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第八話 「ミナバルト」

 シュラーゲル王国が海に近いからなのか、それとも俺たちの足が速いからなのかは知らないが昼頃にミナバルトらしき街が見えてきた。


 それと同時に、この世界で初めて拝む海が見えてきた。距離にしてまだkmはあるだろうが、陽光を波の無い水面が反射し、キラッと輝いている姿がありありと浮かぶ。


 「港町ミナバルトは交通、漁業の要となっている街です。加えて、大陸有数の門を構えない都市としても有名ですな」


 確かに今までの都市(ゆうても片手に収まるくらいしか訪れたことは無いが……)は全て門がドシンと構えていた。


 小さな丘へと上り、ジッと目を凝らして見れば、軽い柵が置いてある程度で本当に門らしきものは見えない。


 「おぉー絶景とやらですなー!」


 「風が心地良いですね」


 そう、風だ。

 海に近いミナバルトは年中を通して風が吹き止むことがない、とジュラルが語っていた。


 チラッと彼を見てみれば、耳を手で多いごにょごにょと誰かと秘密の電話をしているようだった。


 まぁ、彼にもやることがあるんだろう。


 俺は息を大きく吸い込んだ。

 街までいけば、きっと塩のほのかなしょっぱさが鼻を抜けて、おにぎりを食べたくなるんだろうな。岩塩プレートのようなものはあるのだろうか。

 もしあるのなら、是非ともその上で肉を焼き踊りにしたいものだ。


 すると、俺と同じように空気を大きく吸い込んでいたミユとウリルが言う。


 「うげーっ! なんかしょっぱぁーい!」


 「風が塩の味がします!」


 いや、そんなことはないだろう。と俺ももう一度、口を大きく開き、全てを吸い込む勢いで吸う。

 すると、口内に広がったのはやはり塩のような味。いや、これは塩だな。


 だが街まで離れていると思うのだが。

 と、そこで博識のジュラルをみんなで見つめる。すると、博士は、間違えた。ジュラルは知恵の瞳を開いて言う。


 「ミナバルトは世界で最も塩分濃度の高い塩を生産しております。


 しかもその塩は微細であり、とても軽い。そよ風一つで飛び散ってしまうほどです。もちろん、対策を講じてはありますが、このように離れた場所まで飛んできてしまうことも稀にございます」


 塩の生産か、なるほどな博〇の塩とどっちが美味いか是非とも比べてみたいものだが、生憎ともその塩はこの世界で取れない。


 「では、ミナバルトの概要については後ほどに。皇子様の元へ急ぎますぞ」


 風がそよぐ丘を降り、俺たちはミナバルトへ再び全速前進。

 と、思ったその時、ジュラルがこちらを振り返った。


 「忘れていないとは思いますが、これより我々は全員偽名を使います。効力は長くは持たないでしょうが、少しでも刺客の手を煩わせることができるのなら活用しましょう。


 私のことは、ジュラルではなくサーズと読んでくだされ」


 あの夜出た作戦か……やっぱり、効果が無いという結論は変わらないのか。まあだとしても、少しの成果が得られるのなら使うに越したことはない、ということかな。


 「じゃ、俺はソウマで」


 「じゃあミユはヘレナ!」


 「僕はジョンでお願いします」


 各々が適当に名前を付ける。

 えぇーっと? ジュラルさんがサーズで、ミユがヘレナ。おしゃれな名前だな。ウリルがジョン。可愛い見た目に反して強そうな名前だな。


 で、俺が一文字変えただけのソウマ。

 意外とこういうのがバレなかったりするんだよな。

 


 ☆★☆★



 俺たちは港町ミナバルトへとたどり着いた。


 やはり港町だ。

 海賊船のように大きな帆を広げ、迫力のある図体をした船が無数に海上にある。


 そして何より魚臭い。俺は魚が嫌いだからこれは溜まったもんじゃない。しかも、全身が緑のやつとか、真っ黒な魚が売られているのを見た時、思わず俺は自分の目を疑った。


 ザマスやケルガルムとは違い城壁がないため、閉塞感が無い。まぁ、それがいざという時に吉と出るか、凶と出るかは知らないが……。


 海水を飲んだかのように口内がしょっぱい。

 先程よりも風が強く吹いているが、暴風ほど生活に支障をきたすほどでは無い。


 道中、流石に着替えなければ目立ちすぎるとの事なので全員服装をチェンジした。


 ジュラルは相変わらずの薄手の着流しに草履という江戸の服装だったが、俺はかしこまった服を着たくなかったため、薄手の旅服に変更した。質素倹約が大事だろう。


 ミユは白をベースとした猫耳が刺繍されたワンピースを。ウリルもミユと同じ服に変えた。


 そして、商店街のように店が並ぶ通りを歩きながら俺は言う。


 「それで、ジュ――サーズさん合流地はどこなんですか?」


 「こそこそと裏でやっては怪しまれるので、そこそこ人がいる砂浜で」


 砂浜か、確かにそこなら人も多からず少なからずだから問題はない、か。


 にしても危ねぇ……本名呼びそうになったわ。流石にまだ慣れてはない。何せ直前まで呼んでた名前だしな。


 俺たちは砂浜へとたどり着いた。

 潮が引いて迫りを繰り返す度になるザーッという音が過去の罪過まで持っていくように感じられた。

 青の潮が、水面に差し込んだ光を反射し、少しの砂と、人の魅力を引いていく。


 俺は思わずそこに座り込んだ。

 世界は変われど、自然は変わらず。川があれば海がある。木があれば森がある。人がいれば他の生物もいる。言葉があれば言語あるし、紙があれば文字がある。


 アニメや漫画の異世界系を信じて無かったが本当にあるんだな。しかも、魔獣までいるし。何より、剣や魔法が日常生活に浸透している。


 小さい頃、冒険家になりたい、なんて思ってたけどそれに近いことをこの先やっていくとは思わなかったな。


 「ソウマ(トウマ)殿、お立ちを」


 風に運ばれてくる海鳥の声と潮の動き、空を投影したような海により物思いにふけてしまった。


 よっとという軽い掛け声と共に立ち上がる。一瞬座っただけだが、やはり砂は砂だ。ズボンのあちこちに付着している。俺はそれをパッパッと払い除ける。


 目線の先にはこちらへと歩み寄ってくる二つの影。

 二人とも夜空のような紺色の騎士服に身を包み、腰に一振の剣を帯びている。


 待ち人の到着だ。


 「怪我無く会えて良かった」


 「皇子様も息災なようで何よりです」


 ジュラルと挨拶を交わすのはワンジュだ。

 そして、彼の後ろにいるのが護衛のユジン。

 二人は王国脱出を目前にして、兄のソンヨを倒しに戻った。


 ワンチャン死ぬんじゃ、と思ったが生きているようで良かった。


 「さて、ソウマ(トウマ)にヘレナ(ミユ)にジョン(ウリル)か、私はスレイ、彼はコハンと呼んでくれ」


 ワンジュはスレイ、ユジンはコハンか……情報が急に増えたな。

 これは一人一人覚えるのに苦労しそうだ。

 

 にしても、どうして彼は俺たちの偽名を知っているのだろうか。再会してから会話まで、そのような話は一切無かったはずなのだが。


 「あの、どうして俺たちの名前を――」


 「諸々含めて語るとしよう。まずは昼食だ」


 なるほど、これはザマスの時と同じ感じか。

 ここでまた、今後のことについて話すらしい。

 

 では何を食べようか。朝は名前の割に軽いトルティーヤのようなものだったしな。昼飯が入る隙間は十分にある。


 ガッツリ系が良いなと思っていた中で、俺たちが案内されたのはミナバルトの外れにある森の入口だった。


 


 

 


 

次回 第九話 「唯一の光明」

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