52.目撃
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ホテルを出て左側。それは背中側も含まれているから、想像以上に広かった。僕は晴れている青空の下のきれいな海を見たくて、そっち側をさきに歩いた。
この金属探知機は遠くのものを感知できる訳では無いから意外と根気よくやらなければならない。ただホテルの背中側はそこまで広いわけではなかったので、海岸と平行になるように歩いて探してもそこまで時間はかからなそうだった。
...そういえば、杉近さんは何をしているのだろうか。
忙しいから来れないと言っていたが、何かあったのだろうか?ホテルの経営者の仕事なんて一ミリも知らないが、勝手なイメージだがこんな人がめったにこなそうなところで、忙しくなることなんてあるのだろうか。
もし、食料に関することだったらどうだろう?
―「当ホテル『ザンゲツ』はこの島の特性を活かし、食事、水道、お風呂、その他の水をす・べ・て用意しています。月に一回食料を運ぶ重量物運搬船が来ますが、それ以外この島で用意しています。」
あれ、なんだかカイも同じようなことを言ってたような...。
―「あの場所にいつも食べ物を持ってきてくれる人がいる、だってさ」
もしかして、重量物運搬船ってあの人達の食料も運んでたんじゃ...。いや、流石に重量物運搬船というのは嘘かもしれない。この前気になって調べてみたのだが、重量物運搬船は千トンとか、明らかに食料だけでは届かない量を運ぶものだったからだ。
ただ、嘘じゃないとしたら...?昔はそれくらいの量を運んでいたとしたら...。杉近さんが「食料を運ぶ」というのが嘘だったとしたら...。
確か、杉近さんはもともとこの島の住民だったはずだ。
―「それで飯尾さんが言ってた。その人はこの場所をつくってくれたんだって」
そのための材料だったりも重量物運搬船で運んできて、建築を...。
もしかして...。あれ?あれって...。
ホテルに戻ったのは十二時半くらいのときだった。ちょうど昼ご飯を食べに行くところらしい。部屋に入った瞬間そう言われたのであまりしっかりは見れなかったものの、かなり大きかったグループ課題の用紙は、もう四分の一くらいが埋まっていたと思う。
今日はオムライスだった。僕に洋食を聞くとパスタとグラタンとオムライスくらいしか思いつかない。だからオムライスが出てくると自然に受け入れることができる。
そんなオムライスを運んできたときの杉近さんは少し息があがっていた。そりゃそうだろう。
「軟、だいぶ散歩長かったね。その間に結構進んじゃったよ」
思った通りりんが言ってきた。進んだというのは課題のことだろう。
「ちょっと結構遠くまで行ってたんだ」
いや、遠くまで行ったって二時間近くなんてことあるか?と思ってしまったものの、りんはその返答をすんなり受け入れてくれた。
「ふうん」
そんなふうに自分で思ったとしても、その二時間のうちの大部分は金属探知機を持って外で歩いていたのだから、...まあ、嘘にはならないはずだ。
「何、書いたの?」
自然な会話を求めて僕がたどり着いた話題がこれだ。実際ちらっとしか見ていなくて気になっていたからだ。そもそも、タイトルさえわからない。
「まずタイトルはえっと...何だっけ、シンプルにマネオンパラスカナイス島だったっけ」
鳥澤がちょっとぎこちなく言う。シンプルなのにしたのに忘れることってあるのだろうか。鳥澤は、ところどころ抜けているところがある。
「そうだよ、なんでわすれんだよ」
カイも同じことを思ったらしい。こういうことがあると、カイは地味に口が悪いだけで考え方は普通と同じなのかもしれないと思えてくる。実際、カイといっしょにいてこれといって悪いことが起こったことはない。はずだ。
「何書いたの?」
内容を聞こうとしたつもりが、しつこく同じ質問を繰り返していたことに、言った直後に気づく。
「えっと...結局地層はネットで調べても出てこなかったし、とりあえず今までのここの気温とか天気とか調べてまとめたんだ。それで天気図と照らし合わせて...みたいなことしてたら結構埋まると思わない?」
...やっぱり、なんか鳥澤らしいアイデアだった。鳥澤が出したのだろう。専門的な知識を持っているのかどうなのかは知らないがそういうところの話題を持ってくることが多い。
「面白いね、今から僕もちゃんとやるよ...」
確か語尾は笑っていたと思う。ここまでまくしたてられたら参加しないわけには行かない気がした。
...側巻さんたちに話すまでには、まだ時間がかかるだろうか。
それから、七日間が経過した。杉近さんも、事務所に帰ってきた。
もう、時間がない。
言わなければならない。全員が揃ったこの場所で、話さなければならない。
結論から言って、結局爆破予告の解決には繋がらなかったのだが。
あと、三日...。




