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【未来日記で運命が変わる異世界物語】  作者: ねこラシ
三章 名無しの放浪者たち
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第四十五話 「怪物、再来」

「ふぅ、やっぱり大したことねーな。この前戦った魔竜の方が強かったんじゃないか?」


「それもあるけど、トウマがいるからじゃないかしら」


 信者達を軽くいなした二人は強者の余裕を醸し出しながらそう言う。冒険者歴は約一年だと言っていたが、チームワークと個々の実力を見て本当に一年かと思うのだがもとより個人が強者であったなら納得がいく。


 魔法において型なるものは存在しない。魔法の基礎を習得し、あとは場面に応じてどのように扱うかそれだけだ。

 アナゼルの剣術について正式な教えを受けたわけではなさそうだ。型に沿った技を使うまでもないのかもしれないが、それに倣った技は一度も見られていない。


 つまり彼らは冒険者をしながら独学で積み上げてきたのだ。


「これで何体目だ?」


「十七人です。お疲れ様です」


 後方で見守っているセイラが労いの言葉と共に数を報告する。正直彼女は回復係のみだと思っていたが、そうではなかった。リリアと同じように魔法が使えるし単発の威力はリリアの上を行っている。少し前に敵と交戦したのだが、彼女は眉ひとつ動かさず風魔法を放ち、文字通り粉微塵にしてしまった。


 倒した後、何事も無かったように立ち尽くす彼女を見て少し恐怖心を覚えたのは記憶に新しい。


「弱いことに苦言を呈したい訳じゃないが、もっと命の危機に瀕するのかと思ったが意外とそうでもないな」


「みんなが強すぎるんだよ。本当に一年しか活動してなかったのか?」


 俺の問いかけにアナゼルは「うーん」と首を傾げる。すると同じようにリリアも唸る。なんだこの間は。本当に一年しか活動してないのなら即答できるはずなのだが……。


「俺は結成前にスパイ活動的なことしてたからな。少しの心得はあったな」


「あたしは里を出る前に習ったわね。女の子が一人で旅するんだからってお母さんに言われたわ」


「私は魔法学校を首席で出ましたので」


 各々の過去を話し出す三人。スパイに首席、とんでもない経歴を持っているのが二人いるな。だが一番ヤバイのはリリアだ。お母さんに習っただけであとは自分で磨いたとなれば想像も出来ないほどの努力をしてきたに違いない。


 俺たちは山道のような森の間を歩きながらとりとめもない話をする。そこでアナゼルが俺に質問する。


「その剣どうしたんだ。見てた限りただもんじゃない。宝剣か何かか?」


 『草薙』を見つめながら彼は言う。

 常闇の中で蒼に輝く鞘。刀身を抜けば、他の剣とは違う深みのある鋼が現れる。


「これは、竜を倒した時に尾から出てきたんだ」


「尾から剣? すごいおとぎ話っぽいこと言うのね。でも確かに聞いたことがあるわ。竜尾には宝剣が隠れてるって」


「なんだよ。じゃあこの前倒した竜もちゃんと解体すれば良かったな」


「多分無理よ。『四大古竜』でないと出ないわ。この前倒したのは普通より少し強い竜だもの」


「ですが『四大古竜』はほとんどが厄災と称される怪物。それをトウマさんが倒したのなら私たちよりも遥かに強いのでは」


「いや俺一人じゃあとても敵わなかった。仲間がいたから勝てたんだ」


 『暗黒竜』なる古竜は屈指の強さを誇っていた。切っても切っても再生するし、屋根は落とすし、咆哮はうるさいし、飼い主みたいな奴もそこそこ強かったし……。本当に一筋縄ではいかなかった相手だった。あの戦いはジリ貧で、紙一重で勝利を掴んだようなもの。


「なるほどな『四大古竜』……いつか俺も戦いてぇな!」


 アナゼルが調子付いた様子で言った時、どこからともなく声が聞こえてきた。


「――やってみる?」


 と。

 天の声のように上から降ってくる声に全員が足を止めた。周囲を見渡しても誰もいない。草木に紛れている、訳ではなさそうだ。もしそうであるなら三人のうち一人が勘づくはず。


「なんだ誰かいやがるのか!」


「いますよいますとも。いないわけがない。私はここにいるんですからいないわけがないですよ」


 同じ言葉を繰り返しながら俺たちを囲うように声が移動する。声色が高いことから女性であることが推測できるが姿を出さないゆえに確証が無い。


「探知出来ないわね。かなり腕が立つみたいよ」


「ならば私が――」


 得たりやおうとセイラが一歩前に出る。サッと腕を払うと俺たち四人の周囲に結界が形成されていく。恐らくは防御のため、外部からの直接攻撃を防ぐためと思われる。彼女ほどの実力を誇る人間が張り巡らせた結界を容易に突破されるなんてことは無い。そう思っていたのだが――


 闇に溶けた木の間を縫うように鋭利な武器が飛び出す。それが結界にぶつかると甲高い音を響かせる。それを皮切りに次々と無数の武器が雨あられと上下左右に襲いかかる。


「あの攻撃は……!」


 俺は自然と、一瞬で汗が頬を伝った。

 見覚えのある最悪の記憶を引き起こすものだった。俺が人生で初めて死んだ時、忘れるわけもない光景だった。守るべき者を守れなかったあの時、初めて死ぬという経験をしたあの時、人生の大きな分岐点に立たされたあの時。


 あらゆる時、視点を変えた事象の説明が頭に幾つも浮かんでくる。


 その間も攻撃の手は緩むことなくむしろ激しさを増す。人を殺すために作られたありとあらゆる武器はセイラお手製の結界にいくつも、無数に、無限に、数えられないほど突き刺さりついには――


「全員逃げ――」


 突破してしまった。


「うぉ……! マジかッ?!」


「――ッ!」


 バリバリと音を立て、結晶となり地、空気中に還る結界。

 魔法学校を首席で卒業したセイラ。

 彼女が作り出した結界は並の生徒が張るそれの比ではないはずだ。しかし、今の攻撃でそれは容易に突破された。


「そんな……っ! 私の結界が簡単に!」


 アナゼルとリリアは防御をしながら後退を始めているが、セイラだけは破られた結界を信じられないものを見た目で立ち尽くしている。


「セイラ、トウマ! 早くこっちに!」


 敵側からすれば格好の的。驚異の破壊力を持つ攻撃の前ではその一瞬が命取りになる。

 どうする、今すぐに後退を始めるか? いや無理だ。二人とはもう遠い距離まで離れている。絶え間無く襲いかかる攻撃を避けながら下がる。無理に決まっている。その前に死ぬ。確実に、命を取られる。ならどうする。俺に出来ることは、出来ることは――


「――ッ! セイラ!」


 俺はすぐさま駆け出し、迫り来る武器を回避、防御する。重い! 速い! 一瞬の遅れが命取りになる。一瞬の判断ミスが命を刈り取る。死線を潜り、呆然と立ち尽くす彼女にタックル。


 危機一髪。攻撃が当たるのを避けることができた。地面を数回転がりながら彼女を抱き、木影へと潜伏する。隙を見つけて、二人の背中を追う――なんてことは無理だ。血に飢えた鉛の、鋭利な殺人の道具が二人の背中を追跡者のように追っている。


「セイラ。大丈夫か!」


「えぇ……ありがとう、ございます」


 一先ず彼女の安否を確認する。

 大事無いと返事してくれるだけでホッと胸が軽くなった気がした。


「んふふ……すぐに食べちゃうからね。だって私が食べようとしているんですもの。この私が、だぁれも逃げられませんよ。だって私が追うんですもの。んふふ」


 不気味なセリフとともにサッと宙に浮いた黒い何かが俺たちの前を通り過ぎて行った。その速さは凄まじく、錯覚ではないかと自分の眼を擦るほどだった。


 俺は()()が過ぎ去った時、俺は歪な何かを感じた。汗が不自然に吹き出した。呼吸が乱れた。なにか恐ろしい、この世の者とは思えない生き物を目にしたように。あの怪物が過ぎた時、かなりの怒気と恨めしさを抱え現世に留まった生き霊のように感じた。


 もしもあれがすでに死んでいる人間だとしたら?

 何か怨みがあってこの世にいるとしたら?

 その怨嗟の対象が俺だとしたら?


「何者でしょうか。これまで戦った相手の中でも指折りの強さでした」


 俺は必死に思考を変える。大丈夫だ。何も無い。

 この戦いをアナゼルは「大したことは無い」と吐き捨てていた。しかし、この瞬間からその認識を変える必要がある。女のか男なのか、口ぶりからしたら女だろうが、この戦いにはただのモブ信徒との戦いで終わることはない。


 俺たち側に、アナゼル、リリア、セイラの三人のように表に出ていなかっただけで超が付くほどの実力を隠し持った人間がいるように、敵側にも同じ奴がいる。あえて隠していたのかは知らないが、一人いれば百人いる可能性がある。


 となればこうして隠れて危機が去るのを待つべきでは無い。こうしている間にも死ぬ確率は上がっている。


「あれは化け物だ……俺も一度だけ戦ったことあるけど、マジで死にかけた」


 いや正確に言えば一度死んだのだが。

 それはさておき。俺たち四人は分断された。意図的ではないにしろ、四人でも手に余る怪物だ。怪物の相手を二人でなんて無理に決まっている。となればやることはただ一つ、四人で束となり『あれ』を倒すことだ。


「行こうセイラ。四人で戦わないと、ワンチャン全滅する」


「ええ、急ぎましょう」


 木影から左右に二、三度首を振りながら敵の有無を確認。いないことを把握した俺たちは黒い何かがつけたであろう地面の浅い抉れを辿った。





 

 



次回 第四十六話 「ねぇ、死んで?」


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