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いつわり郷  作者: 融点
月と島の守護
5/65

5.ホテル ザンゲツ

お読みいただきありがとうございます。

 おかしい。明らかにおかしい。

 いくらりんの想像力が悪かろうと、やっぱりここに来るのが現実になったことはおかしい。

 さっきりんのスマホの地図を見たとき、中心付近にはなにも表示されていないように見えた。その前提でりんが凄い場所と表現したことは置いといて、そこに行くことを全員がなにも調べずに承諾したこと、この日をこの島への疑問を全く持たずに迎えたこと。そして何より、衛星写真ではそこだけピンポイントに曇ってたと言っていたのに、空を見るとものすごい晴れていることには引っかかるものがある。それ以外にもいろいろ言いたいことはある。

 建物の中に入ると、豪邸のような内装が広がっていた。天井にはピカピカしているシャンデリア、壁には誰が描いたかわからない絵画、床には赤っぽいカーペット、奥の方にはこれまたピカピカ光っている螺旋階段。外とのギャップがありすぎて唖然としていたとき、奥から声がした。

「いらっしゃいませ。」

 いらっしゃいませ、お客様とまでは言わなかった。……別にそんなのどっちでも良いのだけれど。その男性は、こっちに笑顔のまま向かってくる。

「お上がりください。靴はそのままで。」

 下を見ると、目の前に段差があることがわかった。

「あのー」

 鳥澤が声を上げる。

「ここ、なんのお店ですか?」

 鳥澤が自分からこんな発言をすることは珍しい。

「当ホテル『ザンゲツ』はこの島の特性を活かし、食事、水道、お風呂、その他の水をす・べ・て用意しています。月に一回食料を運ぶ重量物運搬船が来ますが、それ以外この島で用意しています。」

 要するに、この島は水がいいと言っているのだろうか。

 後で秀和さんから聞いたが、重量物運搬船というのは、普通の船じゃ運べないような重いものを運ぶ船らしい。あまり人はいなさそうだが、一ヶ月分の食料って、そんなに重いのだろうか。

「しかし、水を当ホテルの目玉と言いたいわけではありません。設備、接客など、あらゆる形でお客様がより良い宿泊をできるよう、尽力してまいります。」

 饒舌なその人は続ける。

「お部屋にご案内します。」

「えっ?予約なんてしてないですよ?」

 しかし実のところ、ここに泊まりたい。三十日間。

「しかし、ここに泊まりたいと思っているでしょう。」

 ずばり当てられたから、なんとなくうなずいた。

「じゃ、ここで過ごすか。今日から九月まで。」

 それからいろいろあって、二つの部屋を貸してくれた。特に名前はないという。

「申し遅れました。私、当ホテルの杉近守すぎちかまもると申します。なにかあればなんなりとお申し付けくださいませ。」

 現在、時刻は四時三十分。

「では。良い夢を。」

まだ良い夢をというほどの時間ではなかった。今この瞬間も、やはり窓の外の空は、灰色の雲は見せたくないようだった。




「ちょっと、外行ってくる。」

 目的は分からないが、秀和さんがそう言って、この部屋から出ていった。

 二つ部屋があったので、どういう風に部屋を分けようかとさっき話していたのだが、何故か勝手に僕は秀和さんと二人きりという事になっていた。りんとカイが一緒になると地獄が生まれる気もするのだが、まぁいいや。しかし、やっぱりなにを話していいかわからないので、とりあえず部屋にあった金庫に自分の荷物を入れていた。……南京錠、いらなかったか。

 秀和さんが出て行って一人きりになった。この部屋は畳の和室とベッドルームで構成されていて、僕が想像したものよりは広い。ホテルに入ったときの豪華な感じはしなかった。僕はこっちのほうが落ち着く。

 しかし、結局一人になるとどうも落ち着かないのが僕の癖だ。

 なにか暇つぶしになるものでもと、持ってきたバックを覗き込む。直ぐに目に入ったデジカメを取り出して、ついていた縄を首にかける。このカメラ、案外小さかったんだな。

 ひらりと外から風が吹き込む。

 窓の外には植物など全く無かったものの、雄大な空と夏を感じさせるような景色に魅了され、なんとなく写真を撮ってみる。

 パシャ。

「やっぱ今日は晴れてるなー」

 前までのこの島の曇は誰かが意図的に作り出したんじゃないかと、ふと思う。

 だって、本当はこの島は、言葉に表せないほど素晴らしい島なんじゃないかと、心の奥底で思えていたからだ。




出してくれる夕飯は唐揚げとか味噌汁とかの和洋食、大浴場つき。よくあるといってもこのホテルはあの杉近さん一人で経営しているらしくかなり気が利くようだ。でも、こんな孤島で、一人でやっていくのは大変ではないだろうか?

 料理は部屋まで持ってきてくれるし、それを全部屋だ。……全部屋?

「ねぇ秀和さん。」

 十分くらいして部屋に戻ってきた秀和さんと夕飯を食べていたとき、聞いてみた。

「このホテル、僕たちしか泊まってないんですかね。さっきから人影がありませんよ。」

 考えてみれば、部屋も五つほどしかない。やっぱりそんなに泊まる人もいないのだろうか?

「この島には住民以外入ったことがないんだよ。」

 単にびっくりしてしまった。なんでそんなこと…。そういえばそんなことをりんも話していた。情報源はやっぱり秀和さんだったのか。

 秀和さんは特に訛りもないし、僕にとって話しやすい。

「なんでそんなこと知ってるんですか?」

「さぁ……誰かから聞いた話なんだけど、誰だったかな……」

「えーっと、この島のこと最初に知ってたのって、秀和さんじゃないんですか?」

 情報源を辿っていけば住民に辿り着くのだろうか。

「そうかもだけど、ネットに情報はないし。」

「というか、住民って……」

「杉近さん以外いるんか?誰か」

 僕はちょっとだけ笑みを浮かべた。住民というのが仮に杉近さん以外いなかったとして、それなら秀和さんは杉近さんと面識がある可能性も出てくる。…って、何勝手に妄想してんだろ、僕。

「……特に誰もいなそうでしたけど。まっいっか。」

 しかしその住民とやらが情報源だったとして、その情報を流出させたのは意図的なのか?目的は何だ?

「ごちそーさん」

「えっはや」

「りんがいると早食い早食いうるさいから。」

 まぁ、僕ももうすぐ食べ終わりそうなんだけど。

「ハハハ……」

 コンコン。

「な~ん」

 鳥澤が疲れ切った声で入ってくる。……なにがあった。

「あの二人……何も喋ってくれない。」

 あぁ…そんな感じだと思った。世界観が違いすぎるあの二人が楽しく雑談なんて早々できるものじゃない。

「ちょっと変わってよ~あのままでいさせると空気やばいし~」

 そう言うと思った。確かに離れたい気持ちにはなるけど、そのまま放置するわけにもいかない気持ちになるのが鳥澤だ。

 僕もちょうど食べ終わったから、言われるがまま立ち上がって、とりあえずカイたちの部屋に向かう。

「いや、まて」

 このまま部屋に入ろうとしたけど、入ったところで何をすればいいんだ?無言なのは食事中だからかもしれないし……。

「鳥澤、もうちょっとあっちいな」

「えっ絶望」

「っていうかもう食べ終わったの?」

 もうって言う表現は自分も食べ終わってるから使いたくないが……

「いや、まだ。トイレ行くって言ってきた。」

「じゃぁ食べてきな」

「え~絶望」

 ぱたん。案外素直だな。

あっちの部屋の三人が心配だけど、まぁ今はいいか。現在時刻九時。いろいろあって食事だけ後回しのしていたから空は夜中になり始めている。食事でこんなに静かなんだから、今夜は静かに眠れそうだ。

鳥澤災難だったでしょうね笑

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