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間話 「魔法の塩」

前話とは全く関係無いです。ただの平和な日常会話です。

 港町ミナバルトは塩の名産地として有名である。各国の塩の輸入と自給率を表すと八:二くらいになる。塩と言っても味付けがほんのりしょっぱくなる、という定番の塩だけでなく料理の味がする塩がある。


 肉料理や魚料理、スープ系や飲み物など、塩のレパートリーは無数にある。


 「お兄さん試食してみないか?」


 ミユと街を歩いていた俺はとある店の前を通ろうとして呼び止められた。中年の小太りの男が皿の上に転がる桜色の粒子を差し出した。


 「肉の味がする塩なんだがまだ試作品の段階だからよお客さんの意見が聞きてぇんだ。もちろん無料だぜ」


 無料という言葉に惹かれた俺とミユは塩の山から一摘みし、口へパラパラ落とした。


 舌に乗るとすぐに溶け、焼肉のようにジューシーな味わいが口いっぱいに広がる。俺は肉がないのに咀嚼をしてしまった。


 「んー!」


 「この塩美味っ!」


 ミユも両手を頬に当て幸せそうな顔を浮かべている。俺たちの反応を見た店主はゲラゲラと笑い、


 「どうやら成功のようだな!」


 首を大きく縦に動かしながら頬が緩んでいた。是非とも旅のお供に添えたいものだ。お腹が空いても満たされないことが欠点だが、その辺の草を噛んで空腹を誤魔化すよりはマシだな。


 「是非とも作り方を知りたい」


 「そりゃあダメだなぁ、それを知られたら商売にはならんからな」


 「そこを何とか!」


 「なんとかー!」


 俺たち二人は手を合わせながらお願いした。店主は顎を擦りながら何かを考えているように唸り始めた。しばらく硬直すると、「よしっ」と何かを決めたように店の奥へと消えていった。


 再び姿を現した時、彼の手には小さなボトルのようなものを持っていた。それを俺たちの前に差し出しながら、


 「これならいいぞ、試食してくれた礼だ」


 両手で受け取ってまじまじと見てみれば、中には淡黄色の角が角張った粒子がコロコロしている。まさかこれは──そう思った時、店主の説明が入った。


 「うちで開発した丼の塩だ。振りかける直前に食べたい丼の名前を言ってかければその味がする魔法の塩だ。悪いが、これで我慢してくれ」


 「我慢だなんてとんでもない! 最高です!」


 〇〇丼の塩ではなく、食べたい丼の味がする塩。そんなものが開発出来るなんて魔法様様だ。丼は世界を救う! 男飯の中の男飯! 究極の料理よ!


 「それじゃあな。貴重な意見ありがとよ」


 俺たちは店を後にし、実際に塩を舐めてみることにした。ボトルのキャップを外し、食べたい丼の名前を言う。


 ここは無難に牛丼、といこうか。俺は「牛丼」と言いながら、手のひらに塩をパッパッと二振り。その塩を舐めてみると、


 「……なんだこりゃ」


 口に広がったのは牛肉の味──ではなく、少し生臭い魚の味だ。ちなみに俺は魚が大の苦手だ。俺の表情が曇ったのを見ていたミユが言う。


 「ミユも食べたーい!」


 俺は指先で塩を摘み、ミユの口へと落とした。しばらくモグモグした後、ミユの表情も曇り始めた。


 「なんか初めてな味ー、ミユ苦手かも」


 この世界特有の料理となれば納得出来たんだが、ミユも食べたことがないと来た。これは本当に食べたい丼が食べれるものなのかとボトルをクルクル回していれば、大きな文字で何かが書かれているのを見つけた。


 だが、生憎俺はこの世界の文字を少しは読めるのだがラベルに書かれている文字は読めなかった。そこでミユに尋ねてみれば、


 「えぇーっと、さかな? 魚って書いてあるよ」


 それを聞いた瞬間俺は膝から崩れ落ちた。俺の嫌いな食べ物ランキング堂々の一位。俺のハッピークッキングライフが……この世界でも丼が食えると思ったのに……。


 ちくしょう! あの店主絶対に許せん!


 「あ、魚の丼って書いてあるよ」


 「説明不足じゃねぇか!」


 好きな丼って言ったよなあの店主。魚オンリーならそう言ってくれよ……。たぶんあの人も絶対悪気があった訳じゃないんだろう。うん、そうだ仕方ない。忙しそうだったしな。新しい塩の開発に。


 しかしそれでも俺に魚を食わせたも同然の行為をしたのは許せん。これは猛抗議だ、反乱を起こす。


 俺たちはそのまま件の店へと戻り、店主を呼び戻した。


 「おぉん? なんださっきの兄ちゃんか、どうした?」


 「この塩、好きな丼食べれるって言ってましたよね! 魚専用じゃないですか!」


 俺は机をカウンターをバシバシ叩きながら言った。俺の言葉を聞いた店主は「言い忘れてたすまん!」って悪びれる様子もなく眉間に皺を寄せていた。


 「何言ってんだ兄ちゃん、好きな丼じゃねぇか」


 「いや、丼と言えば肉でしょう! なんで魚の丼だけなんですか!」


 すると店主は目をパチパチとさせながらポカーンとしていた。俺の丼愛が伝わっていないのか、はたまた魚が嫌いということが伝わってないのか。


 「俺ぁ、肉の丼なんて初めて聞いたぜ? 世界を探しても肉の丼は無いと思うんだが……」


 「えっ?」


 「昔はあったらしいがある時期から動物の希少価値が高まったんだ。それ以来、動物の丼を提供するのは禁止なんだ。だから家でも取り扱ってねぇんだ。俺が生まれる二十年くらい前なら売ってたらしいが、俺は食ったことがねぇ」


 「なん、だと……!」


 俺はその場で卒倒した。この世界では肉の丼が食えないという最悪の事実を受け入れたくなかった。


 

 

次回 第十四話 「陰術使い」

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