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いつわり郷  作者: 融点
食べ物
50/65

50.報告書

お読みいただきありがとうございます。

 あれ...?スマホがない...。

 秀和さんのスマホは取られたら困るからって鳥澤が(ここは警戒心強いんだな)金庫にしまっていたはずだ。なんでないんだ?え、もしかしてこれってなくしたんじゃ...。

「鳥澤、秀和さんのスマホがないよ」

 「え!?」と声を上げる。レポートが一通り終わったようでほっとしていた二人は突然の知らせにびっくりしていた。僕はここで思ったことを素直に言う。

「そういえばさっき杉近さん、金庫の方ばっかり見てたような...杉近さんが持っていった...?」

「いやなんでなんで、目で物奪えるなんておかしいって」

 と珍しくりんに一刀両断された。

「どうしよう...。でも金庫は閉じてたはずだし...。」

「あとで、杉近さんに言いに行こっか。」

 僕たちが壊したりしたわけではないので、特に抵抗もない行動だった。多分「あとで」というのは、今日の夜か、明日の朝になるだろう。

 言葉の通り、その日の夜杉近さんに相談すると、「確認しておきます」という言葉をもらった。

 ...結局、何も進展がないまま、この前のように一週間が経過した。

 

 八月二十一日。今日は、この島に初めてきたあの日くらい晴れている。なんか、妙に昔のことに感じられるな。

 と、僕含めた四人は少し思い出し始めていた。僕たちはこの島でグループ課題をしなければならないことを。完全に忘れ去って、この島で起こる奇妙なことに引っ張られていた僕は突然現実に戻され、まるでずっと宇宙にいたのに突然地球に連れ戻された感覚になった。

 まだ朝の十時。僕たちはホテルの部屋の中でその用紙を広げる。鳥澤が持っていたらしい。りんの書いていたレポート用紙の八倍くらいあって、結構大きい。

「で、どうする?」

 今思い出したのだが、東京で計画を立てた時、『まとめるもの』という話題もあったものの、僕のメモにあったのは、

『地層、日記』

 それだけだった。いや...。まず第一、日記は人に見せられるような内容にならないだろう。地層って言ったってそんな...。もう一回写真を撮りに行くのもなんでとは言わないが抵抗が...。

「秀和さんのスマホもないしね」

 そう、秀和さんのスマホがないから、もしあの時写真を撮っていてもそれを見ることはできないのだ。

「お父さんにメール、送ってみる?」

 なんだかもう、深刻な状態なのかどうなのかよくわからなくなってきてしまった。何で自分の父が帰ってこないのか、多分りんは理解できていないはずなのに。いや、理解しようがないはずだ。

「大丈夫だよ」

 僕の言った大丈夫とは何を指していたのだろう。反射的に言ったものの内心そんな事は思っていなかった。

「じゃあ、先にレイアウト決める?」

 なるほど。レイアウトがわかれば書くものも思い浮かぶかもしれない。鳥澤の提案には全員が賛成。「じゃあここらへんタイトルで...」りんのその発言から話し合いが始まったのだった。

 

 それから時間が経って、昼も過ぎて、午後一時になった。僕は散歩と称して保全委員会の事務所に顔を出した。結構久しぶりだろうか。散歩と称して。多分それはりんだけのためのものだろう。鳥澤もカイもこのことを知っているのに、僕は一体何をやっているんだ...?まあ、そんなこといっか。

「おはよ。」この時間に合わない挨拶を桐間さんと側巻さんにはされたが、よく考えてみると「こんにちは」の方がなんか違和感があった。「やっほー」もちょっと距離が近すぎる気がする。そしてその直後、側巻さんにこんな事を言われた。

「杉近が忙しくなってちょっとの間これなくなるってさ。」

 何故か頭がぼーっとしていた僕はそうなんだ程度にしか思わなかった。なので素直に、思った通り「そうなんですか」と言って椅子に座った。

 ...この一週間、僕はずっと話そうか迷っていた。側巻さんの追っている人が、実はかつての被害者であったことを。ただ話さないままなら、この問題は解決されないものだった。しかし話すということは、杉近さんを初め桐間さん、側巻さんがここにいる理由がなくなるということだった。

 ただ、事実も事実だ。どうあがいても事実に過ぎない。事実以上でも事実以外でもない。どうやら、そのことをこの人たちに突きつけられるのは、僕しかいなかったようだ。今日この日、話そうと決めたのだ。

「何してるんですか?」

 とりあえず身近な話題、かわからないが、そういうのから入ろうと思って、キーボードをぱちぱちやっていた側巻さんにストレートな質問をした。

「杉近が来れなくなるっていうから、これから調べる内容とかまとめとかなきゃいけないんだよ。―ほら、天安がこれ、杉近さんのですよねとかなんとか言ってあの時持ってきた爆破予告のやつみたいな。あれだよ」

 ああ、あれか。僕がこの人たちに協力するきっかけになったやつだ。

「夜にはホテルに置いておくから、今日中には見てくれるかな。」

 これを聞いて僕は思ったことがある。日によってホテルに置く日は違うのだろうか。

 確かあのときは...自撮り棒だっけ?を取りに戻ったときに杉近さんがなんか慌ててた(?)から、置いたのは朝だったのだと思う。

 ただその疑問をふっとばすくらい、僕はもう覚悟ができていた。伝えなければならない。すべてを。

「そうなんですか。...一つ、話したいことがあるんです。」

事実は、事実です。

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