8.地下へ
お読みいただきありがとうございます。
「やっぱり吹き飛ばされたりしたのかな…」
今日も暑い。結局夏なんだなって勝手に思った。
昨日の夜、僕は結局南京錠を見つけ出すことができなかった。明るいから今なら見つかるかと思ったのだが…だめだ。諦めよう。別に無くても困んないし。
「なーん」
あれ、りんの声だ。そっちの方をみると、カイと鳥澤も…あと秀和さん。
「鳥澤がねー地層調べようって言ってるー」
え?ほんとにやるの?…どっかで聞いたが、地層調べるのってボーリング調査する必要があるとか…ボーリング調査では、まず人力でちょっと地面を掘って、なにか埋蔵されたりしていないか調べる。その次になんか円柱状に地面を掘ってなんか棒入れて地盤の硬さを調べるとか…なんとか…。でも、なんかめっちゃお金かかるらしいって…うん。
「杉近さんに聞いたんだけど」
鳥澤が喋りだす。
「あっち側の海の方行くと地層が見れるらしいよ」
「ふーん。いいよ。行ってみよう」
「上からだな」
こういう時のツッコミはカイが多い。
そういいながら、ホテルの裏側を指さした。そういえば、船があるのはその反対側で、まだ行ったことがなかった。そして、行ってみようといいながら、全員が歩き出す。秀和さんは見守るようなちょっとした笑顔で後ろからついていく。
一分も経たないうちに、その場所についた。眼の前には広大な青々とした海があり、なんだか島って感じがする。今立っている地面と海では結構な高低差があり、崖っぽくなっている。
「この下に降りれば地層が見れるんだけど…」
「無理だろ」
カイが鳥澤を一刀両断した。まぁかなり高さがあるし、海の状態もわからない。秀和さんも、危険だって言いたげな顔をしている。
「なん、なんか方法ある?」
りんが無責任にこっちを見て言った。なんで僕が…
「あ」
カイがなにか思いついたようだ。
「軟、自撮り棒持ってただろ」
「えっまぁ持ってきたけど」
「それにカメラ取り付けて下の方に伸ばす。それで写真撮ればいい」
なるほど、その手があったか。そうすれば自分たちが下にいて、地層を映しているかのような写真が撮れる。あれ、ちょっと待てよ?
「自撮り棒ホテルにあるんだけど」
流石に自撮り棒はこの場にはない。ホテルの部屋においてきてしまっていた。
「…よし、取ってこい」
「んえ?」
「なん、お願い」
鳥澤まで…秀和さんとりんはケラケラと笑っている。性格は正反対だが似てるな、この親子。
「わかったよ。持ってくりゃいいんでしょー」
「よろしく」
結局ホテルに向かって走り出した。ホテルまでは百メートルちょっとだろうか。そんな長い距離でもない。
…やっぱり、この島には砂以外なにもない。だからより一層ホテルが目立っている気がする。杉近さんは何を楽しみに生活しているのだろう。ちなみにバカにしているわけではない。
ホテルに入ると、フロントが目についた。初めて入ったときは豪華すぎて気づかなかったが、左側にはれっきとしたフロントがあった。
と、そのフロントで杉近さんがなにやら慌てていた。どうしたのだろうか。
「大丈夫ですか?」
ホテル側の人に突然島にやって来た自分がそんなこと言うのはちょっと失礼かもしれない。ただ僕は意外とそういうのは気にしない性格だ。
「ん?あっ!いえ!大丈夫です。ありがとうございます気にかけてくださり」
やっぱりなにか落ち着いていない。まっこっちがホテルの事情に口を出すのもどうかと思うから気にしないでおこう。
「地層の調査は終わったのですか?」
「あぁ、いえ、ちょっと忘れ物があって」
「そうでしたか。なにかあればなんでもおっしゃってくださいね。」
「ありがとうございます。」
「おっと時間が。ではわたしはこれで。」
そういってそのままホテルから出ていった。別にいっか。忘れよう。
あれ、なにか落としていったな。何かの紙だ。A4くらいの紙が二枚に畳んである。杉近さんに渡さないと…
「プルルルっプルルルっ」
「えっ電話?」
かっカイからだ…。なんとなく何の電話かは想像がつく。
「軟、まだかー」
怒気はないが煽り口調だ。せっかちすぎじゃないか。
「ちょっとまってよーまだ一分くらいしか経ってないんじゃなーい?」
まぁ自撮り棒ないと何もできないから気持ちはわかるが…
急がないと出し杉近さんもどこか行ってしまったので、とりあえずそのA4くらいの紙をもう一回折りたたんで、上の服についてある大きめのポケットに入れた。
なんとなく自撮り棒だけ持っていくのも気が引けるので、パソコンとかも全部入っているカバンごと持って背負った。
まだ息が切れていたため、ちょっとゆっくりめに歩きながらカイたちがいるところへ向かった。
「おせーぞー」
「そんな遅かった?ごめん」
「二分は経ってる」
いやそんくらいかかるもんじゃないのか…
「まぁとにかくやろー」
鳥澤がなぜかカメラを持っていた。持ってきていたのか?でもそれ…
「はい、自撮り棒」
なんだかやけに役に立つな。自撮り棒。
「ありがとぅ、んーと、ここにつけるの?あれ、つけらんない…あ……スマホじゃないとだめだこれ」
そう、こういう自撮り棒はスマホ専用だ。カメラっていうカメラは取り付けられない。
鳥澤はりんとカイの顔を見る。しかし残念なことにどっちも今は持っていないようだ。ちなみに僕も。パソコンはあるけど大きすぎるし。
「あっこれ、使っていいよ」
秀和さんがやっと言葉を発した。秀和さんは持っていたらしい。
「えーありがとうございます!」
よかった、また僕がホテルまで取りに行くことになるところだった。
スマホを取り付け、鳥澤が落ちないようにうつ伏せになった。そして自撮り棒を下に伸ばせばいいのだが…
「……」
「大丈夫?」
うつ伏せなのでちゃんとは見えないが、鳥澤がなんだか苦しそうな顔をしている気がした。
「カイ、変わってくれない…?」
「いやなんでだよ」
ちょっと震えた声で鳥澤はこう言った。
「怖い…」
「…ハァ。別にいいけど」
軽くため息を付いてカイもうつ伏せになった。そして自撮り棒を下の方に…
と、その時だった。
「あれ、うん?ちょっと待て、おい、え?」
「どうしたの?」
「待て、落ちる、落ちる!」
カイの体が引っ張られていく。何が起こってるんだ?
「大丈夫か!」
「あああーー‼️」
秀和さんがカイを押さえつけた瞬間、二人同時に引きずり込まれた!
「お父さん!」
海の方へ、落ちていった。
「嘘……」
カイと、秀和さんが…
「何が、起こったの…?」
りんと鳥澤と僕の三人が取り残された。
しばらく状況が理解できず、唖然としていた。
「とにかく」
恐ろしそうな口調で、鳥澤は言った。
「杉近さんに言いに行こう」
僕たちは、ホテルの方へ走り出した。
―この島、なにかある。
誰か、人がいるんでしょうか.....