邂逅
ボクは服についた土を払い、クマさんに向き直る。
「ありがとう、助かったよ」
クマさんは笑顔で手をひらひらとさせながら口を開く。
「ええってええって、なんか物音がしたから様子見に来たら、まさかゆっきーがおるとは思わんかったわ。襲われてるから慌てて助けたってだけやしな」
ただ、とクマさんは真面目な顔になって問いかけてくる。
「ここどこなん?俺、仕事終わって家に帰ってる途中やったんやけど」
しかしその問いに対して、ボクは明確な答えを持ち合わせていない。
「ごめん、ボクもわからないんだよね…寝て起きたら見知らぬ丘にいて…」
ふうむ、と唸ってクマさんは続ける。
「俺は隠れ家の扉くぐったらこの森におったわ、普段から暗い道やから、油断したんかなぁ…くぐってきたはずの扉も消えとったし」
隠れ家、という言葉でスパイの仕事かなと思ったが、そこは深く突っ込まないことにした。やぶ蛇になりそうだったからだ。
「今回は情景収集系やったから、あんま大したもん持ってへんのよな」
「って、自分から言うんかい!聞かないようにしてたのに!」
「ははは、大事なとこは喋ってへんからセーフやセーフ」
そういうものなんだろうか、クマさん的に大丈夫なら大丈夫…なのか?
「結局ここがどこなのかわからないってことがわかったね…」
「どこなんやろなぁ、ほんまに」
二人して頭を捻ってみたが、結局は不明だった。
「ま、何にしてもや…」
途中で言葉を切ってから、ボクを見てニカッと笑う。
「腹減ったんやけど、あの兎っぽいの食えるんかなあ」
「えっ」
「ものは試しや、さばいてみよか」
「ちょ、えっ」
ボクが意味のある言葉を発する前に、クマさんはさっさと黒兎の死体があるであろう場所へ行ってしまった。
やがてそれを発見したのだろう、おーっという声がすると、少ししてクマさんは戻ってきた。
「なんかいけそうな気ぃするわ」
「マジ?」
既に首を落とされ、内蔵を出した後なのだろう、皮はまだついていたが、もはやただの肉塊になったそれを持ってきた。
「手ぇ汚れたんやけど、ゆっきー水場とか知らん?」
「あ、それならあっちに…」
「せんきゅー」
クマさんはボクの指さした方向へと歩いていく。
「ちょ、ちょっと待ってよー!」
慌ててボクはクマさんを追いかける。
相変わらずクマさんはマイペースだ。
「でも…」
クマさんがいてくれて良かった。不安に押しつぶされそうになっていた先程までと違って、ボクの気持ちは少し軽くなったのだった。
ちょっと短いけど、場面転換が入るのでここまで!