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いつわり郷  作者: 融点
貧乏人と激の予告
9/65

9.けっこう大変なこと

お読みいただきありがとうございます。

「あの!」

 突然現れた僕の姿に、その人達は言葉を失った。

 昨日と同じくエアコンはないものの事務所って雰囲気の部屋だった。

 そして中年の男性と、若い茶髪の女性。

 ホテルの支配人、杉近さんもいた。

「どう…したの?」

 中年の男性が一言そう言った。

「これ、杉近さんのですよね。」

 話は数分前に遡る。




「どうする?」

 鳥澤がまず言葉を放った。

 すぐさま杉近さんに知らせようと、三人ともホテルに戻ってきた。

 …しかし、杉近さんがどうしても見つからなかったのだ。

 このホテルには杉近さん以外人がいないため(さっき、杉近さんが言っていた。客はほぼこないだろうけど大変じゃないだろうか?)なんとなくホテル中を歩き回りやすい。

 なのに、端から端まで探しても誰もいない。

ふとさっき杉近さんが慌てて外に出ていったことを思い出し、二人に伝えた。探すだけ時間の無駄だろうかという話になり、結局一旦僕の部屋の畳の部屋にみんな集まった。

「どうするって、お父さんも杉近さんもいないし、どうしようもないよ」

「そもそも、杉近さんはどこいったんだろ」

 鳥澤がそう言うと、りんがひらめいたというような顔をした。そして、

「もしかして…、杉近さんが落とした…?」

 と震えた声で話した。僕は反射的に、

「ないないない!」

 と否定した。…ただそういいつつ、僕もそうじゃないかと正直思った。

 僕が自撮り棒を取りに戻った時、やっぱり杉近さんはどこか焦っていた。なにか事件でも起こったかのように。そして、僕も今焦っている。漫画ではこういうのあるのかもしれないけど、結局非現実的すぎる。

 そして、りんがこの緊張した空気を壊すように、

「ごめん、ちょっとトイレ行ってくる。」

 と言った。べつにマイペースってわけでもないのだが…

 なんだろう、そういえばカイもりんも短気とかマイペースとかいろいろあるけど、恐ろしい雰囲気のときはちゃんと重いんだよなぁ…。そう考えたら結構みんな冷静っていうかなんていうか。まぁ今はそんな事いいか。

「でもやっぱり、なんであんなに鳥澤さん焦ってたんだろ。」

 鳥澤にそんなことを口にした。

 そしてりんが廊下へ出ていったとき、僕はそれを思い出した。

「鳥澤、そういえば杉近さんなんか落としていったんだよね。」

 四つに折りたたんだA4くらいの紙をポケットから取り出した。なんとなくまだ中身は見ていない。だってこんなの客が見ていいもんじゃないと思うから…。

「なんて書いてあんの?」

 僕の心配を察することはせず、唐突に質問をぶつけてきた。

 何も話が進まないんじゃ困るから、その紙を開いた。

 …そして、まず書いてあった文章に僕たちは呆然とした。

『―マネオン・パラスカナイス島の爆発予告について―』

「爆…発…?」

 鳥澤は言葉を失う。あれ、もしかして…

 昨日、僕が外の隠し扉を見つけて入ってしまったとき、そこには中年の男性と若い感じの女性がいた。そして、女性の方がこんな事を言っていた。


「それで今、けっこう大変な事が起きている。だからできるだけあんまり関わるんじゃない。」


 もしかして、この爆破予告のことを言っているのか?だとしたら、あの二人から今日杉近さんに手紙(このA4の紙)でこれが伝えられたことになる。ということは、杉近さんはあの場所に…。

「鳥澤、ちょっと行ってくる。」

「えっ何しに?」

 ホテルを飛び出した。もう真っ昼間。暑さも最高地点に達しようとしている。

 ウェルカムのドアプレートをどけて、一つの煉瓦を奥へと押した。

「ゴゴゴ…」

 というわけで、結局戻ってきてしまったのだ。



「これ、杉近さんのですよね。」

 ポケットからあの手紙を出した。確かに、爆破予告の文字が書かれている。

「あっ、それ!」

 杉近さんが立ち上がる。それと同時に中年の男性が苦笑いしながらため息を付く。

「ったくもう…」

 女性の方もあーあって感じの顔をしている。

「あとあの…」

 そして僕は、今最も杉近さんに伝えなければならないことを口にした。

「友達が、どっか行っちゃったんです。」

 冷静になれないときの自分の語彙力に、心のなかでため息を付いた。

「…とりあえず、そこ座りな。」

 女性の方が、前と同じようにそう言い放った。




 側巻蘭花さん。これで『はしまきらんか』と読むらしい。

 ずっと二十代前半くらいかと思っていたが、三十代前半なのだという。

 なんとなく強気なその口調は、なぜだか優しさも感じさせる。長くも短くもない茶髪は、派手でも地味でもない気がした。

 そして、中年男性の方は桐間時生さん(きりまときお)という。四十代前半。

 痩せ型でも小太りでもなく、シュッともしてない。

 上から目線な言い方だけど関わりやすそうな人だ。

 あと、ホテル・ザンゲツの管理人だった杉近さん。下の名前はまもる。接客が多いだろうから身だしなみもしっかりしていて、黒いスーツに身を包んでいる。

 側巻さんほどではないが(勝手なイメージ)活発そうだ、ただアウトドア派かというとそうでもなさそうって雰囲気がある。

 部屋のデスクにはネットに繋がるのかどうかわからない大きめのパソコンがずらり。そういえばこの前、鳥澤がこういうのをデスクトップパソコンっていうって言ってたっけ。

「蘭花は東京に来てからずいぶん長いから、訛りもあんまりなくなったなぁ」

 そんなことをぶつぶつ言いながら、中年の人…いや、桐間さんはパソコンに向かっていた。

 ちなみに側巻さんは福岡県出身だそうだ。

「って、そんなことよりさ」

 側巻さんがこっちを睨みつける。

「友達がどっか行ったって、何なのさ?」

 唐突に聞かれて僕は背筋を伸ばした。

「えーっと…」

 ちょっと下を向きながら、何から話そうか考えた。

「自撮り棒で、地層の写真撮ろうとしたんです。」

 途端に三人がなんだそりゃという顔をしたが気にしない。カイと秀和さんが海の方へと引っ張られ、落ちていき、とにかくどこかへ行ってしまったことを話した。自分は漫画みたいに根の強いキャラではないから、思い出しながら話している間もずっとおどおどしていた。

「それで、ホテルに戻っても誰もいなかったんで、ここ来てみたんです。」

 ふと、杉近さんの顔を見ると、なぜだか慌てていた。いや、慌てないほうがどうかと思うが…

「え?ちょっと待って、海の方落ちてったの?」

「はい。」

 側巻さんが突然立ち上がる。

「もしかして!」

「そうだね、あたってみる価値あるよ。」

「えっと天安だったけ」

 側巻さんが放った言葉に、僕は単純にびっくりしてしまった。

「爆破予告のこと、協力してくれないかな。」

...なんで、協力を求めたんでしょう?

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