プロローグ 陰キャラおっさん孤独死する。
冬の朝。カーテンの隙間から差し込む弱々しい日差しが、六畳一間の古びたアパートの部屋をぼんやりと照らしていた。
空気は冷えきっていて、鼻をすするとわずかにカビのにおいがする。
電子レンジの上に山積みになったコンビニ弁当の空容器。無造作に脱ぎ捨てられたパーカー。テレビは消えたままで、時計の秒針だけが静かに時間を刻んでいた。
その中心。布団の中で、多田野仁は、もう動かなくなっていた。
歳は四十手前。
学歴も、職歴も、貯金もなし。
人生のピークは中学のときに文化祭でチョイ役で主人公のライバル役の人間の役をもらったこと。
それ以降は下り坂一直線。人と関わるのが苦手で、バイト先でも浮き、最後には無職となった。
親もとっくに他界し、友達も恋人もいない。
生きる意味なんて、とっくの昔に見失っていた。
隣の部屋のエッチな声が、うるさくて耳栓を買いに行った日。駅前で陽キャ男女が笑いながら自撮りしていた。「爆発しろ」と心の中で毒づいたのが、最後の“社会との接点”だったかもしれない。
その夜。
電気毛布のスイッチを入れて、スマホでエロ動画を再生しながら、コンビニのチキンをかじって、布団にくるまった。
そのまま、仁は目を覚まさなかった。
誰にも看取られず、誰にも気づかれず、誰の記憶にも残らず、
ただ、ひとつの命が、静かに終わった。
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しかし、終わりではなかった。
暗闇の中で仁は、何かを感じた。重い体がふわりと浮くような感覚。耳に響く謎の声。
《魂の選別を開始します》
《新たなる存在として再構築します》
《バーサーカー・プロトコル、起動》
「え……? 何だよこれ……」
まるで夢の中のような、無機質な光に包まれて。
孤独死した陰キャおっさんは、次の世界へと“転送”された。
次に彼が目を開けたとき、その世界は、血と牙の魔界だった。
もしかして、俺は、また人生詰みました?