第十話 「情報収集」
俺たちはミナバルトに戻ると、各々分散して聞き込み調査を行うことにした。
と、言ってもミユとウリルの護衛として俺は付き添いをしなければならない、と思ったがそこはジュラルが引き受けてくれた。
ワンジュはユジンと、ジュラルはミユとウリルと、俺だけ一人になってしまった。蒼の空の下で俺は呟く。「おのれ、仕組んでいたな!」と。
だが別に孤独が怖いという訳でもない。むしろ、ちょうど良いといったところだろうか。
俺は皆と別れた後、人気のない路地裏へと入った。そこで、ポケットを漁り手帳を取り出す。
「うーん、やっぱり具体的な記述はない」
ザマスの街で擬似的に体験したあの出来事。あれが何だったのかはもちろん検討はついている。だがしかし、人名が気になるのだ。それが分からねば誰を救わないといけないのか分からない。
「おっ、新しい内容だ」
お気に入りの動画投稿者が更新したような反応。もう慣れつつある。
「ミナバルトでの殺人鬼はミナバルトにいぬ。その者、既にお前を見れり」
ゾッとするような一文。
思わず俺は後ろに誰かいないか振り返ってしまった。当然後ろには誰もいない。
どういうことだ。
殺人鬼はミナバルトにいない。だけど、俺を見ている。矛盾している。ミナバルトにいる俺を一体どうやって見ているというのだろうか。
いや待て、まだ続きがある。
「――その者、我を千の回廊に閉じ込め、仲間を殺せり」
これはもっと分からなくなったな。
そもそもなんで古典口調なんだ? 急に書いた人間が変わったのか?
それは置いといて――
ミナバルトで暗躍する殺人鬼は既に街にいない。でもミナバルトにいる俺を今も見ている。加えてそいつは、千の回廊とやらに閉じ込めるらしい。そして、その間に仲間を殺っちまう。
矛盾があるところからだな。
いや、矛盾ではないのか?
この世界は何でも出来る超ハイテクな世界。本物の占い師のように水晶玉を通して俺を見るなんてこともできなくは無いだろう。その他にもアイテムを使って俺を透視している。なんてことも考えられる。
じゃあ、どれかに当てはまるとして、「我」って誰だ? 普通に考えれば、手帳を書き記した人間が閉じ込められるということだろう。
まただ、またしても誰か分からない不特定多数の中から誰なのかを探し出す必要がある。手帳のあれも解決していないのに、ここでもつっかえることになるとは。
「それにまた死人が出るのか……」
そう、手帳の最後には「仲間を殺せり」とある。
この仲間はきっと俺の仲間を指している。だがこれもまた、誰かは書かれていない。
この手帳新しいことが判明する度に欠陥部分が浮き彫りになるな。大丈夫か、これ。
「ひとまず、ミナバルトにいないってことを伝えにいくか」
だが、念には念をってことで数人に聞いて回るとするか。
俺は光の当たらない裏路地から出て、人に尋ねることにした。
☆★☆★
「――ということだ」
数十分後、二、三人から話を聞き終えた俺は集合場所の海浜へと向かった。そこでは既に俺を除いた全員が揃っていた。
ワンジュとジュラルの話はほとんど同じで、殺人鬼は昨日も現れたらしい。何でも心臓を取り出す変態らしく、胸にぽっかりと穴が空いた状態で家の前に届くらしい。まるでウー〇ーイーツみたいだな
「それで、君はどうだったトウマ」
「俺が聞いたのは、犯人は既にミナバルトを離れた、ということです」
ワンジュの顔全体にハテナが浮かんでいる。
自分とは根幹からして反対の言葉を言われたら誰でもそうなるだろう。
「心臓が抜かれているから、宗教的な何かに捧げ物として集めてたんじゃないか、と聞きました」
「なるほど、一理あるな。だがしかし、そのような話は聞いていないのだが、一体誰から聞いたんだ?」
「それは、あの。聞いたというよりも、噂話をしているのをこっそり盗み聞きしただけなので」
「なるほど。意外とそのような話が正しかったりもする。その可能性も視野に入れよう」
一応は信じてくれたみたいだ。
補足しておくが俺は決して虚言癖で、手馴れている訳ではない。
「しかし、そうなると厄介ですな」
ジュラル曰く、街で待機するメンバーと外で待機するメンバーとに別れる必要があるとのこと。そうなると、距離があってもやり取りできるワンジュ集団とジュラル集団とに別れる必要があるな。
「とりあえず、と言いたいところだが、この事件は一刻を争う。可能であれば昨日で最後の被害にしたい」
「なら、やっぱり二手に別れるのが妥当ですよね」
「その通り。だが、犯人の目星をある程度付けておきたい。ただ歩き回っているだけでは、見つけられない可能性が高い」
犯行事件は絶対と言って良いほど、夜中に行われる。建物破壊や爆発なんて到底できるわけが無い。出来れば一発でのして、警察かなんかに引き渡すしかない。
「と、なれば殺人鬼についての情報をもう一度洗い直す必要がありますな」
ジュラルの言う言葉に全員が納得した。
そして再び情報収集のため、分散することになった。
☆★☆★
俺はその間、サボり……ではなく先程と同じ路地に入り手帳の内容を漁っていた。短時間だから特に変化があるわけが無いが、一度気になれば人は確認するまで欲求が高まる生き物だ。
「既にお前を、でも下の文は我、本当に何だこれ」
主語が変わっているということはこの手帳を書き記している人間は二人?
一人はもしかしたらだが、分かるかもしれないがもう一人は全く見当もつかない。
手帳の内容はこれまで概ね俺に関することを綴っていた。そのことを考えると「我」は俺。つまり、この文を書いたのは俺だ。
かっこつけたくて古文風を装うのは少しありそうだが、それだけでは俺と確定は出来ない。
そもそもこの手帳ってどこから来たんだ?
俺が異世界に召喚された瞬間にはポケットにあった。だとしたら、俺は向こうの世界にいる間に手に入れていたということになる。
だが生憎、人のものをパクるなんていう手癖の悪い人間ではない。手帳を強奪して何になるというのやら。
これが俺の『祝福』というのであれば、頷けるのだが『祝福』を受けられるのは多分この世界の人間だけだ。これは神に与えられし加護ではない。
『FF』
未来、もしかしたらこれは―――
手帳の真実に迫っていた時だった。鼓膜を破らんばかりの悲鳴が街中に響いたのだ。
ビクッと身体が反応する。
「なんだ!」
もしかしたら犯人、その考えが過ぎった瞬間にはもう走り出していた。
次回 第十一話 「深まる疑惑」




