11.爆弾魔
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「もしもし、もしもし!」
あれから数時間経って、カイのカバンの中を漁ってみた(バレなければ平気だろう)。
一つ気づいたのは、カイがスマートフォンをカバンに入れていなかったことだ。なら、場合によっては電話もつながる…。そう期待して、何回か電話を掛けていた。
「軟!」
突然の大声に驚いたが、重ねて電話がつながったことにもびっくりする。
「カイ?無事?」
そう聞いたら、んなわけないだろと落ち着いた声で言われたので、なんとなくほっとした。
…と、そんな話をしていたら、電話の向こうで何やらざわざわしているのが聞こえた。
「カイ、誰かいるの?」
「あぁ、ちょっとここに住み着いてる人たちがいたんだ。運良く海に落ちずに済んで、人を探してたら見つけたんだが…どうかしたか?」
いや、人がいたらまぁまぁ驚かないだろうか。…あれ、でも秀和さんたしか…ん?秀和さんはどうなったんだ?
「お父さんは?」
隣りにいたりんが僕より先に言った。
「あぁ…」
そう、気まずそうな雰囲気でカイは言う。
「目覚ましたら、いなくなっててな…」
全員が心配そうな顔をした。無事かどうかわからないなんて…
「とりあえず、探してみるから。」
カイがそう言い放って、この電話は終わりを迎えた。
りんは秀和さんにも電話をつなごうとしていた。こんなことになるなんて思ってもいなかったのに…
―それから、一週間が経過した。
八月十日。雨。かなり勢いが強い。朝から空が暗く、どんよりしている。
協力してほしい。そう言われた日から、僕は毎日あの部屋に顔を見せるようになった。
―この島には、爆弾魔と疑われる集団がいるという。俗に「インテリトスグループ」と呼ばれ、ラテン語で破壊を意味する。
杉近さん曰く、この島はかつて人が栄えていたという。自然も豊かで、暮らしやすい島、というのが一部の界隈では話題になっていた。住宅や店が並び、生活に困ることはまずなかった。
しかし、その日は突如訪れた。今で言うテロリストが現れたのだ。それがインテリトスグループ。自然を破壊しようと海にプラスチックごみを大量に投入したり、森林に火をつけて消失させたり、目的がわからないままテロ活動は進んだ。
当然、人は住めなくなり、体調不良者が続出。人口は減り続けた。ある年、とうとう無人島になったと言う情報が世に出回る。今までの穏やかなイメージとはかけ離れた島になってしまったのだ。
なのにある時、ある漁船に乗っていた人たちがこんな事を言いだした。
「あの島にはまだ人がいる」
乗っていた人曰く、森林の何処かで煙のようなものが上がっていたという。細長いその一本の線は、人の存在を連想させた。
それはもしかしたらインテリトスの仕業じゃないか、島を占拠したくてテロ活動をしたのではないかという噂があっという間に広まったのだった。
そんな中、それを聞きつけた杉近さんは、友人である桐間さんともう一回この島に帰ってきたのだった。周りの協力も得ながら、もしかしたらここで暮らしていた人たちが帰ってくるかもしれないと期待しながら、このホテル『ザンゲツ』の経営を二人で始めた。
ある日、期待通り一人の住人が帰ってきた。 それが側巻さんである。ホテルで暮らすうちに、側巻さんは杉近さんたちと仲良くなっていった。それもそのはずだ。人がいないのだから。そして杉近さんは側巻さんに、この島にいる理由を放った。
「インテリトスを追放する。」
側巻さんは驚きが隠せなかったという。ただこんなにも信頼関係が築き上げられていたので、側巻さんもそれに協力することにした。そして、マネオン・パラスカナイス島保全委員会が誕生したのだ。
...そして、今回カイらが連れて行かれた(のかもしれない)場所で、そのインテリトスが生活しているかもしれないと考えているのだ。しかし手伝うと言っても何をすればいいのか...?
「天安は」
考えていることがわかるかのように側巻さんはこう言った。
「とりあえず、桐間について行ってくれないかな?」
本当に、必要なのだろうか。
よくよく考えてみたら、この島に来たときの崖は、島をぐるっと囲んでいるわけではなかったのだ。だって地層を見に行ったときそんなものはなかったから。じゃあ入口なんてつくらなくても良かったんじゃないかな...?
と、思ったことを隣りにいる桐間さんに話すと、
「ハハハ、たしかにそうだね。」
と笑ってくれた。
「この崖もインテリトスが人工的につくったんだ。なんでここにつけたかはよくわかんないけど。」
「そうなんですか...」
今僕は、その崖の反対側にある、カイらが落ちていった海の方にいる。その海というのはやはりかなりきれいで、かつてインテリトスが環境破壊を行っていたとは思えなかった。時間が経ったのだろう。
...雨は止む気配がなく、結構しっかりした傘をさしている。カイはきっとこの雨を知らないのだろう。
「どんなふうに落ちてったの?」
桐間さんにそう尋ねられたので、僕はそのときの状況を思い出しながら話す。
「カイがこうやって自撮り棒を持ってうつ伏せになったんです。そしたらだんだん引っ張られていって...秀和さんっていう友達のお父さんが抑えたんですけど、二人とも落ちていったんです。」
うつ伏せになりながら腕をぶらんと下の方へ下ろすような仕草をした。
「なるほどね...そのカイって、友達?」
「そうです。菱本海斗。なんでかわからないんですけど知らない間にカイが浸透したんです。」
「そっか。じゃあ菱本くん、は無事かってわかる...?」
「えっと、カイに電話してみたんですけど、つながったので無事だったはずです。ただ...秀和さんがちょっとわからなくて...」
「そっか...電話してみた?」
「はい。でも繋がりませんでした。」
すると桐間さんは、持っていたカバンの中からカメラ付きドローンを取り出した。
「下の方に飛ばせば、どうなってるか見えるはず。」
そう言いながら画面のついているコントローラーを持ち、スイッチを入れた。確かにドローンならうつ伏せになって腕をぶらさげるほど危険を伴わなくて済んだ...と思いながら、カメラのついているドローンなんて持っていないと心のなかで一刀両断した。
ブオーンという音を立てながら、ドローンは下の方へ向かっていく。雨の中でも負けないこのドローンは、かなり性能がいいのだろう。
画面には島の地層らしき映像が映し出された。茶色いのと白っぽいのがしましまに...そういえば、この島の地層は海に潜らなくてもわかるんだなぁ。
「あれ?」
桐間さんが疑問の声を上げた。どうかしたのだろうか?画面には普通に海の映像が映し出されている。...ん?
「おかしいな。なにもない...」
画面には不思議なものは映し出されていなかった。ではカイはどこに...?
インテリトスグループ、恐ろしい...