第四十二話 「作戦会議」
ラダールの演説が終わった後、俺たちは少数グループに別れることになった。ひとグループ五か四で、まとまって行動する。
なぜ四、五人なのかというと冒険者のほとんどがその人数でありなるべくチームメイトを変えることのないようにしたいからだ。長年一緒にいた仲間であれば連携も取りやすく、結束力がある。
「俺たちは特別で六人でも良いらしいです」
「ありがたいことですな」
今は作戦会議の真っ只中だ。千人という人間が自由に動き回ったら意味が無い。効率良く動かなければこの人数がいるのに勿体ないことになってしまう。
「どうします? 僕たちはラダールさんと一緒にここに残った方がいいんじゃないんですか?」
心配そうにしているウリルに対し、ワンジュが「その心配は無用だ」と言い切る。
「無用、と言っても少し違う。私は騎士としての側面で話をするが、騎士ならば一騎討ちに手を出してならない。という教えがある。敵幹部と思しき人物とラダールさんは因縁がある。誰であってもその二人の邪魔してはならない」
「皇子様の言う通りでございます。騎士道精神に則れば間に入ってはいけません」
「で、ではあの人を一人にするんですか。それは少し危ないんじゃ……」
「大丈夫だ。そのことも頭に入れ、今作戦を練っている。彼の周囲には常に仲間を伏せておく。万が一、命が危うくなれば隠密部隊が動く。それを誰にやらせるか、それも現在進行中だ」
焚き火の周りを車座にして話し合いを進めていく。どの方面から敵を攻めていくか、それを考えているのだが結局はどこも同じだろう。あの幹部は間違いなくこの広場にやって来る。他の信者たちは、まぁ適当になんてことは無いが何か罠的なものを仕掛けるに違いないだろう。
そういえば『未来日記』の記述かま気になるな。しばらく中を拝んでいない。中に変化があるのなら今のうちに確認しておきたい。戦いが始まればそんな余裕は無いからな。
「すみません。少しトイレに行ってきます」
俺はそう告げて人気の少ない場所に向かった。と、言っても現在街にいる人間全てが広場に集まっているからどこかしこも人気がない。
俺は裏路地の入口付近にもたれ掛かり日記を取り出した。『FFの手帳』と題されたそれはこの先起こる最悪の未来を示す。
『ラダール・トラヴィスと数百の犠牲で街を救うことが出来た』
「――っ! まさか、死ぬのか?」
『幹部殺し』ラダール・トラヴィスが、死ぬ。この戦いで、間違いなく死んでしまう。この手帳は嘘はつかない。近々必ず起こる未来を示す。
となればやはりあの人の傍に行くべきなんじゃ……。近くにいて死を回避することが出来るように監視する役割が必要だ。あの人が、幹部に負けることは無いはずだ。そうなると罠か不意打ちか?
俺が一人試行錯誤していた時だった、
「あーあ、アンタのせいで乗り遅れたじゃない」
「俺のせいか? お前だってちょっと忘れ物したーって宿に戻っただろ」
「何よ私のせいって言うわけ? そんなこと言ったらアンタなんか通りすがりの美女に目を奪われて動かなかったじゃない」
「本能なんだから仕方ないだろ。忘れ物するやつのほうが悪いな」
「なんですって!」
「まあまあ、二人ともそこまでにしてください。先を急ぐ必要があるので……」
男女が喧嘩する声と、それを諌める女性の声が聞こえた。物陰から少し飛び出して確認、と思った時ちょうど彼らは俺の目の前を通り過ぎ、三人のうち小さな少女と目があった。
「怪しいわね。そんな所で何してるのよ」
と、彼女が数歩前に出た。
月光を跳ね返す銀髪、ルビーのように大きな瞳と卵のような肌に童顔。だが何よりも目を引くのはその身長の小ささ、小学校高学年くらいの背丈に魔女のローブを着ている。
「え、あぁいや怪しい人間じゃ……」
俺が弁護しようとした時、彼女は既に指をピンと立て氷柱のような氷を作っていた。
「ちょっ! 待って待って! 本当に違う! 俺も戦うんだ。ミナバルト側の人間として、本当だって!」
「おいちびっ子、見ず知らずの人を脅すようになったのか? それともストレス発散か?」
「うるさいわね! あと、ちびっ子って呼ばないでって何回も言ってるでしょ!」
夫婦喧嘩のような言葉を交わしながら、彼女はスっと魔法を収めた。良かった、なんとか助かったのか?
「で、アンタはこんな所で何してるのよ」
「トイレに行った帰りだよ。歩いてたら喧嘩みたいな声が聞こえたから隠れて見てたんだ」
「ほら、怪しい人じゃないって言っただろ。謝罪しろ謝罪」
「うっ……た、確かにね。その、疑ってごめんなさい」
「全然、気にしてないから大丈夫。それより三人はなんでここに?」
そのように聞くと残り二人も建物の影から出た。
男の方は夕陽のように明るい橙色の髪を風になびかせ黄金の光を放つ瞳を持っていた。冒険者の服装をしていることを見ると、彼らはチームを組んでいるはずだ。
もう一人の女性は腰まで伸びている海のように青く澄んだ髪を高い位置で結わえ、紫水晶のような瞳をし僧侶の格好をしていた。
「私たちもこの街にたまたま居合わせたので戦いに参加しようと思っていたのです」
他の二人とは違い、落ち着いた大人の雰囲気を纏っている。この人が二人の間に入っているからチームが成り立っていると言っても過言ではなさそうだ。
「なるほど、今は広場に向かっている最中ですか?」
「はい」と返答する女性。困ったな。そうなれば三人は少し心もとないだろう。最小人数が四人だから最低でもあと一人、必要だ。
「ところで青年、君は一人なのか?」
「あぁ、いや違う。俺は六人パーティーのうちの一人だ」
「六人?! 多いな、ぜひとも俺らに一人貸してほしいな」
あぁ、そうか。別に俺がこの人達のパーティーに入れば丸く収まるじゃん。俺が抜けたとして、六人が五人になる。五人は人数を満たしているからどうってことはないか。
「あの、よければなんですけど……俺が入りましょうか?」
俺の言葉に男は「本当か!」と嬉しそうに金の瞳を見開く。
「腰に剣があるからアンタは剣士ね。前で戦ってもらうけど大丈夫かしら?」
「大丈夫だよ。それが剣士だからね」
「おっしゃー! パーティー結成完了! 早速行こうぜ!」
こうして俺は見ず知らずのパーティーに入ることになった。
広場に向かっている最中、他愛もない会話をする。まず初めは互いに名前を確認する必要がある。
「俺はトウマ・カガヤ。よろしく」
「あたしはリリア・ゼーレよ」
「俺はアナゼル・アナビス」
「私はセイラ・モーメントと申します」
なるほど、小さい女の子がリリア。パーティー唯一の男がアナゼル。そして清楚系の女性がセイラね。
「よろしくな。短い時間だが仲良くしようぜ」
「あぁもちろんだ。よろしく!」
アナゼルは早速俺の肩に腕を回した。
おぉ、距離近いな。
でも、そうかこの人ずっと男一人だったもんな。どこか息苦さを感じていたに違いない。
そんな中、俺は一番気になっていたことを尋ねた。
「ところで、リリアはどうしてそんなに小さいんだ?」
そう、彼女の身長について、である。
見るからに外見は子供で中身は大人っぽそうだ。つまりコ〇ンのように路地裏で取引に夢中になって怪しい薬を飲まされた、なんて感じは無さそうなのだが。
「あたし小人族なのよ。だから成長しても身長はあんまり伸びないの。昔と比べたら伸びたけれど、それでよ130くらいしかないのよ」
なるほど、小人族か。他の人種がいる以上、小人族がいるという可能性をすっかり見落としていた。となれば彼女は合法ロリって奴に近いのか。
「まぁ呼び方は任せる。ちびっ子はちびっ子が良いと思うけどな」
アナゼルの言葉にリリアは足を止め顔を少し赤くしながら指を差す。
「アンタね、本当にいい加減にしないと燃やすわよ!」
「アナゼルさん、おやめになった方がよろしいのでは……。そろそろ本当に燃やされてしまうかと」
「みたいだな……。てな感じでトウマ、気をつけてくれ。意外と怒りっぽいんだ」
「違うわよ! アンタが私を怒らせるのが上手いだけよ!」
そんな話をしていたら広場に着いた。
ともかくこれから背中を預けて戦う仲間だ。仲良くはしておかないとな。だが、いいなこの感じ。賑やかで楽しそうなパーティーだ。
次回 第四十三話 「俺にもいつか青い春が」
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