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いつわり郷  作者: 融点
発見と少年
27/65

27.カッコウ

お読みいただきありがとうございます。

 そういえば、サイさんとダンさんとはあまり話していない。さっき昼ご飯を食べて、部屋でぼーっとしている。...やっぱり、一度気にしだしたらどうしても狭いと感じてしまう。

 あの二人の部屋はリビングの近くにある。別にそこに行く理由もないし、サイさんやダンさんと話す必要もないから、悩んでもいないが何となく気になってしまう。確かに日本人、に見えるのだ。サイさんが女性、ダンさんが男性だから夫婦のようにも思える。だとしたらこの名前は下の方で、別に名字があるというのか?

 それだけをわざわざ聞きに行くとプライベートに触れるかもしれないし、逆に怪しまれてしまう。理由が明白でもないためなにかはっきりとした推理をされるとも思えないが、だからこそより不信感を抱かれるかもしれない。だから俺の身体全体がそれを考えることを一生懸命阻止しようとしてくる。

 うーん。気になる。確かに気になるが、何度もいうように人の生い立ちだったりにわざわざ首を突っ込んでいこうとは全く思わない。思いやりとかだけではなくて、単純に興味がないだけだ。ただ第一の目的はここから脱出すること。この生活の謎を暴きたいとかそういう訳では無いし、あくまで逃げられれば良いのだ。だから俺は遺言などに対してではなく、この島に対して興味を抱かなければならない。

 ...本当に、逃げるにはあの扉から出ていくしかないのだろうか?もしそれだけならよっぽどの賭けをしなければならない。一度見つかれば、二度と逃げられることはないかもしれない。

 もし、他に逃げる方法があるなら、意外と近いところに見つかるのかもしれない。あの扉しかない、それはただの仮説であって、先入観でしかない。すると疑われるのはやはりこの壁だ。これを取っ払えばもしかしたら...

 考えすぎて、少し眠くなってしまった。午後一時、十五分くらい昼寝をしよう。俺はベッドに寝っ転がり、背中を丸めた。

 これだけ眠くても、というくらい眠いわけではない。ただ、俺は眠いだけですぐに眠れる人間ではない。ただ、確かな疲れがありはやく眠れと誰かが警告している気がしてくる。

 そんな事を考えていると、意外にも気づかぬうちに脳はシャットダウンされていた。


 目を覚ますと、いつの間にか三十分くらい経っていた。結構スッキリしたし、起きようとは思うのだが、することがなくてどこかつまらない。

 とりあえず身を起こす。そういえば俺の場合、寝起きはなぜか妙に時間が経つのが遅い。これって周りからみたら特殊なのだろうか?別にどちらだっていい、そういうのは気にしないとかそういうわけでもなく、単なる笑い話で済ませておきたい。

 身を起こしてみても、目を開くのには数秒かかる。突然の明るい視界は目に負担を与えるからだ。とりあえずボーっと目をつぶっていたが、それで眠くなることはない。どちらかといえばはやく動き出せと体が言っている気がする。

 そんな事を考えていたら、目より先行して脳が覚醒していた。...いや、神経的?な目ではなくて、もっと肉体的な目って感じだ。そんな脳がより目を開けろと急かすから、いつの間にかこの明るさに慣れた目は自然に開いた。

 ...ん?今なにか物音がした気が...。俺はその事が脳に伝達する前に、自然に振り返ってしまっていた。

 ...子供が、いた。

「え、誰!?」 

 普段はあまり出すことはないだろう。この生活に慣れてしまっていたので小さな声で、ただそれでも驚いたことは十分伝わったはずだ。いや、子どもといえば俺だって十分な子供、ただ俺よりは結構小さな...小三、くらいだろうか?いつしか俺は小学生のことを、年齢よりも学年で表現するようになっていた。

 その子は怯えている様子もなく、こっちをじっと見つめていた。ただ俺の誰?という問いに関しては真剣に捉えたらしく、

「...カッコウです」

 少しためて答えた。

 カッコウ...?

 カッコウってあの鳥のカッコウだろうか?...正直、本名だとは思えない。

「いや、それって本...」

 名まで言おうとしてしまったが、言う寸前でぐっと飲み込んだ。さっきも言った通り、わざわざ疑って聞き直したりするとかえって疑われてしまう。

 ただ、こんな子この場所にいただろうか...?一週間以上過ごしていればわかる。絶対にいなかった。一週間という短い期間でも、大体のことはわかるものだ。

「ここって何人くらいがすんでるんですか?」

 え、急に何を...

「ここで生活させてほしいんです。リーダーはどこですか?ちょっと僕行ってきますね!」

「え?え!?」

 何も答えていないが、その子、カッコウ...は部屋から飛び出ていってしまった。あまりじっくりは見ていなかったものの、普通のどこにでもいそうな服を来ていた。そしてどこにでもいそうって感じのオーラがある。

 この場所は意外と広いから、部屋を出ていったらすぐに音が聞こえなくなってしまった。なんだったんだ...?

 寝起きだから、もしかして幻覚?もしくは夢...?幻覚でここまではっきり見えることってあるのだろうか。実際に経験したことがないのでわからない。何となく頬をひっぱたいてみる。いや、こういうときはつねるのがオーソドックスなのか...?

 どっちみち、痛みを感じた。現実だろう。

 いや、現実...。

 現実だ。多分現実だ。一つだけ言えるのは、何度も言うが『寝起きだから』意外と簡単にこの事を受け入れられた。もし脳がもっと活性化されているような時だったら絶対に受け入れられなかっただろう。まず始めに「何だお前!」という確かな暴言から入ったと思う。


 そして時間が経つと、またカッコウが部屋に入ってきて、「これからよろしくお願いします」と軽く頭を下げた。

 未だにぼーっとしている俺は、それにつられて大きくお辞儀をしてしまった。

 どっちみち、俺がここへ来たときもこんな感情を、飯尾さんたちは抱いていたのだろう。

「カッコウ!」

 ...はい、違和感ありますね。

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