38.レポート課題
お読みいただきありがとうございます。
...やっぱり、りんは夏休みの宿題が終わっていなかったようだ。
「しょうがないじゃん、こんなわけのわからない島だと思わなかったんだもーん」
なんてりんが軽々しく言っているが、残された宿題はあまり簡単なものではない、というか単純に時間がかかりそうなものなのだ。すなわち自由研究のようなものだ。俺達の学校では毎年自由研究のテーマが決められている。今年は『外国の中小企業に関してレポートを書く』というものだった。与えられたのはそのテーマと細かい条件、あとA4サイズの普通よりしっかりした紙だった。
宿題が終わっていないとわめき出したのは軟が部屋を出ていった直後のことだ。思い出したようにそのことを俺達は伝えられ、愕然ともせず呆れもせず、真顔で「えぇ〜」というような声をだした。鳥澤と二人で手伝うことになるのか、いや、軟が帰ってきたら軟にも手伝わせよう。と俺は勝手に考えていた。実際そうで、中小企業を決めるところからそれをまとめるところまで、すべて手伝うことになりそうだった。それもこの島で、このホテルで。
「まずテーマ決めからやろう。」
と優しい鳥澤が話し始める。テーマって何回も出てくるので、その言葉が先生たちが決めたテーマなのか、自分たちで決めるテーマなのか、一瞬わからなくなってしまった。
すでに床にはそのA4の紙が広げられている。雑なりんだから初めから本番書きである。
「あ、ううん。テーマは決まってるよ。」
「あ、そうなんだ」と平然と鳥澤が答えた。ちょっと意外だな、と思ってしまったが、それを口に出すところだったのでグッと耐えた。
どうやらりんは中国の縫製工場に目をつけたらしい。縫製工場なんて言う言葉がりんから出てくるのもさっきと同じように意外だった。
その企業の名前は『ムーファース』というらしい。何となくパッとしない名前だなと思ってしまったが、多分何かしらの意味があってこの名前なのだろう。パッとしない名前というのはその意味を知ってからだ。
それを検索エンジンで調べてみる。軟のバッグにノートパソコンがあるのを俺は思い出していたが、事実軟はここにいないので使うことができなかった。今使ったことがバレなかったとしても後でバレるだろう。検索履歴だって残るし、充電の減りなどを感じるかもしれない。
結局りんはスマホを取り出して調べ始めた。『mooofaaace』(そういうアルファベット表記らしい)。そっけない検索単語だったが、それでもしっかりサイトが引っかかるらしい。実際検索単語が少なければ少ないほど多くの検索結果が引っかかるだろうし、その分無駄な情報も増えると思うが、今俺の目に入ったのはしっかりしたムーファースの公式サイトらしきものだった。
ただそれがムーファースのものだと思ったのはそれがアルファベット表記でしっかり『Mooofaaace』と書かれていたから。それ以外のところに目をやるとそのホームページ自体中国語で書かれていたのだ。他のところにはよくわからないレビューサイトがあるし、無駄な情報ばっかりだ。
「うーん、どうしよ」
たぶんりんは全部中国語で書かれていることに困惑しているのだ。実際この宿題の目的も外国のものに触れることで、言語についても例外ではないはずだ。りんが今困っているのは正しいと考えられる。
「大丈夫だよ。全部翻訳機にかけよう。」
と、珍しく鳥澤がそんな事を言いだした。翻訳機にかけるなんて英語の授業でやれば怒られるだろうし...いや、これは英語ではなく紛れもない中国語だ。辞書だって持ってないししょうがないだろう。
鳥澤の指示に従ってりんは『翻訳』と検索した。
しばらく経つと本番書きを始める準備が整っていた。あとはまとめるだけだ。
しかしどうだろう。縫製工場...中国...。縫製工場?
サイさんからもらったのは織物だった。なんか引っかかる気が...
秀和さんが関係している。秀和さんはりんの父で、島のこともりんは秀和さんから聞いた。だとしたらこの宿題のテーマも秀和さんから提案された...?
変わらぬもの...祭りの年...。
変わらぬもの...。
第一、先入観は捨てなければならない。果たしてサイさんとダンさんは本当に...。
もし仮にあの二人が本当に本名だったとしたら...?大体、俺は本名を聞かなかっただけであってカタカナ表記で教え込まれたわけではない...。
...大体、名前か名字が必要ではなかった...?
なんだろうか。何かが...。
MoooFaaaceってなんか...(何)




