ!」
ジュラルの言葉が聞こえた直後、敵は空を切った。
斬撃を飛ばす攻撃。一度見た。
(これを弾いて、鍔迫り合いに持ち込む!)
俺は直ぐさま『草薙』で払いに掛かる。
見えない斬撃と俺の剣が触れた直後――俺は豪速で後方に飛ばされた。家屋の壁を壊しながら、正面の家に叩きつけられる。
「がぁっ……?!」
あの時とは非にならない威力。俺は競り負けるとは微塵も思っていなかった。そのため、まともな受け身も取れずモロに食らった。
頭から赤の液体が垂れる。飛ばされた家の壁は石で出来ていたのだが、大きく凹んでいる。背中と頭が痛い。骨が折れたんじゃないか?
「くそ、がぁ……」
剣を杖代わりに立ち上がると、音もなく俺を飛ばした奴は歩いてきていた。フードで覆われているため、顔は見えないが、心底笑っているに違いない。
「わざと手加減していたんだよこのアホが」と笑う声が聞こえる。俺は気合いで立ち上がり、剣を構える。
「上等だ、だがな……勝つのは、俺だ!」
恐らく、この男も『昇神教』の一味なんだろう。だとしたら、こいつも捕縛して連行する。負けられない、街の為にも、負けられん!
「いくぞ!」
その言葉が合図となり、俺はこいつと再戦することになった。こいつを倒して、事件を終わらせる!
次回 第二十四話 「鋼の大和魂」
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