第四十四話 「チームワーク」
『聞こえてるかな。この放送を持って互いに総力戦を始める。街を出た人間は殺す』
突然入った放送。声色から判断するまでもなく『昇進教』の幹部。あの男だ。これを聞いたリリアとアナゼルも足を止め、放送に耳を傾けていた。
『負けた方は街から永久追放。言い訳はない。どちらかが諦めるまでの持久戦。ラダール覚悟しておけ、お前を一番初めに殺してやる』
殺害予告をした後、ブツっと放送は切れた。これが意味すること、それはつまり――
「始まったのか、ついに」
「のようですね」
シーンと静まり返り、波のザーッという音のみが耳に入ってくるがもう既に戦いは始まっている。まだ互いに敵を視認していないだけで、もうこの瞬間に殺し合いは起きようとしている。
「さぁーて、行きますか」
「足引っ張るんじゃないわよ」
「お前の方だろ。俺はいつも前線で戦ってる」
「あたしだってあんたの援護してるわ」
「お二人さーん、争う相手間違えてますよー」
未だに小競り合いのようなものを続ける二人に俺は間に割って入る。これを毎回やっているセイラは大変だろう。
前線は俺とアナゼル。中盤に入るのがリリアで、後方に控えているのはセイラだ。
アナゼルは俺と同じ剣士で、リリアは魔法使い。セイラは回復担当らしい。まぁ至って普通、どこにでもあるパーティー構成だ。
俺たちは北上を始めた。俺たち側の作戦としては広場を中心とした放射作戦。無駄のない効率を優先した作戦だ。敵戦力を少しでも減らすために、一つ一つの方向には数名のパーティーが束となっている。
はずなのだが、俺たちの元には他のチームが見当たらない。俺はその事についてアナゼルに聞いてみることにした。すると彼は、
「どうやら俺達が強すぎたみたいだ」
「……?」
「強すぎて戦力を補填する必要が無いって判断されたのよ」
「えぇ!?」
「ばかっ! 声でかいわよ!」
リリアに怒られ俺は咄嗟に口を抑える。
偶然入ることになったのだが、このチームそんなに強いのか? と言ってもどれだけ強いのか分からないが戦力補充が無いと判断されるほどに強いらしい。
「まぁ伊達に冒険者長くやってないからな」
「まだ一年でしょ、あんたついに時間感覚も分からなくなったの?」
「まぁまぁお二人ともその辺にしてください。もう敵さんは目の前にいるので」
セイラの戒めの言葉の中にとんでもない言葉があったのを俺は見逃さない。目の前に敵、俺はすぐさま視線を通路の正面に向けたが誰もいない。凛とした空気感だけがそこにある。
「違うわよ。こっち」
リリアが指を差した方向は隣の密林。ミナバルト唯一の森林地帯だ。ジャングル、とまではいかないにしろ青々とした樹海がある。
「大人しく出てこい。もうバレてんぞー」
アナゼルの言葉にザザっと正面の草木が揺れる。軽いため息をつきながら柄に手をかけた瞬間、正面から大きな影が飛び出す。と同時に背後からズザッと何かが飛び出す音が聞こえた。大きな影が俺たち四人を覆う。
「後ろに敵がいる!」そう叫ぼうと振り返った時、既にリリアが魔法を発動させ影を木っ端微塵にしていた。
一方、正面から飛びかかってきた敵はアナゼルの一太刀を浴び既に死んでいた。
「なっ……」
全員がセイラの指した方向を見ていた。背後から敵が襲ってきてもそれはリリアが倒し、正面はアナゼルが倒す。その判断を言葉を交わすことなくこなして見せた。
なんというチームワークだろうか。俺がいたパーティーでも同じことができる、とは思えない。
「本来ならあたしじゃなくて前衛のあんたの仕事よ。まぁでも入って一日も経ってないから仕方ないけどね」
「あ、あぁごめん」
「気にしないで次から上手くやってくれれば大丈夫だから」
これで敵は二人が死んだ。白いローブを纏った信者が二人、冷たい骸と化したのだがこんなに弱かったっけ? もしかして俺が以前戦った敵は信者の中でも指折りの強さだった?
「ま、次行こうぜ次」
剣に付着した血を拭いながらアナゼルがゲーム感覚のように言う。
何事も無かったかのように歩き出す一行。俺は遅れをとることの無いように歩いて行く。
「まぁ次はトウマが戦ってくれよな。俺後ろで見てるわ」
「そうね。一度あんたの動きを見ておかないと合わせにくいし。あたしとしてもそうしてくれたらありがたいわ」
「あまり無理なさらないでくださいね」
「ま、マジか。まぁ頑張るよ」
流れるように俺が戦うことが決まったのだが、ノリで言っている訳ではなさそうだ。先程の連携を当然のようにする彼らを見た後だから分かる。
リリアの言うように俺の動きを見ておかないと補助が出来ないのだ。事前学習無し、一発勝負では少し危険が伴うからな。
「ほら、あそこにいる敵だ。倒してこいトウマ」
戦闘を行くアナゼルがスライムを見つけたように言う。正面にはこちらをジッと見つめ、立ち尽くす白いローブの男がいる。紛れもなく『昇進教』の下っ端だ。
アナゼルが敵に背を向け、指をさした時、それを好機と見た敵が地を蹴った。
咄嗟に俺は彼の背に周りに刃物を振りかざす攻撃を受け止める。
「申し訳ないけどすぐには倒さず長く戦って欲しいんだ」
鍔迫り合いをしている最中アナゼルがそう告げる。なるほど長くか、いろんな動きを見たいわけね。
剣を押し合う感覚から俺は敵の強さを推測する。押し合いでは俺に分がある。徐々に『草薙』が押し込んでいく。
「長く、ね。死なない程度に頑張るよ」
「――ぬぅ」
(意識が剣に集中してる。打突が入るな)
俺は鍔迫り合いの中で右足を蹴り上げた。思い切り蹴り上げた足はローブの中央を深く捉えることができた。
ズザーッと地面を削りながら後退する敵。正面からやっては勝ち目が薄いことを察知したのか、手のひらに風を生み出した。それを片方の手に持つ剣に纏わせる。
魔法剣だ。しかし、それは過去に見た。斬撃を飛ばすことが出来ることを俺は知っている。
ザッとローブが風に吹かれながら加速する。加速して、さらに加速し数メートルまでの距離に来た時、敵は突如として剣を振り下ろした。
風の斬撃が放たれたのだ。空を割く勢いでそれは俺に迫るが、俺は『プロテゴ』を使用しそれを防いだ。しかし、防戦であることに変わりはない。斬撃の後に、遅れて本家がお出ましだ。
両手で袈裟を落とすと俺が作り出した防御と激しく衝突する。ヘルメル直伝のこの技はこれまでありとあらゆる攻撃を防いできたのだ。人間が本気で打ち込んで来たとして破られるわけがない。
ジリジリと火花を散らし、徐々に押し込んでいく自身の剣を見て勝機を見出したのだろう。口元の口角が上がっている。
「甘いよ、わざとだからさ」
俺は防御をその場に置き、サイドに少しズレる。と同時に『プロテゴ』を解除した。全体重を掛けていた男は支えを失い大きく前のめりになる。そのまま男の頭に『草薙』を落とす。ゴリっという鈍い感覚と共に、うつ伏せで倒れ込む敵。
俺は振り返って仲間の方を見て「これで良い?」と聞いてみた。
「見た事ねぇ技だな。リリア、あの防御魔法は何だ」
「知らないわ。あたしも初めて見たわ。セイラなら分かるんじゃないかしら」
「私も分かりません。ですがあの防御から魔力は感じられませんでした」
あれ、なんか思ってたのと違うな。もっとこう、「わーすごい!」とか、「十分だありがとう」とかいう褒め言葉か感謝の言葉が来るかと思ったがまさかの疑問。
そういえばそうか。あの防御技を三人は初めて見るのか。そうなれば少し補足しておこう。
「あれは俺の知り合いから習った技なんです」
具体的な名称は伏せて俺は三人に伝えた。俺の言葉を聞いた三人はまだ少しの疑問があるようだが、少し納得した様子で頷いた。
「まぁ実力は分かったし、連携も出来そうだな」
「そうねそれが出来れば問題ないわ」
「お怪我はありませんか? 治療しますよ」
とりあえずの目的は達成出来たようだ。
俺たちは再び暗い森林地帯を歩き出した。俺も早くこのチームに慣れないとな。
次回 第四十五話 「怪物、再来」
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