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【未来日記で運命が変わる異世界物語】  作者: ねこラシ
三章 名無しの放浪者たち
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第四十七話 「ねぇ、驚いた?」

「っらぁぁぁあ!」


「混合魔法『アイスメテオ』!」


「――しっ!」


 先制を勝ち取ったのはアナゼルとリリア組。剣術を頼りに刃を振るうアナゼルと、攻撃をより激しいものとするため混合魔法を駆使する魔法使いリリア。剣を躱しても、『アイスメテオ』の弾幕がミユを襲う。


 野生の勘か戦闘者としての経験なのか、彼女は姿勢を低く構え猫のように素早く左右にステップを踏む。それを繰り返して繰り返して繰り返して、全てを回避した。


 だが、無傷という訳ではない。

 ミユの纏う黒装束は所々が裂け、血が滲んでいる。小さな頬にも赤い痕がツーっと走っている。


「ずるいよね。ミユ一人で頑張ってるのにさ、そーやっていじめるんだもん。ほんとーーーーに許せない。ほんと――殺したくなっちゃう♡」


 ニマっと笑ったがその裏には悍ましい怨嗟と、憎悪と怒りと、憎しみと、無念さと……色々なものが複雑怪奇に混じっている。ミユの放つ異質な空気を全身に浴びた二人は、一つの疑問を互いに投げ合う。


「ねぇアナゼル。あの子本当にミユちゃんかしら」


「さぁな、って言いたいところだが、絶対に違うだろうな。一瞬、会話も交わしたことも無いがこんなことをする子には見えなかった。幼気な幼女が暴言を吐くことも考えづらいしな」


「そう、そうなのよ。となるとやっぱりこの子は偽物。変身術の類いかもしれないわ」


「なるほどな。じゃあいつもの頼んだぜ」


「任せなさいっ! なんだったらそのまま倒しても良いのよ」


「それは厳しいな」


 何かしらの策を練ったのか、二人は互いの顔を一瞬見合わせるとアナゼルは剣を手にし風を味方にミユとの距離を縮めた。一方のリリアはその背中を注視し、ジッとその場に留まっていた。


「うーん……。あ、お兄さんは良い人そう!」


「そうだぜ。俺は良い男だ!」


 それでも戦闘の意志は消えない。

 アナゼルは得物を手にしているし、ミユは余裕の笑みを崩さない。


 ついに眼前まで迫ったアナゼルの剣が迸る。

 自身の胸を捉えんとする刃をミユはひょいと潜る。後ろに下がるのではなく、前に出た。予想だにしていない行動にアナゼルは一瞬攻撃の手が緩んだ。


 アナゼルの空気が一瞬揺らいだのをミユの鋭い耳は逃さなかった。そのまま前に出ると――


「んんー、良い匂いー♡」


「なっ……あぁ?!」


 あろうことかアナゼルを正面から抱きしめたのだ。女経験が少なく、耐性がついていないアナゼルの鋭気は削がれに削がれた。


 いやいや待て。彼女は子供だ、大人のナイスバディのレディーなどでは無い。幼女だ、そう幼子だ。自分がこの状況に頬を赤らめているのは色々とマズい。しっかりしろ俺、耐えろ俺!


 心の中で祈りを捧げながらアナゼルは、ゆっくりと手に持つ刃を振り上げる。迷ってはならない。こいつは偽物。斬りつけてもなんの問題も無いんだ。覚悟を胸に刺そうとした直後、突如としてミユはアナゼルの腰に回していた腕を外し後ろに下がる。


「じゅーぶん取れた! ありがと!」


「――? 取れたって、大した物は持ち歩いて無かったはずだが。まさかーー」


 ミユの発言に首を傾げながら一応念の為とアナゼルは自分の体を確認する。ポケットやら、懐を確認しても盗まれた形跡はひとつも無い。それもそのはずで、そこには初めから何も無かったからだ。


 ではミユは、彼女は何を根拠に言っているのか。それは、直ぐに分かった。


「やっぱりそうだよな。だと思ってたぜ」


「んー? なんのことだ? 俺には全く分からないな」

 

 アナゼルの目の前に現れたのは自分と全く同じ容姿をした自分。平凡な冒険服に袖を通し、星のように明るい橙色の髪を右手でかきあげ気だるそうに佇み、宝石にも負けないほどの眩い光を放つ黄金の瞳。アナゼル・アナビスがいた。アナゼル、もといミユがアナゼルに抱きついたのは好きという愛情表現をしたかったわけではない。彼の姿をコピーするために近づいたのだ。意表を突かれた、コピー元のアナゼルが取った行動はーー


「って俺、客観視してみれば何か色々とダサいな。これからはもう少し大人の雰囲気ってやつを醸し出さないとな」


 自分の容姿を観察することであった。

 それを遠目に、アナゼルが作り出す一瞬のスキを狙っていたリリアは彼に呼びかける。


「まじまじと観察してる場合じゃないでしょ!」


 リリアの喝を耳に入れたアナゼルはビクッと体が反応する。それからもう一度剣を握り直し、自分と向き直る。改めて見てみても自分は何かこう、パッとしないななんてこと思いながら思考を切り替える。

 何か意味があるはずだ、奴が自分の複製体となった理由が必ず。意味もなしに模倣をする理由はない。楽しみのために近づいたならリスクが高かった。死ぬ確率は百を優に超えている。一体なぜ、なんのために自分となった。なぜリリアではなく、アナゼル・アナビスにならなければいけなかった?

 

 理由はなんであれ、奴は良からぬことを企んでいるに違いない。企みを阻止するためにやることはただ一つ。アナゼルは愛剣を力いっぱいに握りしめ、踏み込む。


「ーー勝てば良い!」


 力でねじ伏せ、相手を地面に転がせれば良い。その後、何もできないよう命を刈り取る。単純明快だ。夜の森の中、人が五、六人横並びになって歩ける歩道をアナゼルは駆ける。だが、それとは対象的にコピーアナゼルはいやらしく笑うと、


「鬼さんこちら」


 の言葉とともに暗闇の森へと姿を消した。光を一切通さぬ木々の林に溶けたコピーアナゼルはもう姿を視認することができない。しかしそれでも、アナゼルも逃がすまいと同じ虎穴に入る。虎子を得るためには少しの危険を受け入れる必要があるのだ。樹海に足を踏み入れる直前、リリアがまたしても声を上げる。


「アナゼル! 待ちなさい!」


「お前はここで待ってろ。俺があいつをお前の前に引きずり出してやる!」


 リリアの静止も聞かず彼はいよいよ暗黒の森に足を踏み入れた。それを静観することしかできなかったリリアは小さなため息をこぼした。彼女とアナゼルの関係は述べ約一年といったところだが、彼女はもう同じ場面を十回は見ている。ある時は、魔物を追うために一人で行き、ある時は宝の匂いがすると主張し一人で行き、ある時は男のロマンだの言って一人で行き……。その度に何かしらの傷を追って帰ってくる。それを見てリリアは「何してんのよ」と呆れ気味に言い、セイラはくすくすと笑う。これで十一回目、無鉄砲で向こう見ずな男であるのだが一度も死体となって帰ってきた、などと言う事はない。逃げが上手いのかはたまた豪運なのか知らないが、いずれにせよアナゼルは帰って来る。どんな深手を負ったとしても必ず。


「早く戻って来なさいよね。あたしがあんたをーー」


 それは今回のように一筋縄ではいかない相手であったとしても絶対に。それがリリア・ゼーレのアナゼルに対する考えであり、心境であり、信頼であった。


「殺してあげるから」


 退屈そうにその場に座り込んだ魔法使いリリアがそう言った。






次回 第四十八話 「」


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