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いつわり郷  作者: 融点
機織り機と侵入
33/65

33.隠し戸

お読みいただきありがとうございます。

 秀和さんが怪しい。知らぬ間に僕たち三人でたどり着いてしまったその結論を、側巻さんたちに話すことにした。今度は杉近さんもいる。いつもと同じように側巻さんの隣りに座って、僕は唐突に「一つ気になったことがあって―」と三人にそのことを話し始めた。

 朝一回来て、もう1回来るなんてなにか理由があるのだろうか、というような顔を桐間さんと側巻さんはしていた。杉近さんも例外では無い。

 僕が部屋に入ってきた時、三人は話し合いをしていた。

 本当に今のままのやり方でいいのか、もっと問題の解決に近づくような策は無いのか。

 地上の映像を見ているだけでいいのか。この前天安たちが見つけてきた海底の扉のところにカメラを取り付けてみてはどうだろうか?いや、そんなことをするとバレるかもしれない。結局まとまった結論は出ていなかった。三人とも椅子に座って腕を組んで天を仰いでいる。

 そんな中、僕が「秀和さん―」と発すると、杉近さんが一瞬でこちらに目を向けた。

「どうしたんですか?」

 杉近さんが丁寧な口調で言う。そういえば、側巻さんも桐間さんもタメ口なのに杉近さんだけ敬語だ。ホテルの経営者に対する客が僕にあたるのだから仕方がないことだろうか。

「―もしかしたらインテリトスの人かもしれません...」

 三人とも突然の僕の発言にびっくりした。唖然、と言うまででもなかった。どちらかと言うと理解のしようがないこの仮説に困惑しているようだった。それもそのはず、秀和さんはれっきとした被害者のはずだったのだから。刑事ドラマとかでも、被害者が実は別のところで加害者だったというのはよくある展開だろう。ドラマはあまり見ない方だが何となく分かる。

「どういうこと...?」

 にわかに信じがたい仮説にも根拠がある。僕は鳥澤たちと話し合ってたどり着いたその根拠を三人に話した。

 カイは年齢が低い。だから秀和さんが一番怪しい。そのうえでその仮説に期待を寄せることになった原因が今までの秀和さんの言動である。結局はカイがまだ小学生というのがこの仮説に大きく影響したのだ。そしてその中で、カイがこの島へ来た時ただ頭に血を登らせていた原因も何となくわかった。ただそれはカイの年齢だけが理由というわけでもなく、単にカイにはそんなにわざと何も言わずただ怒るなんて演技ができないと思うのだ。理由は特にないが。

 だんだんと、三人の顔色が変わっていった。

「そう...かもしれない...」

 桐間さんがまだ信じきれていない様子で言う。

「確かに、それなら筋が通るね。二人が同じ場所にいるのに会ってないなんて普通は考えられないよ」

 側巻さんもそう言う。僕たちと同じだ。杉近さんも少し経ってから「そう...かも...」と自分に言い聞かせるように言った。

「でも、だとしたら秀和さんはインテリトスの人たちに会うためにこの島に来た?」

 独り言のように、というか独り言だった。自分の論に自分で疑問を投げかけた。

「でも、天安がこの島に来たのは小学校の課題のためだよね。確実にこの島に来ることになってその秀和さん、が一緒に行けるとは限らなかったんじゃない?」

 側巻さんが言う。そもそも、インテリトスの人たちに会うのなら僕たちとなんて行かずに一人で行けばよかったのだ。それも僕たちのいない七月中に。夏休みでなくても良い。

「あ、でも、秀和さんはりんにこの島のことを吹き込んでたみたいなんです。」

 自分で言ったことなのに吹き込んでいたという言い方に対して嫌悪感を抱いてしまったが、確かにりんは島のことを秀和さんから聞いたのだ。

「そこまでして天安たちと一緒に来なきゃならない理由とかあんのかな」

 すると側巻さんの発言に、桐間さんがこんな事を言った。

「八月中になんかあるとか?」

 なんか...八月、という縛りなら、一年に一度の何かだろうか。誕生日とか、昔この日にこんなことがありましたーみたいなやつかもしれない。ただ結局、想像だけではなんとも言えない気がする。

 ...しばらく黙っていた杉近さんだが、「あ」と母音だけを突然発した。

「ごめなさい、そろそろ夕飯の準備をしないと。」

 客である僕と仲間である側巻さん、桐間さんがいるから、敬語とタメ口が何となくぐちゃぐちゃになったような言い方だった。

 特に不満も感じずに「わかった」と桐間さんが言って、杉近さんが部屋を出ていった。

 見送るようなこともせず考え続けている二人とは裏腹に、僕は杉近さんが椅子をしまっていかなかったから椅子が気になって仕方がなかった。とりあえず背もたれを押して元の位置に戻す。

 あれ...?

「なんかここ変じゃないですか...?」

 床は普通に木製の床だ。しかし、理由はわからないがなんだか違和感がある。周りと区別できるような色の正方形を感じる。

 二人も立って見に来る。「確かに...」今まで気づいていなかったのだろうか。

 恐る恐る、それを踏みつけてみる。

 ...押し込めた...

 上の方にその正方形の木材がやられ、ポッカリとした穴が...。

 実際、杉近さんは普段立ちながら話していたから椅子を動かすこともなく、あまりそこを注意していなかったのだ。

 なんだこれ...。頭を入れられるくらいのサイズだ。少し目をやってみる。

 そこには...。

椅子に隠れてると分かりづらいですよねそりゃ。

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