第九話 「唯一の光明」
まずは昼食。
ワンジュのその言葉で案内された場所は洋風の高級感あふれる最高峰のレストラン、ではなく街外。しかも、地面に直接座っている。
だが、何事も文句は言ってられない。
ここを最高のレストランとする。
まずは周囲をご覧下さい。
壁などという億劫なものは無く無限に続く世界の風景が広がっています。そして、人の温かみを忘れてはならないと言うように、自然の温かみを忘れないようキャンプファイヤーを焚いてあります。
上を見れば青の宇宙、横を見れば世界の美が、下を見れば人類最高の発明と名高い炎。
パチパチと音を立てるファイヤーの火元には骨付き肉が地面に刺さっています。キャンプファイヤーをぐるりと囲むように六人が鎮座しています。
なにより最高の魅力はこれらの設備を兼ね備えながら無料ということ。お金のことで騒動となる心配はゼロと言えるでしょう。
「よし、そろそろだ。生焼けという可能性は無いだろう」
わーい、飯だー!
実はこういうサバイバル飯みたいなの憧れてたんだよな。
炎で自身の手が焼けることがないよう恐る恐る、骨を掴む。
長時間炎に当てられていた骨は少し熱かった。スンっと嗅いでみれば焼きたての良い香りが鼻を抜けた。
モン〇ンのこん〇り肉のように、上手にできたようだ。
口内は既にヨダレでいっぱいだ。
大きく口を開け、肉を噛むとジュワッと油が飛び出し、肉が口の中で踊る。その中でほんのりと塩のような味がする。思わず俺は、美味っ! と口にした。すると、
「美味しいです兄上!」
「うーんうまーい!」
ウリルとミユも満足そうに頬張っている。
珍しくジュラルもうんうんと頷いている。
やはりサバイバル飯は身分を超えて人を救うらしい。これは世界に広める必要があるな。
「隠し味にユジンが用意したこれを振りかけた」
ワンジュがポケットから何かを取り出す。
胡椒のようなボトルに入った白の粉末。
いやこれはどう見てもマ〇ファナ……じゃなくて、ミナバルトで製造した塩だろうか。
「しばらくはこれを振りかけ食べるとしよう」
なるほど。確かにこれがあればある程度のものなら美味しくなる。
すると、では早速と口火を切るワンジュ。
「まず、私たちの今後の行き先についてだが、北方の国バケナストを目指すことにした」
「バケナトス?」
どの国や街も聞き馴染みの無い名前をしているなぁ、と思っていたところでウリルが言う。
「北欧諸国バケナトス、確か僕たちの遠い親戚がいるところですよね」
親戚……俺の頭に浮かんだのは、ミユとウリルのような猫耳族。今のところ猫耳を持っている者を彼ら二人を除いて見たことがない。割と珍しい種族なのか?
「バケナトスの力を借りて私たちはソンヨを倒す、それが最終的な目標だ」
だがしかし、バケナトスの国が力を貸してくれるのだろうか?
親戚とはいえ、相応の覚悟が無ければ無理だろう。死者が出る可能性がある戦いになるだろうしな。
「バケナトスの道のりは長い。歩きでは年を跨いでしまう。そのため、途中途中乗り物に頼らざるを得ない。加えてソンヨが大人しくしているはずもない。だから、全員偽名を名乗らせた」
ではここでと俺が手を挙げて言う。
「どうして俺たちの偽名を知っていたんですか」
すると、ワンジュが懐から手のひらサイズの桜色の貝殻を取り出した。
「これは伝心貝。対になっている貝を通して会話ができるものだ。これを使ってジュラルとやり取りをしていた」
なるほど、と俺は相槌を打つ。
あの時、丘の上でジュラルが耳元を覆って何かを話していたのはこれか。
「だが欠点がある。それは、対の貝一つとしか会話ができない。つまり、どちらか一つでも破損したり紛失すればそれまで、ということだ」
替えがきかない重要品というわけか。
残念だ。俺の中では片方が壊れても、新しい相棒だよーって貝に何かすればまた会話出来ると思ったんだが、無理か。
「道中、襲撃があればこれで連絡が出来る。そのため、戦いとなれば私とジュラルの集団に分かれて戦う。どちらに入るかは任せる」
まぁ、妥当な使い方だ。
「して、ワンジュ様の名声を高めるため道中の事件はなるべく解決して回ることに決定されました」
これは後々のためだろう。
俺は残っていた肉を一気に口へと運ぶ。にしても美味いな。
「私としても、目の前で困っている人を見捨てるのは忍びない。私としては私情も混じっているが是非とも力を貸して欲しい」
軽く会釈するワンジュ。
王になった時に重要視されることの一つに他国からの支援があるのだろう。だが他国と言っても一概に、王のみという訳では無い。最終決定をする際の指標は国民だ。
その時に、ワンジュに助けられた人が一人でも多くいれば味方となる。そのための布石としてこのような行動をするのだろう。
「そして道中の仲間勧誘は一切無し、ということになった」
「えぇっ?!」
俺は肉の無い残った骨を犬のようにかじっていたが、それを捨てて立ち上がってしまった。
ジュラルがトウマ殿、と言う。まるで落ち着けといわんばかりだ。俺は恥ずかしくなり、少し赤面しながら座る。
「これに関しては仕方無い。私も仲間が欲しいのだが、懇願してくる者の多くは『冒険者』としてだろう。だが、私たちは『放浪者』であり、お尋ね者でもある。
彼らを騙して死地に立たせるのは申し訳が無い」
おっと、これはジュラルと話したことだった。
何故か忘れていた。仲間の勧誘は無しか……だが原則として俺たちからは、か。
まぁ確かに、うん。そうだね。
そうなると俺の直前の行動が恥ずかしくてたまらないな。
「なるほどです。ですが、向こうからどうしてもとお願いされたらどうするんですか?」
食べ終わった骨を地面へと置き、口元に食べかすを付けながらウリルが言う。
「あー、ウリルぎょーぎ悪いよ」
と、言ってミユが自身の袖でそれを拭う。
良いお姉ちゃんだな、と思っていると微笑しながらワンジュが話し出す。
「断っても無理な場合は全員で会議しよう。正体を明かすに足る人物か、それとも断るか、を」
「人間性の確認であれば私が担当致します」
ジュラルが言う。確かに長年の知恵を蓄える彼なら任せることができる。彼のようなポジションの人間は人を判断するときに真価を発揮するのだ。
「では早速、事件を解決します」
突如として立ち上がったジュラルが言う。
どうやら、もうこの街で何かがあるようだ。
「港町ミナバルトでは、夜な夜な殺人鬼が現れるようです。この数日で被害は拡大し、六人が行方不明となっています」
「えっ、ちょ、殺人鬼?」
そんな危ない事件解決するの?
子猫探しとか、雑務とか、収拾とかじゃないの?
人殺しを探すの? 早く言ってよ!
「そのため、今日はミナバルトに留まる。夜になったら行動を始める。それまで情報収集をしよう」
その言葉を合図に皆が立ち上がる。
俺は大きく伸びをする。あぁ、殺人鬼か。まぁドラゴンを相手にしたし、暗殺者とも戦ったし、なんとかなるでしょ。
そうして俺たちはミナバルトへと戻って行った。
次回 第十話 「情報収集」




