19.不安
お読みいただきありがとうございます。
意外と一部分からでも、全体の形状が推測できたりする。もちろん、丸っぽいアイスのカップのような物体の一部分が見えれば、アイスのカップとすぐわかるので丸っぽいと考えることができる。今回の場合はこのような形状以外の要素は存在しない。でも、例えば一部分がまっすぐしていたら、それは四角形なんじゃないかとなんとなく推測できる、それがあっているかどうかは別として。
―この島、長方形みたいな形だよね。
それが、りんが「この島変な形してるよね。」のあとに続けた言葉だ。その言葉の通り地図では長方形のような形をしていた。『のような』とつけるのは、もちろんこの島も自然の恵みであって、完全な長方形ではないはずだからだ。
全体の形は文明の利器を用いることで一瞬にしてわかった。ただ、さっきも言った通り島の中の情報が完全に削除されていた。だから、壁の分布の仕方がわからなくなってしまったのだ。ホテルに帰ってきた時それをりんに言って、そのあとにやっぱり測量を続けたほうがいいかと言ったのだが、
「でもこの前地図で見た時、壁は島の形に沿ってたし、正確な形知る必要はないと思うよ」
だそうだ。正直僕もそれに賛同する。捜す方に集中しよう。
そういう会話をしてから数十分たち、現在は午後五時。三時間前くらいに、引き返そうと考えていた時刻だ。ちょっと前に軟も帰ってきた。りんが何してたのと聞くと、軟は、
「僕もカイたちのこと捜してたんだ」
という。言い訳としては上出来だと思うが、多分誰でも同じ状況に置かれたらそう言うだろう。だって、僕たちにとってそれ以外大してすることがない島なのだから。
大してすることがない島。つまらないわけではないが、それはつまり今この時もすることがないことを示している。軟はスマホで何やら文字を打っているように見えるが、りんは布団の上でぐったりしている。ちなみに、軟ははじめ別の部屋だったものの、それだと一人になってしまうので、カイたちがどこかへ行ってしまってから軟は僕たちと同じ部屋で生活している。一見のんびりとしているように見えるが、実態は真逆だ。毎日皆が不安に襲われていることだろう。
「どうする...?」
この沈黙に対していよいよしびれを切らしたのか、軟はこの言葉を発した。ただ結局、どうすると言われても...と思ってしまう。なにかできることを、と考えるときは、今起こっている問題の本質的な意味を見つけ出さなければ、空回りしてしまう。
僕は仕方がなく、もう開いているカーテンを手でどかして窓の外を眺めた。この大地の何処かに、カイが、秀和さんがいるのだろう...。
まだ外は明るく、電気をつけなくても平気だ。電気をつけていないため窓ガラスには部屋の様子が映し出されておらず、外の様子がしっかり見える。
「あれ?」
しっかり見えるものの、高さがあるのでそこまで鮮明には見えない。ただ確かに僕には見えた。
「みんな来て。」
と手を縦に振るが、みんなと言っても二人...そしてりんはすでに眠りに落ちていたので、反応したのは軟一人だった。
「あそこに、誰かいたんだけど...」
軟が来たときには、すでにそれはなくなっていた。でも確かに僕には、小さな人影が見えた。
「...側巻さんたちじゃない?」
軟は、僕にこの前側巻さんたちについて教えてくれた。
「あの人の部屋、あっちらへんにあるし。」
軟は、僕が凝視していた方向を指さしてそういった。そうなんだ。と納得したような相づちを打つと、軟は再びそこら辺に座り込み、文字を打ち始めた。
さっきから軟は、カイとメールでやり取りをしているように見える。
「軟、なんかカイから手がかりもらえた?」
そう聞くと、軟は当たり前のように首を横に振った。
もっと革命的な、斬新な方法。それがないときっと、真実に近づくことはできない。
...それを考えるには、とりあえず今ここにあるすべての先入観を取り除かなければならない。
せっかく部屋2つあるのに...((殴