第4話 おっさん、もうひとりの自分に出会う
その夜、仁は深い眠りに落ちた。
焼け跡の村の悲しみも、リリスの優しさも遠く、彼の意識はどこか別の場所へと漂っていた。
視界がぼやけ、やがて鮮明な闇が広がる。
そして、その闇の中から、ひとりの男が現れた。
それは、自分自身だった。
だが、その顔は歪み、赤く光る瞳は狂気に満ちている。
「……お前は、誰だ?」
仁は無意識に問いかける。
「俺か? 俺はお前だ。お前の中に眠る“狂気”そのもの。」
男は冷たく笑った。
「お前は弱い。暴走を恐れて、守りたいだけの弱虫だ。」
仁の胸が痛んだ。
「俺は……俺はただ、みんなを傷つけたくないだけなんだ。」
「甘い。そんな気持ちで俺を押さえつけていられると思うな。」
男は仁の目を見据え、低く告げた。
「もし俺を制御したいなら、心を強くしろ。狂気を恐れるな。受け入れて、使いこなせ。」
その言葉が、仁の心に響く。
「……簡単じゃない。怖いよ。」
「怖くていい。だが、その怖さを乗り越えた時、お前は真の力を得る。」
夢の男は一歩近づき、拳を差し出した。
「さあ、共に強くなろう。」
仁は迷いながらも、その拳を取った。
その瞬間、熱い力が全身を駆け巡った。
目が覚めると、リリスがそばにいた。
「どうかしたの?」
仁は小さく頷いた。
「俺、心を強くしないといけない。あいつを制御するために。」
リリスは優しく微笑む。
「そうよ、あなたはただの化け物じゃない。心の強さが、その証よ。」
夢の中の対話が、仁の覚悟を決めるきっかけとなった。
これからの戦いは、内なる狂気と理性のせめぎ合いでもある。