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第一WAVE 世界に轟く虫の知らせ

短編になります。10話から15話を想定しています。

本日は3話投稿し、週に1話投稿を予定しています。

ぜひ、よろしくお願いします。

 人は何をもって人たらしめているのか。 


 不平等に嘆く者は平等を見ない。


 隣で困窮しているのを目の当たりにしていても、自身に及んでいなければそれは平和と言えるのだろうか。



 人間がAIに殺されるよりも前に人間を殺すのは何か。





 2027年上半期、日本はまさしく平和だと言えよう。下半期へと移り変わり2ヶ月が終わろうとしていた。


 夏は盛り、毎年体験していても慣れることの無いジメジメとした夏の暑さ。年々猛暑日というのが塗り替えられている事実。昔はもっと涼しかったのかと言われるとそんな事は無いと思う。

 それは肉体がまだ若かったからそう感じているだけで、日本の夏はとにかく暑い。今も昔も変わらない。

 お風呂上がり、ドライヤーが終わると汗をかいていたというのも珍しくない。


 社会人はこんな時でもスーツに身を包む者が少なくない。ハンカチを額に当てて汗を拭う。湿ったハンカチを折り返してポケットにしまい込む。


 学生は明日から学校が始まる。1年を通して最も宿題に焦る者が多い日だ。親に泣きついて手伝ってもらったり。

 中には開き直って宿題を何もしてない事を自慢げに言いふらしている者もいるだろう。先生に叱られることを想像したり。

 当然、終わらせている者もいる。万全の体制で夏休み最終日を過ごそうと計画を立てたり。


 日本は今、確かに平和である。

 老若男女問わず令和で最も幸福な年とも報道されるほどにである。




 2027年8月31日午前11時02分記録的猛暑日。

 晴天。気温38°C湿度75%。


 世界の鳥という鳥が同時に羽ばたいた。日本だけに留まらず世界でだ。鶏は鳴いた。


 同時刻、神奈川県藤沢市鵠沼海岸付近の一部で地面が陥没したのを観測。

 その穴、直径およそ500mにまで及び深さは不明。


 この日、日本は天からの虐待あるいは大地からの報復を受けた。いずれも地球からの刺激には変わりない。


 これは人類が犯した罪の罰である。


 後にも先にもこの言葉が偽りの無い真実として語られている。



 陥没地域周辺の住人の速やかな避難。

 藤沢市含む周辺地域へ、外出禁止が出された。


 すぐさま政府が動き自衛隊が出動し、消防車に救急車と警察も現場へと赴くこととなった。

 陥没の範囲から免れながらも付近の建物は地盤の崩壊により倒壊が後を絶たない。



 不幸中の幸いは境川がギリギリ範囲外だったこと。これにより被害は最小限だったと言えよう。もしも境川が含まれていたらここだけの話では収集がつかなかっただろう。



 8月1日。

 神奈川県藤沢市鵠沼海岸付近で直径500mの地面が陥没し、自衛隊等が出動することとなった。




 9月1日。

 藤沢市含む周辺地域を除いて規定通り学校は始まり、会社員も通常通り通勤する。


『突如起こったこの大陥没に連続性の危険は無いとの見解です。周辺地域の方々は誘導に従い速やかな避難を心がけてください。焦る必要はありません。十分な物資が届けられております。

 誘導に従い、焦らず速やかな避難を心がけてください』


 陥没の渦中となった直径500m内の建物は奈落へと落ちた。

 衛星からの映像とそばにいた人たちからの証言で、地盤の揺れなどの前触れも一切無く落下していったことが明らかになった。もちろん、微弱な地震も観測されていない。

 これは異例の事態である。


 果たしてこれは現実に起きたことなのか、誰もが混乱し真実がわかっていない。


 決して地盤沈下などでは無い。そう断言出来るほど今回の件は自然現象から逸脱していた。


 しかし、他県は蚊帳の外。対岸の火事。

 まるで何事も無かったかのように直面した者たち以外、依然平和なままである。



 陥没範囲から考えておよそ2千人が巻き込まれた事になる。ただ、平日の昼間という事もあって外出している者も多かったため正確な数字はまだ出せていない。

 ニュースでは概算としての2千人と報道している。住宅街という事もあり、被害は甚大だ。



 9月1日。

 藤沢市周辺地域を除きいつも通りの日常が送られる。報道も続き、周辺住人の避難が行われていた。




 9月5日。

 政府協力の下、自衛隊員によって陥没地帯の周囲をバリケードで覆い隠し終わると、陥没地帯「穴」の調査が始まった。


『自衛隊、消防隊、警察が現場へ駆けつけ夜通し対応をしています』


 朝の報道番組で触れられるのはこの程度。映像は上空のヘリから撮られた穴が映されているだけだ。深すぎて光が届かないため、穴の底は見えていない。



 自衛隊員が固唾を飲み、穴の縁に立ち覗き込む。

誰も彼もがこの異常事態に混乱している。

 ただし例外は存在する。


 ただ指示のままに動き目の前の作業をこなす。そんな自衛隊員の顔には困惑や焦燥といった表情は無く、内心の無関心さが見て取れる。

 が、それを注意するような人はいない。それは至極当たり前の事で、作業に支障が出ないからである。

 むしろ、この場で正常でいられるのは一種の才能や現場の慣れともとれる。

 そして正しい。どんな時でも冷静な判断ができるのはそういう人たちなのだろうから。




 足下を這い回るのは穴から地上へと登ってきたアリたちで、いつもとなんら変わりない様にしか見えない。いつもと同じように巣穴から出て女王アリへと食料を届ける。その為に地上を練り歩く。

 もし、意思の疎通が出来たのなら穴の底がどうなっていたか分かるだろうか。

 それとも異変を異変と捉えていないのだろうか。

 少年期、アリの巣穴をいじったことがあるだろうか。それに対してアリはどのように捉えているのだろうか。ただ、今日も生き抜くために地上へ出て変わらない日常、食料調達へと赴くのだろうか。


 人間は考えなくてはいけない。考えてしまうのが人間だ。人間社会はそれで成り立っている。

 突き止めなければならない。この穴の正体を。


 日進月歩。

 道無き道を歩くのが人であり、その歩みを止めなければどこまでも行ける可能性を秘めた唯一の生物。これは歴史が既に証明している事実である。





 そして彼らは目撃する。闇に葬り去られたはずの人智の遺物を。大罪の禍根。

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