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第十四話 「陰術使い」

今話から1月4日まで毎日投稿します。良いお年をー!

 「なんと……!」


 トウマたちが敵に遭遇し、交戦している中のこと。ジュラルとウリルらも刃を交えていた。()()はトウマが見たものと全くおなじ、漆黒だった。


 (まるで闇を体現したかのような漆黒、加えて……)


 ジュラルの一閃は確実にその人物の胸を捉えた、と思った。しかし、フッと霧のように消え失せた。実体が無い、霞のような存在。ジュラルはそう思った。


 「――っ!」


 後方を見ればやはりウリルの至近距離にまで迫っている。しかも手にした刃を振り上げている。そうはさせまいとジュラルは暗器を取り、投擲する。ジュラルは遠距離であっても投擲という技があるのだ。


 正確この上ない暗器は「黒」を穿つ――ことはなく通り抜けた。身体が霧で構成されていると思われる人物は手を緩めることなく刃を下ろす。


 「あぶなーい!」


 場の緊張を打ち消すような朗らかな声が響いた直後、白刃は防御魔法によりウリルの眼前で止まった。皇子とはいえ武術を嗜んでいる。加えて日々、ワンジュと稽古していたこともある。この程度の攻撃なら防ぐことができよう。


 「風の魔法(ヒュニス)!」


 防御魔法により止まった隙をつき、近距離から風魔法を行使するウリル。ブワッと殺風が「黒」を襲う。風に包まれたその人物は微細な霞となり分散する。


 当たった。その魔法は確実にヒットしたのだ。しかし、何事も無かったかのように亡霊の如く、二人の前方に立ち尽くしている。


 初撃にて、自身が相対している敵が使う術は普通ではないと察知していたジュラル。彼は頭の中で思考を飛ばす。


 (このままでは埒が明きませんな。いつかの時、書物の中で出てきた技、陰術がここまでとは)


 陰術とは古来より受け継がれてきた技の一つである。幻影や錯覚を引き起こす魔術のことで闇魔法に近しい魔術。


 陰術を扱うには自身の肉体を改造するか、使用に適した『肉体の器』を用意する必要がある。厄介なことに陰術は無限に分身を作ることができ、分身は使用主が効果を断ち切るまで存在し続ける。


 つまり、一撃必殺の技であったとしてもそれらを打ち払うことは不可能。使用者を討伐することが唯一の勝機。


 ――だが、どこにいる?


 ジュラルは知識はあるが、術を使っている人間がどこに潜んでいるのかまでは知らない。千里眼でもあれば容易に特定することが可能なのだが、生憎と持ち合わせていない。


 しかし、『陰術』にも欠点はある。

 無数に分身を作り出すことが可能とはいえ、自身を中心とした半径百メートル以内に本体が存在しなければならない。


 条件が満たされることがない時、分身は機能せず場合によっては消え失せる。


 「本体は近くに……」


 ウリルは優秀だ。姉のミユと並び、学校では好成績を残し続けている。魔法の才能において、『祝福』抜きに兄妹間で戦った場合、残るのは彼らだろう。


 そのウリルに周囲一帯を焼き尽くす程の魔法を使ってもらう――というのが最善策だが、そうはいかない。


 ここは住宅街。全てが空き家という訳ではない。家の中では一日の疲れを癒すために睡眠をとっている人ばかりなのだ。無辜の民を傷つける訳にはいかない。


 では一体どうするのか? ジュラルがとった行動は――


 「退きますぞ!」


 一度体制を立て直すことだった。

 唯一の突破口である広範囲の魔法が使えない以上、戦っても意味がない。向こうの攻撃はジュラルらに当たるが、ジュラルらの攻撃は掠りもしないのだ。そんな状況下で戦い続ければ命すら危うい。


 ジュラルの一声に迷うことなくウリルは方向転換して走り出す。ウリルを先に行かせ、自らは敵が襲ってくることがないよう振り返りながら走るジュラル。


 不思議なことに分身は、彼らを追うような素振りを一切見せず気の抜けたように立ち尽くしていた。漆黒な身体は闇に溶けるかのように小さくなっていく。


 「どうするんですか」


 「一度全員と合流し、策を練ります。無策で挑んだとしても勝てる見込みはかなり薄いので」


 その時、ジュラルは着流しに手を入れ、伝心貝(でんしんかい)を取り出した。耳元に当て、ゴニョゴニョと話すジュラル。

 二人は夜の住宅街を駆け抜けトウマたちの方向へと向かった。



 ☆★☆★



 「なるほど、幻影の類いか」


 時を同じくして『陰術』により生み出された分身と交戦中のワンジュとユジンもカラクリに気がついていた。


 「スレイ、一度炎を使ってみます」


 太陽のように輝く黄色の髪がユラリと動く。その直後、暗闇の世界に光が灯されたかのように明るくなる。


 ユジンの放った火魔法が漆黒の人間をぐるりと囲う。少しでも動けば炎の餌食となる。


 ユジンは『火精霊の祝福』により、炎のプロフェッショナル。魔法で火を使うことがあればその威力は常人の倍となり、使用するエーテルも半減している。


 「だが、『陰術』に対してはどれも無効化されるのではないのか?」


 「はい、その通りです」


 ならばなぜ――とワンジュが続けるとユジンは少し口角を上げて言った。


 「出来心、ですよ」


 ユジンの言葉にワンジュも口角が上がった。出来心、それはユジンの口癖と言い換えても良いものだ。


 炎によって檻を作られた分身は微塵も動かなかった。顔のパーツがひとつでもあれば、表情から読み取れることがあったんだが、とワンジュは思う。


 その時、ワンジュのポケットが微かに震えた。手を入れ、中のものを取り出すと出てきたのはどこにでもありそうな貝殻。『伝心貝』を耳元に当て、分かったと一言。貝をしまうとユジンを見て言う。


 「一度作戦を練り直す」


 その一言で全てを悟ったユジンとワンジュは身を翻した。

 ジュラルの時と同じく、分身は追ってくるような素振りは一切見られず呆然と立ち尽くしているように見えた。

 


 ☆★☆★


氷の結晶(アイニス・マヒャド)!」


 一方でミユはトウマに伝えられた作戦をベースに魔法を撃ちまくっていた。しかし、そのいずれもやはりヒットしない。氷で閉じ込めようとしても散る。


 やはり当たったと思えばフッと空気に混じり消える。しかし、それは想定内。何度も見た光景にもう驚くことは無い。


 作戦が始まってから数分、ミユは魔力切れを起こすことなく魔法を使っている。一方でトウマはミユの少し後ろで待機し、「その時」が来るのを待っている。


 「風の斬撃(ヒュニス・テムノー)!」

 

 必殺の風が分身を切り刻む。細かく切れた、と思った瞬間ミユのサイドに現れ剣を振り上げている。


 それを見逃すトウマではない。ずっとこの時を待っていた。


 剣を弾くことが出来た時からトウマは思っていたことがある。人間の肉体を模した黒の部分は当たらないが、剣に触れることはできる。それはトウマだけでは無い。剣を握っている分身もなのだ。


 あの剣は普通のものでは無い、特殊加工が施された剣に違いない、と。もしかしたら、剣が本体かもしれない。その可能性に賭け、トウマは動かなかったがその時が遂に来た。トウマが地面を蹴り抜く。


 ―トウマが『草薙剣』で攻撃を防ぎながら、柄を掴む―


 「掴めた!」


 その時、トウマは分身を見つめた。顔のない人間の輪郭だけをくり抜いた姿をしている()()が少し冷や汗をかいている。とトウマの目に映った。

 両の手が塞がっているため、トウマは分身を蹴り抜いた。しかし、不思議なことが起きる。


 トウマの予想では、剣を捨てていつもの如くどこかにワープすると思っていた。だが、今回は違った。剣を固く握ったまま、動かなかったのだ。つまりは、


 「えっ……当たった……?」


 トウマの前蹴りが『陰術』を破り、分身にダメージを与えたのだ。

 

 

次回 第十五話 「違和感」


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