29.質問
お読みいただきありがとうございます。
「いつからここで暮らしてるんですか?」
この場所にある部屋の数は限られている。だからカッコウは俺の部屋にやられたという。いや、もっと広い部屋に行ってくれたほうが良い気がするのだが...。
ただカッコウは部屋の狭さを気にすることもなく、さっきから俺にベッドの上で質問をバンバンぶつけてくる。
「まだ全然経ってないよ」
そう、慣れたとはいえまだ全然時間が経っていないのだ、具体的にいえば一週間ちょっとくらい...こいつのすべての質問に答えられるという保証はない。ただこの次に飛んできた質問には比較的完全に近い答え方ができたと思う。
「遺産相続の問題とか、そういうのないんですか?」
いや、だからまだここに来て全然経ってない...しかし、遺産という言葉には、もちろん少し心当たりがあった。
「あるよ。」
ここのリーダーである飯尾さんの父、飯尾明訓さんの遺言、『変わらぬものの頭、祭り年の差ずつ後へ』。そしてその『祭り』がこの生活の中では行われていること...。
全部伝えるとカッコウはもちろんぽかんとしていた。俺が遺言のことを聞いたときもこんな感じだったのだろうか。
「よくわかりませんね。」
そりゃそうだ。これだけ聞いてわかったら誰かから答えを教えてもらったのと同じようなものだ。ただ、何かしらの答えはあるはずだ。...いや、明訓さんと直接話したことはないし、そもそも姿だって見たことがないから、全く信頼を寄せているわけでもないのだが、遺言書にのせるというくらいなら意味があってのせているのだろう。
「で、これで何かわかっていることがあるんですか?」
まさか、こいつは遺産目当てなのか?
そんな事を彷彿とさせるような言動が続くので確かに疑ってしまったが、別に遺産目当てだったとしても俺が困ることは特にないし、もし遺産を埋めたとかじゃなくて『遺産相続』の問題なら、赤の他人である俺達が関わって良い話ではないのだ。それにこいつは単純に遺言が気になる、それだけなのだと思う。
明訓さんの日記を見てわかった、祭りの頻度が変に少ないこと、実際はそれしかわかっていない。だからこれに関する説明はすぐに終わったし、どこかこいつも物足りなそうな顔をしていた。
だからといってそれに対してなにか言うのは変に理不尽だと思うので感情を押し殺して笑顔を作る。
「じゃあ、ここで生活してる人の名前とかって、わかりますか?」
さっきからこんな風に唐突に話題を転換してくる。本当に聞く目的などあるのだろうか。いや、唐突に変えるからこそ、どこか意図的にやっているように感じる。
俺はここへ来たときに確認したこの場所の間取図のメモをカッコウに渡した。少しなぐり書きではあるものの、ちゃんと読めるくらいの文字なので問題ないだろう。
「ごめんなさい、ちょっとこれ写すので待っててください...」
そう言うとカッコウはベッドから降りて、どこからかカバンを持ってきた。...こいつ、どこから入って来たんだ?
その疑問を直接ぶつけると、カッコウは語尾をうやむやにしながらもこんな返答をした。
「気づいたら...いたんです...。」
いや、気づいたらいたんならなんでカバンなんて持ってこれたんだよ!といいそうになった、実際「いや」まで出ていただろう。
しかしこれ以上聞いたって多分同じような返答をしてくるな。なにか理由でもあるのだろうか?
カバンから小さいメモ帳を取り出す。青い表紙の手のひらサイズのメモ帳だ。黒いリングが上に連なっている。少しページをめくって俺のメモを写す。
あまり情報量が多かったわけでもないので、すぐに書き終わったらしい。やがて「ふうっ」と落ち着いたように息を吐いたカッコウはメモ帳をパタンと閉じて、「ありがとうございました」と俺のメモを差し出した。寝起きなのですぐには気づいていなかったが、結構礼儀正しいんだな。もっと軽く接してくれていいのに。
実際、そんなに年齢に差があるわけではないのだと思う。本当に同級生と言われても違和感がないくらいだ。ただ偽名にしか聞こえない『カッコウ』という名前のせいで、どこか距離を感じる。こういうよくわからない名前を名乗られると俺は、過去になにかあったんじゃないかと勝手に想像してしまう。ただ、カッコウ...?もっとなんか派手な名前というか、サメとかウマとか、そういう名前ならもっと想像が膨らんだと思うのだが...
本名かどうかわからないというのはやはりあの『サイさんとダンさん』を彷彿とさせる。
いや、もしかしたら本名なのかもしれない...
カッコウ...カッコウ.......




