28.記憶
お読みいただきありがとうございます。
...鍵が、かけられていた。
海底にあったあの洞窟、進んでいくと扉があった。もしかしたらこの奥にカイたちが...?と三人で緊張していたのがアホらしい。しっかりと鍵がかけられていて、しかも結構丈夫に見えるもので、セキュリティが確保されていた。
結局その後は何も有力な手がかりを得ることができなかった。ただ、『その場所』へ行く手がかりは確かに得られたはずだ。あの扉を力付くで壊せば、すべてが解決するのかもしれないが、もっと堅実な方法を試したい。三人とも見つかって、出ていけなくなったら元も子もないのだから。
「ほんとにいるのかねー。」
八月十三日、朝。ちょっと前は「絶対にいる...」と本気になっていた側巻さんも少し不安を抱き始めたようだ。相変わらず桐間さんと側巻さんのしていることは同じなようで、いつしか僕もそれに加わるようになっていた。
...さっき、海底にあった洞窟のことは二人に話した。やはり驚いた表情を浮かべ、唐突に側巻さんが「行ってみよう」と立ち上がり、ここを飛び出しそうになったが、「不用心すぎるよ」と桐間さんがそれを止めた。意外にもはやく我を取り戻した側巻さんは再び座っていた椅子に座り、はあっと大きなため息を付く。
「なにか解決策が見つかるまでは、できるのはこれだけなのかな。」
パソコンの画面を指差す。これというのは監視作業のことだろう。
「そこにいるっていう保証も、見つけないとね」
桐間さんが言うが、希望はあまりないようだった。そうだ。あの奥に人がいるなどという根拠はどこにもない。
「ほんとにいるのかねー...」
二度同じことを発したが、二度目のほうが自信なさげだった。
「今この場所にいないなら...別の時間軸にいるとか言うんじゃないだろうね」
「って、まだあれ信じてるの?」
桐間さんが妙に非現実的なことを言う。別の時間軸...?
「あれ、ってなんですか?」
「ああ」と桐間さんが思いついたように僕に話し始める。
「杉近から聞いたんだけどね。この島にいると特殊能力が扱える。島を出ていったら、なにか特定のことをすれば、後からこの島にいた全員の記憶をすり替えられるっていう...。いわゆる都市伝説だね。」
「なわけないじゃんね、そもそも『なにか特定のこと』ってなんなのさ。」
「ね」と、言い出した桐間さんもそれに賛成した。こういう事実が曖昧なことはただの噂話で、デタラメであることが多い。
ただ、もしそうだったらどうだろう?この島では特殊能力が扱える。それは確かにこの島が普通の島ではないことを象徴していると思う。実際今日に至るまで、不可解なことが多すぎたのだ。では、もし仮に爆破予告がインテリトスグループの仕業でなかったとしたら...?別の時間軸にいた誰かの仕業かもしれない。
―もしかしたら、未来の僕の仕業かもしれない。
不思議なことだ。ただこう考えてしまうともうここにいる人々を誰一人信じることができなくなってしまう。そして、問題を解決することはほぼ不可能になると思う。
ミステリー小説なら、こういうのは本当にただのデタラメで、現実的な仮説で、想像力の範疇で解決できることが多い。ただし今回に限っては、今回が特別な場合なんだ、と考えてしまう。
だから僕は想像から抜け出す方法を見つけることができなくなり、いつしか具合も悪くないのにうずくまっていた。突然我に返って顔を上げたが、桐間さんと側巻さんは気づいていないようだった。また同じ作業に戻っている。
あんまりカイにメールを送ると鬱陶しいと思われるかもしれない。それでメールを確認しなくなったら困るし、用もないから送る必要もない。
ただ、秀和さんについては話は別だ。もっといろいろな情報を手に入れたいし、第一カイと秀和さんが一緒にいる可能性だって百パーセントではないのだ。しかし秀和さんのメールアドレスは知らないので送ることはできない。りんにまたやってもらおうか。いや、りんからメールアドレスを聞いて僕が送るという初歩的な方法だってある。
...島の散策は全部は終わっていなかったはずだ。中心のほうがちょっとだけ残っている。だからりんと鳥澤はそれの最中だろうか。だとしたら今ホテルに駆け込んでりんを求めても意味がない。夜にしようか。多分、今日頑張ってくれればすべて終わるだろう。
「あ!」
突然、桐間さんが声を上げた。なにか見つかったのだろうか?側巻さんは桐間さんに駆け寄り、デスクトップパソコンを覗く。
「誰だろうこれ。」
僕も見るが、正直な感想は「なんだ...」だ。
「これ、鳥澤たちです」
やっぱり、捜しに出ていたようだ。二人は「なんだ...」と僕の心の内を代弁してくれたような言葉を発する。...この方法だと、上手く行かなそうだ。
なんだ...。




