13.貧乏人
お読みいただきありがとうございます。
「君は、誰だ...?」
始めてこの部屋に立ち入った時、俺は当然ながらこう言われた。俺も人がいたことに動揺が隠せなかったので挙動不審になり、そこにいた誰もがこっちを見ていた。しかし、自分の勝手な想像だがなんとなく反応がオーバーすぎる気がする。ある人は顔を震わせているし、ある人は椅子から転げ落ちてしまった。まるで演技のように...
ポケットにはいっていた鍵を扉の右側の方の鍵穴にさした。そのまま手首を回すと、思った通りガチャッという音がした。
扉は開き、その目の前には何人もの人が待ち構えていた。縄文人を彷彿とさせるような服装を見て、思わず後ずさろうとした俺を、誰かが止めた。
「待て、逃げるな。こっちに来い」
「捕まえてどうするんです、飯田さん」
「変なことを外に言われても困る、泳がせるのは危険だ」
怖っ!この人50歳くらいだろうか?まっすぐこっちに目を向けられているせいで微塵も動けなくなる。
とりあえず、言われた通りそこにあった椅子に座ると、
「どっからなんでこの島に来た?」
「東京の小学校の宿題で……」
後ろにいる全員が黙り込んで、こっちを凝視していた。
「名前は?」
「菱本海斗です」
気づくと、ものすごく安々と質問に答えていた。ここにいる人達の威圧感が、明らかな恐怖と化していたのだ。
「そうか...」
多分まずい奴ではない、そんな事を思ったのだろう。どこか安堵した様子だった。
そこにいた全員が黙り込んで数秒経つと、唐突にこんな事を言われた。
「お前にはいくつか選択肢がある。一、こっから地上に帰る。二、この島から立ち去る。三、ここで一緒に生活する。さあ、どれにする?」
その人の目は、俺を逃がそうとはしていなかった。逃げられて、口外して、何かやましいことでもあるのだろうか?
「なあに、痛いことはしないさ。ただ俺らにも都合ってもんがあっからよ。そこははっきりしてもらわなきゃ困るって話さ」
...もはや、選択する余地はなかった。口ではこんな事を言っていながらも、俺にはそうは見えない。
「三です。」
きっぱりと、はっきりと言った。俺は冷静さを取り戻した。さっきまでの挙動不審な言動とは打って変わった声に、その人は少し驚いているようだった。とはいいつつ、その人は安堵に重ねてどこか喜びの顔を見せた。
「そうかそうか!それならこれからこいつは仲間だ!覚えとけよみんな、菱本海斗だ」
そこにいた人全員が盛り上がり、笑顔を見せた。
「じゃあミュウ、部屋、案内しろ」
はい、そう声をあげたその人は、俺に向かって手を振った。雰囲気でついていく俺は、部屋を飛び出し、廊下を歩き始めた。
そのミュウって人は、俺にいろいろ教えてくれた...のだが、確かに思ったのが、この人、全然喋らない。というか、必要最低限のことしか発しない。大学生のようにも見えるこの人と俺の間に、確かな沈黙が流れた。しかし、別に俺は沈黙に気まずさを感じるような人ではないから、別にどうだってよかった...
「何人でここに来たの?」
そう思っていたら、突然話しかけられた。驚いた俺はどう答えたらいいか一瞬わからなかったが、
「えっと、5人です、5人」
そう答え、改めて間違っていないか頭の中で整理した。
「そっか、船乗ってきたんだよね。どんぐらいかかったの?」
「多分12時間くらい...て、なんで船乗ってきたって知ってるんですか」
突然言い当てられた、から、普通に問い返した。え?なんで知ってるんだ?
「...あぁ、こんな島まで来るなんて、多分船にでも乗ってきたんだろうなぁ...って思っただけだよ。」
明らかに様子がおかしいのは初見でもわかる。が、こういう人なのだろうと、無理やり納得した。
「そう、なんですか...」
「僕は秋元 実優、ミュウはニックネームとかじゃなくて、こういう読み方なんだ、珍しいでしょ。あと...今は25才だね。君は?」
「えっと...小6ですね。周りからはカイって呼ばれてます。皆カイって呼ぶから本名で呼ばれることのほうが少ないくらい...」
苦笑いをしながらそう答えた。するとミュウさん、は「そうなんだ」と笑いながら、また黙り込んでしまった。何度もいうが、俺はあまり気まずさを感じない人なので、どちらかというとこっちのほうが良かった気がする。
やがて俺は、この洞窟のような場所が意外としっかりした家のようなものだったことを知った。リビング、浴槽、普通の家にあるものが何から何まで用意されている。
そのあと、君の部屋はここだよ、そう言われ、悪い言い方をすればその部屋に放り込まれた。本当に普通の部屋で、ベッド、それだけがぽんと置かれていた。
荷物はザンゲツに置いてきたまま...だったが、偶然スマホひとつはポケットに入ったままだった。だから、今できることは軟たちと連絡を取ることくらいだ。電話をすると誰かに盗み聞きされるかもしれない。だからメールにしておこう。
と、思っていたら軟から電話がかかってきてしまったのだった。
「軟!」
声を出したくないから電話をしてほしくなかった。だから大声を出した。明らかに自分で矛盾してしまったが、大して気にしなかった。
「カイ?無事?」
「んなわけないだろ...」
落ち着いた声で返した。すると、軟はこう言った。
「カイ、誰かいるの?」
壁が薄いから、部屋の外で何やら声が聞こえてくる。それを聞いて軟はそう思ったのだろう。
「あぁ、ちょっとここに住み着いてる人たちがいたんだ。運良く海に落ちずに済んで、人を探してたら見つけたんだが…どうかしたか?」
あまりびっくりして大声を出してほしくないので、こういう口調で返した。そして、ずっといたらしいりんの口から、こんな当たり前の言葉が放たれた。
「お父さんは?」
「あぁ…」
そう、気まずそうな雰囲気を醸し出していることに、すぐさま気がついた。
「目覚ましたら、いなくなっててな…」
多分、向こうにいる全員が、心配そうな顔をしているのだろう。
「とりあえず、探してみるから。」
事態の深刻さに、俺は今更気がついたようだった。
リーダーは飯田さん...っていうらしいですね。
不思議な雰囲気を醸し出すミュウ、一体この人たちは何者なのか...?