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いつわり郷  作者: 融点
流行
65/65

LastEpisode.故郷

お読みいただきありがとうございます。

 さっき閉じたばかりのドアがまた開く。中に入って、机の上にとうもろこしの入った紙袋を置いた。ガサッというその音からは、どこか懐かしさも感じてしまう。

「どうしたんですか?」

 自分の価値観を押し付けることはいいことではない。そんなことはわかっている。ただ行動する理由がわからなければ、それを真正面から止めようとしてもどうにもならなかった。

「...話したいことがあるんです。」

 これを聞いたらどんな顔をされるだろう。第一、自分と鋭くんは赤の他人なはずである。偶然ころんだ子供を助けただけだ。

「この機械は、実際にはない想像の空間ですごすためのものです。私はこれを、ちょっと改造を施しました。」

 パラレルワールドという言葉も発する候補として頭の中に出てきた。ただ、パラレルワールドというのはあくまで別世界であって、存在はしているから、これには似合わない言葉だと思って候補から排除した。

「...マネオン・パラスカナイス島って、知ってますか」

 きっと知らない。知るはずがなかった。おそらく、鋭くんが生まれる前にはもう、島からは人が―。

「知らないです」

 ―いや、人がいなくなったというのは表向きの事実であった。実際には今もまだ...。

「その島では昔、テロが行われて、人がいなくなったんです。それから、人もいなくなりました。」

 かなり掻い摘んだ話になってしまっている。ただ、そんなに長ったらしく話していては、さっき思ったように価値観を押し付けるだけになってしまうかもしれない。

 価値観を押し付けるだけになるのはただ時間を浪費するだけだ。しかし、要点だけ伝えても時間を浪費するだけになるのではないだろうか。

 ...時間を浪費するだけにならないためには、なにか目的が必要だと思う。今自分がこんな事をしている理由はなんだろうか。

「信じてもらえるかわかりませんが、その島には、昔から言われている伝説があったんです。」

 伝説。それはもはや、もう事実となっていることだった。信じる人がいるかわからないが、言ってしまえば宗教だってそんな類ではないだろうか。

「...あの島に入った者は、ランダムな時間に飛ばされ、そこで成し得た事実はその時代のものとして島の歴史に蓄積される、と。

 変な話ですよね。でももしかしたら、私は誰かにそれを信じてもらうまで話してしまうかもしれない。ただ...」

 ということは、過去に起こった自然破壊テロを止められるかもしれない、そう思ったのだ。

「マネオン・パラスカナイス島。この機械は今、その島の歴史を変えるための装置なんです。」

 そして話した。今この仮想空間で、何が起こっていたのか。

 ...今、この仮想空間、いや、自分の故郷で、自然破壊テロの犯人を知ってしまったことも。解いてしまった遺言の謎も、すべて。

 あの島では、島で育った以外の者が入ると、入る前の記憶が消えてしまうこともある。

 蘭花は、何をしていたのだろうか。...そういえばこの装置、島で過ごしていた記憶だけでなくて、来る前の記憶も構築されるのだろうか。

「これ、持っておいてください。

 ...これをつければ、そのマネオン・パラスカナイス島に行くことができます。」

 大量にあったそのゴーグルをいくつか、鋭くんにわたした。なにかしてほしいわけでもなかった。

 それが、鋭くんと関わった最後の瞬間だった。

 ...もしかしたら、ここから一年後、自分はどこかで鋭くんと関わりを持っていたのかもしれない。それも、自ら『大切なもの』と断定したものを通して...。

 

 

 『一年後』

 蘭花と話し合い、最近は初めに比べて大分打ち解けてきて、いい雰囲気になっていた。三人がそろった研究室。少し薄暗いものの、自分が初めてきたときよりも明らかに活気溢れている。

 やっぱりここに来てよかった。そう思えた。

「...そろそろ、この装置はだめになる。」

 そう蘭花が言い出したのは、八月直前あたりだっただろうか。ずっと部屋の隅に置きっぱなしだったそれを見て、それを話しだした。部屋の風景は初めの頃とさほど変わらない。それでも今見ればここにある壁、床、もろもろは自分の味方なのだと思えるようになっていた。

 だめになる、なんだかそんなことを蘭花は前から言っていたような気がする。そろそろ捨てる頃かな、とか。ただそれを聞くたびに虚しさを感じた。これはもはや自分の故郷なのだから。

 ―もちろん、故郷が消えるわけでもない。

「どうして?」

「...八月三十一日。その日、この装置がつくりだす仮想空間はもうなくなる。どう手を付けてももう戻らない。私がそういう設定にしたから。」

 初めて聞く話だった。そして同時に、あのとき蘭花がやっていたことがなんとなくわかった。蘭花は多分、時間が経ったら壊れてまうと自分で確定させた後、自らもう一度楽しもうと仮想空間に飛び込んだのだろう。

 今思えばその時自分も仮想空間で過ごしたものの、得られたのは過去の後悔だけだった。

 過去の後悔というよりは...いや、過去の後悔か。

 ―え?

 一年前を振り返っていてすぐにはわからなかった。この言葉が示していることが。蘭花がこの機械、仮想空間を壊した時、あの島はどうなるのだろう。

 まさか、現実でも...。

 ...ありえてしまうのだ。マネオン・パラスカナイス島、なのだから。

「...みんなで、この仮想空間で過ごしてみない?」

 いつにもまして楽しそうで、いつにもまして寂しそうな提案だった。時生もそれに賛成したので、今ここにいる三人はここから一ヶ月、いや一時間、仮想空間で、マネオン・パラスカナイス島で一ヶ月過ごすことになった。


 その途中、偶然四人の子供と一人の大人が来たのだ。

 そして気づいたことがある。

 『軟』という人物は、もしかしたら鋭くんの家族なのではないか。

 二人は顔がよく似ていた。しかし実際一年以上のブランクがあったので確信はない。でももし本当にそうなのだとしたら、鋭くんは別の人に...

 ...いや、もしかしたら、その五人も歴史の産物なのかもしれない。本当のことは何もわからない。

 ―だって、この世界はいつわりだらけなのだから。


 目を覚ます。...あれ、床に寝転がっている。

 無理矢理起き上がると自分以外の二人も何があったのかよくわからないようだった。部屋の端にあったその直方体も物体も、この空間に影という影をもたらさなくなっていた。ずっと付けていたゴーグルを外し、自分の右の床にそっと置いた。

「何があったの...?」

 蘭花は自分の名前も忘れてしまったというような恐ろしげのある声で言う。仮想空間から出てきたときの感覚は蘭花も自分も経験済みだった。でも、何かが違ったような...。ただそれに答えられる者はここにはいなかった。机の上を見ると、メモ帳からちぎったような長方形の紙があった。

『知ってほしかったんです』

 そしてその上には、自分たちが今まで付けていたゴーグルの四つめが、置いてあった。

 

 

 結局りんに会うことはできず、帰ってきたのだが、その時気づいたが日付はまだ七月三十一日だった。

 ...なんだか、こめかみあたりが少し痛い気がする。

 午後二時。さっきから鋭は夏休みの宿題みたいなものをしているが色々聞いても何も教えてくれない。

「お兄ちゃん、これなんて読むの?」

 宿題だと思っていたが、鋭は何を思ったのか図書館から借りてきた歴史の本を読んでいた。歴史なんて好きだったっけ。

「『とくがわいえみつ』だよ」

 いや、徳川家光がわからないのだから勉強し始めたばっかりということかもしれない。

 あれ、そういえば今日って...。

「ピンポーン」

 インターホンが鳴る。親はいなかったので下に行って『通話』というボタンを押すと、カイの声が聞こえてきた。後ろには鳥澤とりんがいる。

「はい」

 インターホンに対して応答するときは「はい」から始めるクセがついていた。それは個人的には「あなたは誰ですか」という質問である。ただそれに対するりんの回答は「開けてー」だった。

 別人ではないだろう。そう判断したのでがちゃっと鍵を開けて三人を中に入れた。そのまま部屋に誘導するが...鋭もいるけどまあいっか。

 部屋に入ると大勢の声が聞こえてきたので鋭は振り返り、適当に会釈した。そしてそのまま本何冊かを持って出ていってしまった。気を遣わせてしまっただろうか。

「鋭、だっけ。あんまりお前と似てないな。」

 カイは人の顔を区別するのが苦手なのだろう。だって事実、似てるとよく言われるから。そう思った。

「そう?似てると思うけど」

 呆然と立ち尽くしているカイに向かって言いながら、僕は押し入れから円形の机をとりだし、ど真ん中に広げる。四人等間隔で座るのはそこまで難しいことではない。感覚的に座って僕たちは話し合いを初めた。

「グループ課題のテーマは『思い出』。...大雑把すぎるね。」

 鳥澤がおそらく全員の思っていたことを代弁したが、それに対して学校で抗議したものは誰もいなかったので仕方がない。

「海外とか行けない?」

「いや無理でしょ」

 僕がなんとなく立ち上げた意見は一瞬で鳥澤によって切り刻まれたものの、海外に言ったところでどうするんだという話だった。

「普通に東京でもいいと思うけど」

 カイがまともな意見をいう。第一、思い出とここからの距離が関係あるなんて誰も言っていないのだから。

「そもそも、思い出なんだから旅行じゃなくてもいいと思うけどね。」

 確かにりんの言っていることは正しいと思う。旅行に行けなんて一言も言われていないのだから。

 この夏休み。僕たちは何をするのだろう。

 今日この日から、僕たちの冒険は始まっていたのだ。窓の外の入道雲はほとんどなくなり、さっきよりも太陽の光が増えたような気がする。そして目の前の線路の上には電車が走り、僕たちに夏のはじまりを告げた―。

 ガタンゴトン...ガタンゴトン......。

 

 end.

初めて書いた長編小説でしたが、いかがだったでしょうか。少しでも面白いと思っていただけたなら嬉しいです。

今後はちょくちょく短編小説を書いていきたいです。二、三ヶ月程度経ったら、また長編小説の執筆をスタートしたいと思っています。

これからもよろしくお願いします!

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