36.説明
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「何があったの...?」
かなり抽象的な質問から、カイとの会話は始まった。みんな部屋に集まって、カイから今まで何があったのか聞こうと思った。突然帰ってきたカイに対して鳥澤とりんは驚きながらも安堵の表情を浮かべる。ただ僕が気がかりなのは、絶対にああなるとカイに桐間さんたちの存在がバレてしまったということだ。ごまかす方法はないだろうか...
そんなことを考えているうちに鳥澤はカイに質問をぶつけた。布団の上であぐらをかいている。布団は鳥澤に占領されている状態で、残りの三人は床だ。
「この前メールで話したままだよ...」
とため息をついて答える。実際その通りで、カイに聞くことなんて意外とないのかもしれない。久しぶりに姿を見たからテンションが上ってしまったが、冷静になってみると現状はもうわかっているのだ。
「秀和さんは?」
見つからなかったのが事実なのだろうが、何かわかったこと、手がかりもあったかもしれない。念の為と思って聞いてみた。
「だから見つからなかった...あ、そうだ」
うつむき加減だったカイが顔を上げて、手をぽんと叩いた。
「もしかしたら、俺の部屋にいたのかも...」
全員が「え?」と言った。これは本当だ。三人とも確かに疑問符『?』がついている。姿勢はほとんど変化がないようだったが、「どういうこと...?」と僕はカイにそれに関する説明を求めた。
「俺の部屋、他の人の部屋より妙に狭かったんだ。俺は適当な部屋に割り振られたはずなのにそこだけ...っていうか、部屋と部屋の間に挟まれてる微妙な位置なのに、そこだけ狭いってなんかおかしくないか...?まあ、全部確かめたわけでもないが...」
狭い。それは僕たちが部屋の写真を見たときも思った。...つまり、カイの部屋は大きな部屋の一部分で、秀和さんはその『残された部分』にいるということになる。カイは知らないだろうが、秀和さんの部屋の写真を見る限り、確かにそれも狭かったのだ。両者の部屋の広さが同じだとするとちょうど半分のところに仕切りとかがあることになる。だからカイの自分の部屋にいるという発言は理にかなっている。ではなぜ、秀和さんがその場所にいるのにカイとは会わなかったのか。この問に対する仮説を、カイは持っているだろうか。
「それともう一つ、根拠がある。」
カイが言った。僕たちがたどり着かなかった根拠だろうか...?
「料理の数が、おかしい気がしたんだ。」
カイはあの場所にいた『滝沢さん』という人物に関して話し始めた。
カイが料理をつくる。正直想像ができないが、実際得意らしい。滝沢さんと一緒に夕飯のシチューをつくった時、カイは思ったのだという。『料理の数が一つ多い』と。
その時は数え間違えだと思ったらしいが、実際多かったのかもしれないと思い始めたらしい。それも『秀和さんの分』なのだと。結局滝沢さんがつくりすぎたと困っていたようにも見えなかったという。
「俺以外全員、秀和さんの存在を知っている。もしかしたら秀和さんと俺に関してはあの人達がわざと隔離させてるかもしれないって思ったんだ。もしくは...」
りんの方を向く。多分カイは『秀和さんはあの人の仲間なんじゃないか』と言いたかったのだろう。カイはきっとインテリトスのことを知らない。なのにりんに気を遣うのは、万が一のことに備えてだろう。りんはそのままうつむき加減で言う。
「ほんとのことを知りたい...」
秀和さんがどんな顔を持っているのか、僕たちにわかるはずがなかった。カイの考え方に従うなら、わかりたくないのかもしれない。
ただりんはそんなに暗い顔をしているわけでもない。きっとどうにかなる、そんな考えで毎日を生きているのだ。少し感心してしまう。
「...じゃあ、お父さんのこと以外になんかないの?
りんが話を変える。それは秀和さんのことを考えるのが嫌だからなのか、単にカイの話に興味をいだいているからなのか、よくわからなかった。
「うーん...ああそうだ、一週間ちょっと経ってから、急に俺の部屋に俺よりちょっと小さい子供が入ってきたんだ。」
「子供?」
「ああ。それまでいなかったのに急に来て、自分からここで生活していいかって許可取りに飯尾さんって人のところに行ったんだ。ちょっと経ったらこれからよろしくお願いしますって...。急に一緒に生活することになった。」
なんだそれ...自分からあの場所に入っていく子供がいたということだ。なにか理由があったのだろうか...。海底(と言えるのかわからないが)にも入口はあった。保全委員会の方から入るとバレるだろうから多分そっちから入ったのだと思う。ただどうして...?
「名前は『カッコウ』って言ってたな。絶対本名じゃないだろ、これ。あそうだ。本名じゃないって言ったらあっちに『サイさん』て人と『ダンさん』て人がいたんだが、それも本名じゃない気がするんだ。本人は本名だって言ってたが...」
掘り出せば掘り出すほど話題が出てきそうだ。しかしやっぱり僕たちが気になるのはこの島についてではなくて秀和さんはどこにいるかということについてだ。
ただもし、秀和さんがこの島に関わっているのならば、この島の秘密を知ることで居場所がわかるかもしれない...。
あれ...?




