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いつわり郷  作者: 融点
隠し戸と絵画
23/65

23.飯尾

お読みいただきありがとうございます。

 ノックというのは二回だとトイレノックとなるらしい。あと目上の人に対してのノックは四回というのが正しいらしいが、日本では三回が一般的らしい。

 コンコンと、中指で飯尾さんのドアを叩く。特に返答はなかったが、足音がこっちへ近づいてくるのを感じた。

「どうした?」

 ドアが開き、狭くはない隙間から飯尾さんの目がギラリと光るようだった。

「ちょっと聞きたいことがあって...」

「そうか。とりあえず入れ」

 飯尾さんに言われるがまま、俺は中に入る。

 第一印象は、『普通の部屋だな』だ。

 リーダーとはいえ、学校のように大勢をまとめているわけではない。リーダーとはいえ生活する上での長なのだから、普通に誰もが暮らしていそうな一室だった。俺は飯尾さんが座った数秒後に、そこにあった座布団に膝を付けた。この威圧感の前で足を崩すのは、俺には無理なようだ。

「祭りのことです。今田さんから、数年に一度やってるって聞いたんですけど、今まででいつやってなのかなって思ったんですけど...。」

 これ以上簡潔な説明があるだろうか?かなりかいつまんで話したが、しっかり飯尾さんには伝わったようだった。

「もしかしてお前、遺産目当てか?」

 唐突にそんな事を言われ、心臓の音がその部屋中に響き渡った気がした。

「いえ...そんなことないですけど...気になったんです」

 これだけ緊張していたら語彙もこれだけなくなるのだろう。『気になった』が意味するものは、多分いくらでもある。その中からただ一つの意味を見出すのは至難の業だと思う。飯尾さんも若干不思議な顔をしたが、飯尾さんは少しだけ笑みを浮かべ、立ち上がって壁の押入れの方へ寄った。

 笑みと言っても、しっかり笑っているわけではない。少ししわの寄った顔、口角が上がるとすぐに笑っていることがわかる。それが特徴的で、『笑顔が目立つ』と表現しただけだ。

それを開けると色々と...色々整理されていて、プラスチック製の、小さめの箱を取り出した。棚の中に関しては俺から見れば死角だったから、どこから取り出したかは見えなかった。箱を開けると、そこには緑色のファイルが...

「ここの生活の日記だよ」

 ファイルの中はかなり分厚くなっており、よく見るとルーズリーフに、四日くらいで一枚分で毎日の記録が記されていた。

「俺の明訓っていうじいちゃんが、前まで日記を書いてたんだよ。数年前、いやもう十年以上かもしれない。もう死んじまったが、それまでの記録ならここにある。全部かは知らねえがな。多分その『祭り』のことも書いてあるだろう。今日の間貸してやっから、明日になったらすぐに返せよ。」

 そんなもの、俺に見せて良いのだろうか...?ただとにかく、これを貸してもらえるのは大きい。借りておこう。

「ていうか、違和感あるだろ、もう俺が五十過ぎてるってのに、じいちゃんが死んだのは数年前だ、じいちゃんも結構長生きしたんだな。」

 祖父のことを『じいちゃん』と表現する飯尾さんに、どこか柔らかさが感じられた。憶測でしかないが。

 ありがとうございますと感謝を伝えて、部屋を飛び出た。いや、飛び出たと言っても流石に走って出ていったわけではない。なぜか?飯尾さんが怖いからだ。害を与えられることはないだろう、と思っていても、威圧感というのはなかなかなくならないものなのだから...。

 少し歩いて、部屋に入ると、体が暑いと思うほどの安心感があった。扉に背中をぶつけて、フウっと言いながら背中を下に引きづる。やがて座っている姿勢になり、飯尾さんからもらった日記を眺めた。

 この緑色のファイルの表紙には大きく『日記』と記されている。その下には名前の『飯尾明訓』と。マジックだが、達筆だ。

 中も同じような字体、すべて明訓さんが書いたんだろう。白紙の紙が縦方向に四等分され、一つ一つのマスに細かく記録が記されていた...。

 ...そういえば、なんだかこの部屋、さっきの飯尾さんの部屋よりも狭い気がする。それも半分くらいの大きさしかない。なんでだ...?いや、飯尾さんはリーダーだ。ちょっと部屋が広くても何ら不思議ではない。

 ただここまで...?第一、部屋の作りが違う気がするのだ。

 俺は壁に手を当てた。なんだか、最近新しく作られたような感触がする。そしてこの部屋にあるベッドは壁に触れていた。だから、どかしたらなにか出てくるんじゃないか...?マットレスをどかしてみたが...何もなかった。

 この壁にはなにもない。そう感じた。しかし、なんだかこの壁、ベニヤ板くらい薄い気がする。けったら壊れるんじゃないだろうか...俺は一瞬本気でけろうと構えてしまったが、流石にやめておいた。あくまで借りた部屋なのだから。

 ただやっぱり違和感がある。この壁がなければ、部屋はもっと広いと思うのに。...そう、この壁の向こうには『空間』がある気がする。ただ、俺の部屋は奥から二番目にある、極めて微妙な位置の部屋だ。ここにだけそういう倉庫とかを作るとは考え難い。

 ...では、他の部屋ではどうだろうか?これは見に行ってみたほうが良い気がする。

飯尾さん、怖い人じゃないんですよ。

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