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第3話 村が焼かれて、おっさんの心も焼かれる

「――火だ! 火事だァァァ!!」


魔界の辺境にある平和な村ゾル・ヴァレアを、突如として“異界の冒険者たち”が襲った。


聖属性の爆裂魔法、投げ込まれる聖水の瓶、木造の家々は一瞬で炎に包まれた。


「やれやれぇ! モンスターどもを皆殺しにしろッ!!」

「サキュバスは生け捕り、他は不要だ!」


その残虐さに、仁の中で何かが音を立てて崩れた。


「……おい、今なんつった……?」


仁の声が、かすかに震える。

それは怒りでも悲しみでもなく、“導火線の揺れ”。


幼いゴブ郎をかばって倒れたコボルトの夫婦。

逃げる間もなく焼かれていくインプの少女。


「守るよ、俺は……この村を……っ!」


胸の紋章が赤く脈打ち、

ドクンと重低音が体内で弾けた。


「バーサーカーモード、起動」


仁の筋肉が瞬時に膨張、皮膚が裂ける。

瞳が真紅に染まり、暴風のような魔力が溢れ出す。


「オイ、逃げろ! あれは……人間じゃねえ!!」


冒険者たちは怯え、隊列が乱れる。


「ぐあああああああああああああああッッ!!!!」


仁の咆哮と同時に、地面が抉れ、突風が火を巻き上げた。

腕を振るだけで3人が粉砕され、地を蹴るだけで騎士が吹き飛んだ。


怒りは止まらず、血を求めて暴走する。

それはもう「守る」ではなく、「殺す」ための力だった。


「仁! やめてッ!! あなたがあなたでなくなる!!」


遠くで叫ぶリリスの声さえ届かない。

その時リリスは決断した。


「仕方ないわね……また、あれを使う時が来たのね……!」


そう言って、彼女は仁の背後に回り込み――彼のズボンをガッと下ろした。


「これで……沈まりなさいッッ!!」


そして、迷いも恥じらいもなく、“おっさんマイク”をガッシリ握った。


「ぬおおおおおおおおおおおおおっっっ!!??」


一瞬で仁の筋肉が硬直、紋章の輝きがスゥッ……と消えていく。

爆発寸前の火山が、ぬるま湯に浸けられたようにしぼんでいく。


「り、リリスううう!?!? いま戦闘中なんですけどおお!?///」


「あなた、これしか止まらないんですもの……仕方ありませんわ!」


冒険者たちは、その光景を見て戦意喪失した。


「え……サキュバスが……えっ? なにして……?」

「やばいやばいやばい、アイツのスイッチそこかよ……」

「俺たち、なんでこの村来たんだっけ……?」


その隙に、結界魔法が発動。リリスの張ったバリアで人間たちは魔界の地から追い払われた。




火が収まり、静けさが戻った夜。

村は焼け焦げ、多くの魔族が倒れていた。

だが、皆生きていた。リリスが、守ったのだ。


「……ごめん、俺、また暴走して……」


「いいえ。止められたから、大丈夫。……あなたが傷つかなかっただけで、私は嬉しいのよ」


そう言って、リリスは仁の手を優しく握った。

その手は、あの日彼を「逝かせた」手でもあったが――今日は、ただのぬくもりだった。


仁の頬に、初めて涙が流れた。

それは、守れたことに対する涙だった。


「……ありがとう、リリス」


この夜、仁はようやく誓った。

「誰も失わないようにしないと」と。


そしてその誓いは、次なる試練“もうひとりのバーサーカー”との邂逅へと繋がっていく。



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