57.帰省帰り
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八月三十日、朝。言うまでもなく、僕は悩んでいた。
まず一つ。爆弾が見つかっていない。側巻さんたちがどんなふうに今やっているのかは知らない。一昨日と昨日はグループ課題の仕上げとやらに対して必死で、保全委員会に顔を出す時間がなかったからだ。
そして二つ。秀和さんが帰ってきていないのだ。
カイから聞いたことが正しければ、日付的には今日秀和さんが帰ってきても良いはずだ。本当にそれが実現するのだろうか。帰ってきても帰ってこなくても、秀和さんがいなければ僕たちは東京へ帰ることができない。
それとも、自分たちで杉近さんなどに泣きついて帰してもらえとでも言うのだろうか。
こんな重いことばかりを、寝起きから僕、軟は考えていた。
朝ご飯を食べても、それは解消されないままだった。解決しないのはあたりまえだ。ただ、この問題を問題とでしか受け取れない自分がいる。
...いや、もしかしたらグループ課題に打ち込んでいた時点で、僕はこの島を見捨てているのかもしれない。
そんな自分の思いに気づくと、僕は辛くなった。ただ、微かな喪失感に襲われ、涙を流すこともできなかった。
秀和さんと連絡を取る気力も出ない。そもそも、秀和さんはカイが自分の存在に気づいていることを知っているのだろうか。知らないとすれば、カイが早く帰ってこいと連絡を取るのもリスキーだ。ただ、その危険を押し切ってでも僕たちは自分と向き合うべきだろうか。帰りたいと、正直に伝えるべきだろうか。
そのことを四人全員がいるこの部屋でカイに話すと、小声で
「祭りは今日だ。夕方にやるんだとしたら帰れるのは午後だろ?」
と言われた。...この島に来た時、東京から出発したのは夕方、ついたのは朝か昼だっただろうか?よく考えてみたら、島と東京の間を移動するには十二時間、いやもっとかかるかもしれない。九月一日の学校に行くには、前日八月三十一日の夕方にはついておきたい。なので今日の夜にはこの島をでなければいけないわけだ。
...ただどちらにしろ、秀和さんには夜通し船やら車やらを操作してもらわなければならない。行きも思ったが申し訳ないな。
とりあえずそれは今はいい。今重要なのは秀和さんがいつ帰ってくるかである。まだ祭りを行っていない、すなわちまだ帰ってこない可能性が高いのなら、今僕のできることは秀和さんを待つ、それだけである。
...ただ、僕は謝らなければならない。だって、保全委員会に協力したとはいえど爆破予告の解決には微塵もつながらなかったのだから。
結局僕が解決したことといえば杉近さんと秀和さんたちの関係くらいだ。貧乏人という捉え方を見つけたのはカイだった。
というわけで、昼ご飯を食べたあと、僕は保全委員会の事務所へ顔を出した。
「すみませんでした。」
ドアが開いておはようと言われたあとで、突然そんなことを言ったので側巻さんと桐間さんはびっくりしていた。杉近さんはいなかった。
...そういえば、杉近さんは祭りに出るのだろうか。一緒に生活しているわけではないので、顔は出さないのだろうか。
側巻さんと桐間さんは「そんなことないよ」とか言っていたが、その言葉がそのまま伝わってくることはあまりなかった。
「むしろ、私たちも巻き込んじゃってごめんね」
僕はなんと返しただろうか。あまりはっきりは覚えていない。なんとなく笑ってごまかしただろうか、それとも具体的な日本語を発しただろうか。
これが最後の別れを告げたことになるのかはわからないが、この島でそれ以降側巻さんと桐間さんに会うことは多分ない。杉近さんに関してはあるだろうが。なんてったって、ホテル『ザンゲツ』のオーナーなのだから。
そして今度こそ、僕ができることはなくなってしまった。
午後二時。なんとなく外に出た。あまり間隔を空けなかったが、今日二度目の外出だ。また空は晴れている。
何かしら写真くらい残しておこう。そう思って、スマホでぱしゃぱしゃシャッターを押していた。シャッターは言うまでもなく平たいデジタルのボタンである。とはいいつつ、後になって思えば、撮った写真といえば空と地面を融合したものと、空をバックにホテルを撮ったものと、ホテルの後ろに広がる海と地面を融合した写真くらいだった。
また部屋に戻ったものの、やはり僕は思う。
今、僕がやるべきことはなんだろうか―。
自分の力で、なにかできるのではないか?ただ、森も砂漠も探し尽くしたし、今更何をすれば...。
部屋に入ると、カイたちは既に帰りの準備をし始めていた。いや、帰りの準備とは言うが実際は金庫のものをカバンに入れて、重いものとかは大きめの一つのカバンに入れて、あともう一つあえて言うなら、帰るための心構えくらいだった。その後はみんなごろごろしていて、僕はもやもやし続けて、気づけば夜になってしまった。
―そんなさなかだった。
「...みんな、ごめん。」
部屋のドアが突然開いて、そこにいたのは紛れもなく、りんの父、秀和さんだったのである。
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