3.7月10日
お読みいただきありがとうございます。
そもそも、なんでこんなことになったのか。それについては、夏休み前にまで遡る。
今四人は僕の家にいる。学校のグループ課題を進めるため、とりあえず、夏休み前の七月十日十五時頃、みんな僕の部屋に集まった。テーマは『思い出』。…大雑把すぎるな。
「ねーどうするー?」
責任感のない軽い話し方でりんが言う。
四人は茶色い机を囲んで椅子に座り、話を始めた。
僕たちは、学校のグループ課題で決められたメンバーだ。テーマはなんでも良いそうなので遊び半分でどこか言って、それを適当にまとめて提出しようということになっている。
「海外とか。」
鳥澤が言った。
「じゃぁ、海渡っちゃうか!」
今度はカイが。って、海渡るって、結構大変な気が…。
「あっうち船あるよ。」
りんが急に放った言葉に、全員が固まる。
「お父さんのやつ。多分行ける。今なら。」
話についていけない。
「どこでもか?」
「うん。多分。地球内なら。」
「じゃぁ、アメリカとかは?」
恐る恐る僕は提案してみた。
「え~なんかメジャーすぎ。」
なるほどね。マイナーなら良いのか。
「じゃぁりん、メジャーじゃないのって、例えば?」
「えっとー。……南極とか。」
「ムリムリ。」
マイナーか。日本から離れていれば良いのだろうか?
「あ~わから~ん!」
最初に音を上げたのは短気なカイだった。本名、菱本海斗。想像力にありふれていて、クラスでトップクラスの目立つ存在。その才能を役立てようとはしているように見えるのだが、短気なところもあって結局プラマイゼロのように見られてしまっている。
カイは顔を上に上げた。僕の部屋は壁と床は真っ白なのだが、天井だけ灰色の特徴的な部屋だ。
「じゃぁさ、わたし凄い場所知ってるよ。」
「凄い場所…」
りんの急な提案に、僕は戸惑った。
「マネオン・パラスカナイス島。その島の住民以外は誰も入ったことがないけど、たしかに存在はする、地図にも載っている、普通の島。」
「どこにあるの?」
「それは……確か、日本の近くだったような気もするけど……とにかく秘境っぽいところだよ。多分。」
「そんなところ、行って大丈夫なのか?」
住民以外は入ったことがない。確かに、少し怖さはある。
「大丈夫大丈夫。入ったことがないっていうのは、行こうとしたが帰ってこなかったとかそういうのじゃなくて、単純に誰も入ろうとしたことがないんだよ。」
そんなこと、あるのだろうか。
「住民って、どんな人?」
「いや、わたしなんでも知ってるってわけじゃないから。」
「秀和さんに聞きに行く?」
案外昔からお互いを知っていたから、りんの父、秀和さんとはちょくちょく対面する機会がずっとあったのだ。だから、ついこの前秀和さんを知った鳥澤が言った秀和さんの話は、これまでの発言の中で、一番スッと入ってきた。
鳥澤朝樹。中身は本当に学校でもどこでも超秀才なのだが、それを表に出すことはない。カイと真逆ということだ。鳥澤は本当に思いついたことも口に出さないから、カイと一緒でプラマイゼロという場面もある。
「いや、別に良いよ、お父さん話長いし。」
「ま、住んでる人がどうとか言ったところで、結局行きたいところは変わんないんじゃない?大地の中身なんて、覗こうとしたところで案外普通だったりするもんだよ~」
りん。本名、岡崎莉里。よくおかさきじゃなくておかざきって言われるから、そのたんびにため息をついている。それを僕は何回見てきたことか。りんはかなり頭の中がとんちんかんで、あまり物事の内容を考えようとしない。しかしそれによって苦しい物事を脳天気で乗り切ったりする。こっちもプラマイゼロ。……人って、そういうものか。
「そういえば、島に行ってなにをまとめるんだ?」
我に返ったように目を見開いて、カイは喋りだす。
「その島の地層とか?」
鳥澤が急に地層なんて言ってきたから、三回は瞬きしてしまった。
「軟。メモ。」
りんが小さい声で言う。
僕はそこらへんにあった金曜日の宿題をやっていた茶色のノートと鉛筆をを引っ張り出して、新しいページを開く。島の地層…っと。あれ、宿題……。
「そういえばみんな。夏休みの他の宿題はどうするの?」
「えっとー僕は七月の予定全部シャットダウンできるから大丈夫だよ。」
鳥澤にはいらない心配だったか。
「七月に終わらせないとな……」
カイは自信なさげに言うが、カイも別にいっか。
「っていうか、七月に終わらせなきゃいけないの?」
「どうせなら八月全部使おうよ~」
りんの言葉により、結構重要なことを、三人は自分の頭の中で勝手に決定していたように見えた。
「って軟、終わんなかったら島の方でやればいいじゃん。」
あそっか、りん。別に終わんなくても平気なのか。じゃぁ、絶対に宿題忘れないようにしないと。
「じゃぁ、まとめたいもの続き~」
カイが急に仕切り始めた。僕もなんとなく鉛筆を手に持つ。
「まぁ、典型的な日記とかはどう?」
僕はどう?って質問しておいて返事を待たずに、自分の意見を紙に書いていく。
「まっ島に着いてからでいいっしょ。」
「そうだな。」
この話題もまぁまぁ早い段階で切り替えられた。
「っていうか、なに持ってけばいいんだ?」
そうだ。一ヶ月も帰ってこられないんだから、忘れ物なんてしたら大変だ。
ていうか、今まで無視してきたが、そもそも家の事情は平気なのだろうか。
「ねぇねぇ、家の事情は大丈夫なの?」
「あっそういえば……」
「大丈夫だよ。軟たちの家にはもう許可とってあるから。」
りん、珍しく用意周到すぎる。
そんなこんなで、色々あって、その八月を、皆で迎えたのだった。
莉里、なんでそんな島知ってるんでしょうね?
ていうか、そんなあっさりみんな受け入れるのか.....
だいぶ軽い人たちですね笑