第二十二話 「絶対に勝つ」
勢いに身を任せて駆け出したは良いが、作戦は無い。当たって砕けろ精神でやってみただけだ。光り物を持った相手に絶対にやってはいけない行動だが、やらなければ俺が殺られる。
俺たちが突進をしたのを視認してなお、敵は悠然と歩いていた。そんなもの、都合の良い的だ。
「業火の魔法!」
ミユの手から炎が放たれる。だが、奴はそれを手にある刃で弾いた。火玉は両断され、壁に叩きつけられた。
しかし、十分だ。本命はそれでは無い。
既に俺は距離を潰し、『草薙』を大段上に振り上げている。
「やぁ!」という掛け声と共に、俺は刃を振り下ろした。敵はそれを双剣で防いでみせた。だが俺の刃はその程度では止まらない。俺はジリジリと鍔迫り合いを制し始める。
いける……! このまま剛力で!
勝利の女神が微笑んだ。そう思った直後、白いローブが跳ね上がった。視界の端でそれを捉えていたが、剣に意識が行くばかりで反応が遅れた。
「がぁっ!」
ゴッという音とともに腹に鈍い衝撃が走った。思わず半歩下がる中、敵の攻勢が激しさを増す。
「なに……!?」
俺とミユの目に入ったのは、赤く燃え盛る刃。先程のミユの魔法を防いだ刃が火を纏っていた。いわゆる魔法剣というものだ。
「氷の魔法!」
ミユが再び魔法を放つ。ローブの人物は着火していない方の剣でそれを弾く。すると、炎と同じように刃が冷気を放ち始める。
「ダメだ、魔法とは相性が悪い!」
魔法を吸収する能力か、剣かは知らないが、魔法を使えば笑うのは敵側だ。そうなると、実質俺とのタイマンになる。
「ミユ、少しの間だけ辛抱してほしい」
だが長引くことは許されない。数分でも惜しいのだ。こいつと同じような敵があと二人いる。こうして立ち止まっている時間すら惜しい。
だから俺はミユに目配せをして合図を送った。ほんの少しの間だけ、二人の相手をしてほしい、と。
「魔法剣士になったとして結局は剣士。バフなんて意味は無い!」
背に腹はかえられない。俺は再び剣を手に地を蹴った。今度は正面ではなく、上からの攻撃。しかし、やり方を変えたのは俺だけではなかった。
敵は刃同士を交錯させた。赤と青の魔法が交わる。それを力強く振り抜いた。すると、炎と氷の斬撃が飛んできた。
俺は直ぐさま、剣を盾代わりにそれを防ぐ。ガンという重い音が二度響くと同時に一発が俺の頬を掠めた。だが、それだけで防ぎきった。
「――ッ!」
防がれるとは思っていなかったのだろう。今度は敵が半歩片足を下げていた。
俺は再び剣を構え直し、落下する。
「死にやがれ!」
これを逃せば次のチャンスは何時になるか分からない。俺は重力を味方に必殺の意を込めて豪速の刃をたたき落とした。
それはまたしても双剣で防がれたが鍔迫り合いとなれば俺に分がある。ジリっと音がなった直後、俺の刃は防御を突き抜け、頭に命中した。
「ぐぉっ」という潰れた声が聞こえた直後、鮮血を吐きその場に倒れ込んだ。
勝った、正面から勝った。
だが、随分とあっさりだ。こんなもんなのか? 本当は死んだフリをしているんじゃ……。
いや、それは恐らく分身だからだろう。一体作る度に力が分散してしまうデメリットがあるはずだ。
俺はそんな心配を浮かべながら方向を反転した。
「でも……いや、これで良い。早く行かないと!」
一瞬俺は足を止め、本当に死んでいるのか不安になった。だがそれでも、ミユの心配の方が大きい。俺は今度こそ振り返らずに走った。
この時、敵の顔を確認していたら……どうなっていたんだろうな。
***
まさか、死んでないよな?
気が付けばまたミユは死んでいて……そんな未来が訪れていることへの恐怖心を抱きながら俺は走っていた。
走る中、ミユが必死に防衛しているのが見えた。
敵二人に、四本の刃に攻められながらしっかりと防御していた。だが、焦っているのだろう。呼吸が乱れ、目が左右に何度も走っている。
――もう少し、あと少しだから待ってくれ!
だが、待ってはくれなかった。その内の一撃が彼女の防御を突き抜けたのだ。下からの突き上げが、彼女を捉えた。
剣が彼女の体を突き抜け、上に持ち上げられる。
その中で俺は、彼女を失うことへの恐怖では無く怒りが込み上げてきた。
また死んでしまう。今度は俺の目の前で。俺が無力だから、弱いから、守りたい人を守れない。俺は全身に、マグマのような熱が入るのを感じた。
同時に剣を浅く握り、後ろに置いた。
俺は怒りのままに、右腕を振り抜いた。
空を割きながら、俺が投げた剣はミユを突き上げている人間の鳩尾を正確に捉えた。その拍子に、剣を離したためにミユが地面へと落ちた。音速に近い『草薙』をまともに喰らえばタダではすまない。
剣が空を走ったように命中した奴は暗い闇の中に消えて行った。
残る一人は隣にいた味方が吹っ飛ぶのを見届けた後、俺を視界に入れた。すると奴は構えを取る。だが、人は怒りに満ちて行動した時、ある一点に力を注ぐ。そのため、人知を超えた事が出来る。
俺は既に敵の懐へと入り込んでいた。同時に地面を強く蹴り抜き、下段の蹴りを放つ。ナイフのように鋭いそれは脛に当たった。
「――ゴガァ!」
脛はあの弁慶でさえ痛がった箇所だ。鍛え抜かれた者であっても痛みを耐え抜く力に限度がある。片膝をついた、とほぼ同時。俺は下がってきた敵の顔面目掛けて肘を入れた。
グシャッという何かが潰れた感触が肘に伝わる。恐らく鼻がひしゃげたのだろう。ブシャッと血を撒きながら仰向けに倒れている様を見届けるよりも先に、俺はミユの元へと駆け寄った。
「大丈夫か?!」
ミユは血溜まりに沈んだまま動かなかった。目を閉じ、手には力が入っていなかった。
「まさか――」
死んでしまった。そう思った直後、俺は目の前が真っ暗になりその場に崩れ落ちた。
呼吸が荒くなり、鼓動が早くなるのを感じる。
あぁ……また、また間違えたのか?
俺はまた、道を間違えたのか?
俺は、また……守れなかったのか?
「ミユ……!」
「……呼んだー?」
「――ッ!」
彼女の名前を叫ぶ何事も無かったかのように起き上がった。死んで、、、ない!?
「ちょうど今、傷が塞がったんだー。まだ回復魔法は慣れないなー」
ミユがそう呟いた直後、俺は深く大きなため息を吐いた。生きてる……良かった、良かった。
今度こそ、救えた、助かったんだ。
「もー、トーマ遅いよー。もっと早く来て欲しかったなー」
「ごめんって、でも……生きててよかった」
俺は泣きそうになりながらそう言った。ミユは「えへへ」と笑うと、大丈夫と言いながら頭を摩ってくれた。
いつもなら俺がする側なのに……情けないな、俺。
でも、本当に勝てて良かった。最後の二人に関しては最初に戦った奴と比べてかなり見劣るが、火事場の馬鹿力だったのだろう。
「大丈夫、ありがとう」
俺は立ち上がってミユを手を強く握ると、『草薙』を回収する。俺の投擲の餌食になった奴は、文字通り「く」の形になっていた。恐るべし『草薙』、と言ったところだ。
「あの三人倒したから出られるんじゃないかな」
不確かな事を言いながら、俺たちはT字路をの縦棒部分を真っ直ぐ歩いた。
先程までは何処へ行っても同じ場所にたどり着いたが、今度はどうだ……。正直これで出られなかったら、なんてことは考えたくない。
これで終わりのはずだ、一旦の危機は――
「あっ……!」
一筋の光が見え、人が行き交うのが見えた直後、俺たちは顔を合わせ笑顔でその方向に走った。
だが、それでも俺の心のどこかには微かな心配があった。本当に、これで終わったのか、と。
次回 第二十三話 「油断大敵」
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