第五話 「見せしめの効果」
世界初の見せしめ、それは一概にこれだ、と特定することは不可能である。その理由は単純で、文字が発明されるよりも昔に行われていたからだ。
釜茹で、磔刑、獄門、引き回し、火刑etc.....
その方法を上げればキリがないだろう。
残忍な方法にすればするほど、抑止力となる。
同じ考えを持つ人間は減り、反乱分子を最小限に抑えることが出来る。
「……ッ」
そして、ザマスの街でも同じようなことが起きようとしていた。
このザマスで、美を体現した都市でも、公開処刑が行われようとしていた。
列の最後尾に並んで罵声を浴びせる群衆の間から、針に糸を通すように目を細める一行。
高台に上げられた白装束を纏った男が無理やり膝を曲げさせられた。その男には傷らしきものはひとつも見当たらない。拷問を受けた、ということは無さそうだ。
それを横目に派手な西洋貴族の絹で出来た服を纏った処刑人と思しき男が、前に立つ。
手には大斧、いや、長剣、否――何も持っていなかった。
「魔法っ!」
思わずトウマは呟いた。
ジュラルはその通りですと頷く。
「まだ若いからこそ見ておく価値がありますぞ。都市の法令を、暗黙の了解を破ればどうなるのか――」
目を細め、まるで獣のような顔つきになった。普段穏便な顔をしているからこそ、恐ろしいものだった。
ジュラルはもしかしたら、この都市の住人なのか? そう思わせるほど、彼の怒りは顕著に現れていた。
「殺せーっ!」
「この街にお前みたいなやつはいらねぇんだよ!」
「死ね! この犯罪者が!」
「苦しめて殺してくれ!」
各地から湧き上がる怒りにトウマは恐怖した。
あの処刑台に立たされている男の罪状は至ってシンプル。
暴行罪――この街では、人を殴り、蹴っただけで死刑だ。問答無用、否応なく必ず、例外なく死刑だ。
死を象徴しているかのようなカラスが空を舞う。
緩やかな円を描きながら、早く死なないかな、とでも言っているかのようだった。
そして、時は来た。
処刑人が白装束の男の首根っこを握る。
直後、大気中のエーテルが彼の手に集約する。
そして、一筋の光が走ったと同時、トウマは咄嗟に両脇にいたミユとウリルの目を覆った。
ブチッと音を立て男の首は数メートル上空に上がった。
血の噴水が立ち上り、カラスは羽を大きく広げ一斉に飛び立つ。トウマの心も吹っ飛ぶ寸前だった。
そして、次に襲ってきたのは民衆の歓声。
きっとこれは歴史上でも同じことが起きただろう。トウマの世界でも同じように。犯罪者が無惨に散ることの何が悪い。それが世界共通の認識。
無論トウマとて、それは理解している。しているが、彼が恐怖を覚えたのはその残虐性では無い。むしろ、一撃で終わらせたことに優しさを感じた。
人の狂気、トウマはそれに冷や汗をかいた。
一丸となって一人の人間を地の底にたたき落とし、死を喜ぶ。
明日、もしかしたらあそこに立つのは自分である可能性も捨てられないにも関わらず、安全圏から浴びせる罵詈雑言。
平穏を破られた彼らの怒りは最もだが、人として尊厳を持ち合わせてはいないのだろうかとトウマは思う。
「さて、行きますぞ」
「何かわかんなかったー」
「トウマが目を隠したからですよ」
これは、恐らく、予想でしか無いが ミユもウリルも現場を見ていたとしても、気持ちが揺るぐことはなく、平然としていただろう。
この世界では殺生は呼吸をするのと同じくらい当然のことなのだ。
今日、隣にいる人間が死ぬ可能性すら当たり前。そんな世界にトウマは身を置いている。
それを知ったとき、トウマはなんとも言えない恐怖心に気取られた。
「化け物……」
気がつけば口から出ていた言葉がそれだった。
そうだ、化け物だ。トウマからすればこの世界の人間は怪物に見える。
自分とは違う常識を持っている。
その中で殺生に対する意識は真反対だ。
現にトウマはこの世界に来てから、剣で生き物を殺したことは無い。
半殺しまでやるものの、傷つける度に胸が痛くなる。人を殴打することに快感を覚えたことは一度もない。それだけは、絶対にあってはならない。自分は、俺だけは染まってはいけないと言い聞かせていた。
「さて、ミナバルトに向けて移動しましょう」
固唾を呑むトウマ。
ふぅーと軽く息を吐いて心を落ち着かせる。
やはり、自分はとんでもない世界にやってきたのだと改めて認識した。
次回 第六話 「殺気」




