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いつわり郷  作者: 融点
貧乏人と空の眺め
15/65

15.状況報告

お読みいただきありがとうございます。

 電話はやめろ。僕はカイにメールでそう言われたので、しっかりメールでカイに、今の状況を報告することを求めた。現在午後1時。僕は『マネオン・パラスカナイス島保全委員会』の事務所にいた。なんとなく長いから、これからは保全委員会と略すことにしよう。

『本文:

 カイ、そっちの生活にも慣れてきた?あいや、できるだけ早く帰ってきてね、ほんとに心配してるから!

 そういえば、そっちにどんな人がいるの?いや、ちょっと気になって...。人数とか、どんな格好とか、そういうの教えてほしいだけ。

 あと、結構しっかりしてる家みたいな感じなの?それとも洞窟みたいな感じ?

 カイも何がなんだかよくわかってないだろうけど、戻ってこれる出口みたいなのはあるの?戻ってこれるっていうか...逃げられるというか...。

 質問ばっかりになっちゃってごめんだけど、とにかく、僕たちもできることはするつもりだから。それまで頑張って!』

 こんな感じ(どんな感じ)の文章を送っておけばカイの逆鱗に触れずに済むだろう。とはいいつつ、本気で心配している。りんも鳥澤も、お昼を食べたらカイを探しにどこかへ行ってしまったのだ。まあ殺風景なこの場所だから、どこへ行ったかわからなくなることはないだろうが...いや、そういう問題ではないか。

「絶対そうだ...インテリトスがいる...」

 隣りに座っていた側巻さんはそうぶつぶつ呟やいている。なんか、ずっとこんな調子だ。

「何してるんですか?」

 側巻さんが触っているデスクトップパソコンの画面にはいくつかのカメラ映像が映し出されていた。

「ん?あー、島のそこら中に小型カメラを置いて、朝からずっと眺めてるんだ。あいつらが地下で生活してるんなら少しは陽の光を浴びに来るかもしれない。なんなら地上に上がってくるかも」

 あー。そんな感じのことを言って、それに重ねて納得したということを伝えると、また側巻さんは黙り込んでしまった。

 向かい側に桐間さんも座っていたが、していることは側巻さんと同じだろう。

 そんな光景を見ていて、今僕にできることは3つしかない。

 一、カイからの返信をひたすら待つ。

 二、さらにカイにメールでひたすら追い打ちをかける。

 三、側巻さんのパソコンの画面をひたすら眺める。

 ...ひたすらでしか行動できない自分が悔しい。

 そんな事を思いながら10分くらい待っていたら、意外とすぐに返信が来た。

 ...そこには、一緒に過ごしている7人の人物についてのことが事細かく綴られていた。茶色い服装、建物は木造、逃げられる扉はあるにはあるが、それを出てもどうやって帰ればいいかわからない、だそうだ。

『あと、秀和さんのこと忘れるなよ。ここにはいないかもしれないからお前も探せよ。こんな言い方するとあれだけど、秀和さんがいないと帰れないし、こっちも本気で心配してんだからな。』

 「こんな言い方するとあれだけど」という言葉には、なんとなくカイの人間らしさが伺えた。意外と優しいところもあるのだ。

 返信されてきたメールの画面を側巻さんに見せると、こんな事を言われた。

「これだけの量を10分くらいで返してきたんなら、たぶん天安から送られてきた時すぐに気づいたんだろうね。こんなに打つんなら短くても8分はかかるでしょ。...ま、私基準だけど。」

「たしかにそうだね」

 桐間さんも、それに同意した。

「もしかしたら労働とかもなくて、ご飯食べる以外にやることがないのかもしれない。よっぽどつまんないんだろうね。」

 つまんない...か...。

「天安、夕方になったら、もう一回メール送ってみてくれる?」

 本当につまんないかの実験ということだろう。

「わかりました。」

 そういえば外が騒がしくなくなったな、そう思って扉を少し開けてみた(外に誰かいたときにバレないためだ、のぞき穴とかをつけると違和感あるからつけたくないらしい)。空は晴れ渡っていて、さっきまでの曇天が嘘のようだ。

 ...さっきも言った気がするが、この空のこともカイは知らないのだろう。なんだろう、少しだけ、寂しい気がする。

 いや、もしかしたら知っているのかもしれない。地下からでも空は見えるかもしれないし。...もしかしたら、空を見なくても、どんな天気か、どんな空か、どんな世界かが目に見えてわかるのかもしれない。そんな特殊能力はカイは持っていないだろうが、何となくそう思うだけだ。

 もう一度空を見上げる。僅かな隙間だがしっかりと見えた。ウルトラマリンのような少しくらい青も、どこか爽快さを感じさせる。そんな空が、僕は大好きだ。

 これが夜になれば、また月が顔を出すのだろう。あの夜は朧気な月を見ることができなかった。でも、朧気でなくても、月の眺めはいつでも人を癒やすのだと、信じている。そしてその事を、この島に来てからしばらく忘れてしまっていた気がした。

 ―きれいだ。

ウルトラマリンというのはいわゆる群青色のことで、油絵では白いものの影に使われたりします。

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