48.告白
お読みいただきありがとうございます。
「さっきは、ごめん」
りんが部屋に入ってきて言葉を放つまでには、あまり時間はかからなかったと思う。
五時半。俺はとりあえず自分の部屋に来てみたものの、特にすることもなく布団の上に寝転がっていた。持ち帰ったものも特にない。なにか得たものといえばあの人たちの歴史と、秀和さんがまだ帰ってこない事に対する虚無感だけだった。自分は、何も解決できなかった...。
...あの人たちは結婚してはいけないことになっている。だからもしそのままで行けばあの生活もいつか終わりを迎えることになるだろう。飯尾さんはそれでいいのだろうか。もしかしたら飯尾さん自身、明訓さんと同じように遺書でそのことを告げるのかもしれない。この事は、飯尾さんと俺しか知らないのだから...。
「いや、俺も悪かった。ごめんな」
目線が下に行ったままのりんに言う。やがて目線を上げ、補足するようにりんは言った。
「お父さんが心配なんだよ。早く帰ってきてほしくて...」
ついカッとなってしまった、と言いたいのだろう。ただりんが続きを言うことはなく、そのまま部屋を出ていった。
...全部、話したほうが良いのだろうか。突然部屋を飛び出ていって軟たちを困惑させたというのは一つの動かぬ事実である。
いや、それでも飯尾さんたちの間にあるあの事実は外に出してはいけないことだろう。何となく体がそう言っている。もしかしたら、静かに『テロ』の事が、地中の奥底に眠るようになることを明訓さんは望んでいたのかもしれない。だから、あの場所も終わらせたかったのではないだろうか。
...それが、明訓さんの望むことなのだろうか。
もしそうだとしたら、いちいち掘り出すのも良くないと思う。ただ俺が思い出すのはやはり軟と一緒にいたあの人達の事だ。軟と一緒にいた人達は、俺と一緒にいた人達の事を追っているんじゃないか?
いずれにしても、隠し通すと友人関係が崩れてしまうかもしれない。...自然破壊の事はいい、俺があの場所に行った理由だけ、軟に話そう。
部屋を出て、隣の部屋のドアをノックした。飯尾さんとか、気を遣う相手では全然なかったので、拒否されない限りは返事がなくても俺はドアを開ける。
なので躊躇なく部屋の中を見ると、鳥澤、軟、りんの三人はりんの宿題の続きをしていた。だんだん完成へと向かっている。ただ、また戻ったいい雰囲気を壊すつもりはなかったが、俺には話したいことがある、それは事実だった。
「軟、ちょっといいか?」
突然名前を呼ばれて驚いたようだったが、スクッと立ち上がってこっちへ向かってきた。俺は隣の部屋の方を指さして、廊下を歩き始める。軟もついてきた。
自分のいた部屋のドアを開けると、シワの寄った布団が目に飛び込んできた。さっきまでゴロゴロしていたから当たり前だろう。
俺はそのゴロゴロしていた場所に座ってあぐらをかく。まだ体温の温かさが残っていた。
「どうしたの...?」
「ちょっといいか」と言葉を濁していたので、より一層軟は不思議に思ったようだった。
「俺がいた場所のこと、話そうと思うんだ。」
さっきも言った通り明訓さんのテロに関しては口を閉ざしておこうと思う。ただ、俺と一緒に過ごしていた人はだれなのか、秀和さんはどうなったのか、俺が何故もう一度あの場所に戻っていったのか。ついでに、食料のことも入れていいだろうか。
...覚えていて欲しいこと、なのだから...。
「秀和さん、本当は見つかったんだよ。」
軟が脱力していた目を見開くまでには、俺が喋りだしてから一秒もかからなかっただろう。
隠しておきたいことと、言っておきたいことがあって、全部隠したいってわけでもないんですよね。




