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いつわり郷  作者: 融点
宿題と研究
37/65

37.ドア

お読みいただきありがとうございます。

 一通りカイから話を聞き終わると、もう空は夕方を演出していた。どこかでカラスが「カー、カー」と言って優雅に飛んでいそうだ。

 そんな夕日も、カイにとっては久しぶりに見るものだった。一週間以上、陽の光が届かない場所で生活していたはずだから。少なくとも僕があの場所に立ち入ったときは陽の光なんてなかった。

 しかしその夕日を見て、カイは妙なことを言い出したのだった。

「あれ?もう夕方か...?ついさっきまで朝だった気が...」

 どういうことだろう。僕にとっては長い一日だった。昼ご飯を食べたあと、鳥澤たちと話して秀和さんがあっちにいる人の仲間かもしれないなどという説を立ててしまい、それに加えてカイまで見つけ出したというとてつもなく情報量の多い時間だった。カイは僕たちが助けに来た(という言葉で表現して良いのかはわからないが)こと以外衝撃的な出来事がなかったのだろうか。いや、僕たち一日のほうがイレギュラーなのだろうか。

「寝ぼけてんじゃない?」

 りんが適当な言葉で片付けようとするが、カイは言う。

「そんなことねえよ、だって俺昼ご飯食ってねえから...」

 今の日本は三度の飯が当たり前のようになってきている。だからカイのその一言は昼という昼を過ごしていないことを象徴していた。

「どういうこと...?」

 鳥澤は心の内にあった言葉をそのまま漏らしてしまった。

 ...結局、小さな謎は解決しないまま僕たちは杉近さんに夕飯を食べさせてもらい、一日を終えることとなった。


 八月十四日。明後日になれば夏休みは半分を切る。朝ご飯を食べた後ちょっとゴロゴロしていた。カイが帰ってきて肩の荷が半分くらい降りたのだろう。後は秀和さんが...第一、秀和さんが帰ってきてくれないと僕たちが帰れないのだ。

 しばらく経ってからいつものように保全委員会のところへ行く。晴れていてちょうどいい気温だ。青空の上の太陽の光が手元に差し込む。ドアを開けるため壁に手を当てるが、高性能のゲームの世界のようにきれいな風景に思えてくる。

 そして開けると昨日と同じように三人とも椅子に座っていた。

「ほんとに知らない?」

 側巻さんが杉近さんに迫っている。多分側巻さんは例の『隠し戸』のことを杉近さんに聞いているのだろう。

 「ああ、天安」と三人がこっちを向いて言う。いや、全員が言っていた訳では無いが。ああの後に天安と続くと言いづらいので、ああと天安の間に『、』が入っていた。

 いつものように残っている椅子に座った。とはいってもいつもと同じ場所だ。

「知らないよ。その場所に座ってたからって疑わないでよ」

「いや、座ってたからじゃなくて杉近しかいないから!」

「ちょっと落ち着いて、この三人の中にやった人がいるとも限らないんだからさ」

 誰がどの言葉を言ったか、言わなくてもわかるだろう。一番最初のやつから杉近さん→側巻さん→桐間さんだ。

「でも、蘭花と時生のどっちかがやった可能性だってあるでしょ?」

 そういえば、側巻さんの下の名前は『蘭花』で、桐間さんの下の名前は『時生』だ。そんなことどうだって良いのだが、ただヒートアップしていくこの会話の波に僕が乗ることは難しいようだった。...来るんじゃなかった。

「えー!?少なくとも私はそんなことないよ?」

「僕だって違うよ...」

 その後もしばらく論争は続き、しばらく経つと落ち着いてきた。

「...まあいっか。本当に知らないのね?」

 最後の悪あがき、という表現はおかしいと思うが、一番最後に側巻さんはもう一度杉近さんに確認した。

「本当に知らない。」

 一番力を込めて言った、杉近さんの言葉だった。

「そろそろ昼ご飯の準備してくるよ。」

 よっぽど長い時間僕はゴロゴロしていたらしい。もう時計は十一時を示していた。杉近さんは部屋を出ていくが、特に急いでいる様子でもなかった。

「ほんとかなあ...」

 側巻さんは変にぐったりしていた。インテリトスに近づけるんじゃないか、そう思っていたのだろう。しかしその直感が的中してしまったら仲間であるはずの杉近さんが裏切り者だということになってしまう。

「ねえ、思い出したよ。」

 突然、桐間さんが「あ」と声を上げて言った。側巻さんが桐間さんの方を向く。「何を?」

 すると桐間さんはこれまで昨日からあった違和感を打ち明けた。

「この事務所のドアの仕掛け、杉近が提案したんだよ。」

 どういうことだ?確かに、このホテルは最初桐間さんと杉近さんしか来ていなかった(そういえばこの建物を立てるときは流石に業者とかに頼んだのだろうか、いや、だとすると秀和さんの住人しか入ったことがないという発言は崩れるな...)。杉近さんが提案したとしてもおかしいことではないだろう。

 すると桐間さんは、杉近さんにさっきよりも大きく疑いの目を向けだしたのだ。

「そこの隠し戸、このドアの仕掛けに似てない?」

杉近さんって側巻さんたちにはタメ口なんですね。側巻さん最初はお客だったはずなのに...時間の流れってすごいですね。

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