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いつわり郷  作者: 融点
機織り機と侵入
35/65

35.帰還

お読みいただきありがとうございます。

 これは...?

 木造の部屋があった。地下室...?

「なんですかこれ?」

 二人に『この穴』についての情報を求めた。別に隠していたというわけではないと思うが、単に僕は疑問を持った。

 結構広いし、倉庫というには若干違和感がある。なぜってそこに明らかにベッドが置いてあったからだ。流石に倉庫に置いておくタイプのベッドはしまわないだろう。動かせないだろうし。

「え...なんだろうそれ...」

 桐間さんが疑問を表す返答をする。ただ疑問符『?』はついていないようなトーンだった。深刻なわけでもなくて、本当に純粋な疑問を持っているようだ。側巻さんも同じで首を傾げている。

「ちょ、ちょっとはしご持って来る。」

 桐間さんがそう言って部屋を飛び出た。そういえば鳥澤もはしごを持ってきていたな。桐間さんはホテルの方向へ走っていったから、多分ホテルにあったのだろう。

 三分くらい経って、桐間さんが帰ってきた。僕の背よりもかなり高いもので、扉だったりにぶつからないよう桐間さんは丁寧にはしごをくぐらせた。

 この穴はあまり広いスペースではない。だからはしごを掛けてしまうと少し狭くなって、一人が入るのがやっとだった。

 ぽかーんとしている側巻さんの前で、桐間さんは穴にはしごを入れた。そして僕に入るよう促した。

「一番若いんだから一番最初に入ってよ。」

 な、とうっかり言いそうになってしまったがぎりぎりのところでこらえた。いや、若いからって力があってパワフルってわけではない...と言い返したかったがやめておいた。

 足から入って、手のひらははしごに巻き付けた。こういうはしごで降りるのは数秒しかかからない。ただよくわからない緊張感があるせいか、落ちるかもしれない、誰か下ではしごをずらしたりするかもしれないなどという恐怖が少しだけ僕を襲ったようにも思えた。

 そして少し経って地に足がついた。いや、地下だから地より下のなにかだろうか。

 あたりを見渡すとやはりベッドしかない。そして妙に狭い。

 あれ?この場所...。

「なんかある?」

 上から側巻さんが顔をのぞかせている。

「何にもないです、ベッドだけで、なんか...すごく狭いです。」

 確信があるわけではなかったので、その違和感をすぐに二人に共有することはできなかった。ただ、やっぱりここは確かに...。

「私達もこんな場所あるなんて知らなかった。もしかしたら杉近...」

 杉近さんがなにか知っているのではないか。そう言いたいのだろう。ただ杉近さんは夕飯を準備しに行ってしまった。すぐに確かめることはできない。ただ戻ってきたらすぐに確認しよう、そんな考えが地上にいる二人から感じ取れる。

「とりあえず、写真撮ってよ。」

 証拠写真みたいなやつだろうか。桐間さんは上からカメラを差し出した。首にかけられる紐がついているタイプで、紐のところを持って僕のいる場所へ丁寧におろしてくれた。カメラ本体を両手を受け皿にしてもらい、あたりをカメラでとにかくいっぱい撮った。

 ...ドアがある。ここを開けたらどこに...?

「ドアがあります」

 それは開けてもいいかと問うているのと同じだった。それが二人には伝わったようだ。

「...いや、開けて誰かに見つかったりするとまずいし、とりあえず写真だけ撮っておいて。」

 文面だけ見たら違和感のある会話だろうが、その場のニュアンス?みたいなものが確かに存在している。

「戻ってきていいよ。」

 そう言われたが、僕はまだ納得していなかった。だってここは...。

「...ここ、カイがいた場所かもしれないです。」

 「え?」と二人は驚いたような声を出した。実際驚いていた。確かにメールでカイからもらった写真にはこの場所が映し出されていたはずだ。

 そして運良く、その時ドアが開いたのだった。

 ガチャ。その音がすると三人同時にドアの方を見た。僕は正確に言うとドアノブを見ていた。...ドアが開くと、カイが顔をのぞかせたのだ。

「カイ!?」

 え?え?とカイは突然の出来事に困惑している。一回大声を出しそうになってしまったが『カ』の母音の『k』のところでなんとか止められたと思う。

「カイ、行くよ。」

 これ以上のチャンスはない。カイから話を聞こう。この一週間以上あった時間で、どんな事があったのか。僕は大きな希望を見た気がした。

 ...カイが、もう一回この場所に帰ることになるとは思わずに。

母音の『k』で大きな声って出せるんですかね。

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