30.証拠写真
お読みいただきありがとうございます。
やはり、秀和さんの場所が気になる。カイに関しては...そう、八月十一日、夕方にカイにメールを送った。その時の返信に今カイが過ごしている場所の写真が添付されていたのだ。自分に渡された部屋だと思う。ただ第一印象としては、狭いな、だ。そして同時に、少しだけ暗いようにも感じた。...いや、それは地下だからだろう。ただどこか温かみのある雰囲気を感じる。
結局そのメールには返信することはなかったが、写真があったことでカイが誰かと生活しているということに対する信頼度が急上昇した。いや、もともと信頼していないというわけではないし、嘘を付く必要もないと思うのだが...
そんなことはどうでもいい。ただとにかく、秀和さんに関しては生活している場所の情報がまったくと言っていいほどないのだ。やっぱりメールで直接それについて尋ねたほうが、物事は速く進んでいくと思う。
昼ご飯を食べて、鳥澤とりんは部屋に入ってきた。島を捜すのもやっと終わったようだ。かなり重労働だった気もする。数日でこの島全体を巡ったのだから。
「秀和さんに、生活してる場所の写真、送ってもらってほしいんだ。」
昼ご飯を一番ゆっくり食べていたりんに唐突にそう言う。ただびっくりした様子でもなく、普通にどこかからかスマホを取り出してメールを開いた。
床に体育座りのような座り方をしてポチポチとスマホのキーボードを打ち始める。いや、『ポチポチと』という表現はおかしいだろうか?スマホなんだから、聞こえてくるのは爪が画面にぶつかる音くらいだ。ただ爪が伸びているようにも見えない。打ち方のせいだろう。
五分くらい経っただろうか。ボーっとして待っていた僕にりんがスマホを差し出した。窓を見ていると陽の光が眩しく、どこか春らしさを感じてしまう。なので布団の上にいた僕は思わず寝っ転がってしまいそうになってしまったが、寝る直前にりんに呼ばれた。
「こんな感じで良い?」
無心という無心で言われたように感じる。それにつられてこっちも無感情で画面に目を落とした。
『本文:
お父さんの今いるところの写真送ってほしいんだ。
そっちのほうが、お父さんのいる場所がわかりやすくなるだろうから。あとカイにも写真送ってもらったから、それとおんなじような写真だったらカイもその場所にいる可能性が高くなるから。どこの写真でもいいから送ってほしい!』
...多分これだけの文章量なら、五分もかからなかったのだろう。僕は眠いと時間を長く感じる人だから、そのせいだろう。
適当に頷いて、そのまま送信ボタンを押した。スマホを返した途端にまた睡魔が復活し、結局僕は寝転んでしまった...
目を覚ますとまだそこには鳥澤とりんがいた。...ふたりとも、りんのスマホの画面を凝視している。どうしたのだろう。構図としては、りんが今度は床であぐらをかいていて、鳥澤が立って膝に手を当ててりんの方を向いている。
僕は朝に強いタイプだから、起き上がって伸びをして同時にあくびをした。窓から見える日の傾き具合は、さっきとあまり変化がないように見える。長く寝ていたとしても三十分くらいだろう。
「どうしたの?」
何やらぶつぶつと話していた二人は、僕が声をかけた途端にパッと顔をこちらに向けた。この部分だけを静止画にしたら僕に対して驚いているように見えるだろうが、多分二人の関心はスマホ画面に向いている。
「秀和さんから、返信きたよ...」
え?はやくないか?と一瞬思った。
しかし思い出せ。自分が寝ていた時間などわからないのだ。「今何時?」そう鳥澤に聞くと二時ちょうどだと言われた。確か...昼ご飯を食べ終わったのが一時二十分くらいだった。つまりりんにメールを書くのを頼んだのは二十五分くらいか?だとしたら僕が寝たのは三十分位ということになる。やはり寝たのは三十分くらいだろう。
「見せて見せて」
驚きが隠せずぎごちない喋り方で二回繰り返した。そのぎこちない喋り方も早口で繰り返すと、何となくなんと言っているかわかったりする。...もちろんなんと言っているかわかりやすい訳では無いが。
りんは持っていたスマホを差し出す。三十分前よりもゆっくりな丁寧な渡し方だった。
『本文:
自分に割り当てられた部屋の写真です。』
そんな短い文とともに、一枚の写真が添えられていた。
...多分この二人は内容に対してではなく、秀和さんからメッセージが送られてきた事自体に驚いていたのだろう。
その写真は暗い場所にぼーんと電気がついている。いや、暗いと言っても普通に生活できる明るさだ。ただとにかく、陽の光が入らないのだろう。絶対に地上で過ごしていたほうが気持ちがいい。できるだけ早く見つけ出したいところだ。
全体に注目してみると、少しだけ狭い部屋のように感じた。いや、正確に言えば幅より奥行きがやけに長い気がしたのだ。
...カイと秀和さん、どちらの写真も、暗くて狭いのだ。二人もそれに気づいていたようだ。やっぱり秀和さんとカイは同じ場所にいる。そう改めて感じさせてくれた。
内容をしっかり考えながら打っていれば五分くらいかかるんじゃ...




